大学に入学するとだれもが必ずカベにぶつかると思いますが、私の場合は普通の人と卓球のスタイルが違うのでカベにぶつかる回数も多いし、また、カベも普通の人よりぶち破りにくいと思えたので、自分はこれからどのような方向に進むかを決めなければならないと思いました。私の場合、一枚ラバーを使用しているので、一枚ラバーの特徴を生かした卓球は、前陣速攻型のオールラウンドプレーが一番適しているのではないかと考えました。この考えの上にたって大学での卓球のスタートを切りました。
前陣でのフォアハンド強打を生かすにはフットワークが必要になってきます。しかし、フォアハンド一本では現代の速い卓球についていけません。自分の卓球をこの時点で見つめたとき、バックハンドを強化するよりもショートを強化したほうが自分の卓球を向上させていくのによいと思い、バック側の練習はおもにショート練習を行いました。
◇二つの課題と取り組んで
練習しているうちに、自分の卓球をのばしていく上に二つの大きな課題があることに気づきました。一つはスピードと安定性の問題。一つはいかに相手より早く攻撃するか。これはいまでもそうですし、これからも続く問題だと思っています。
私の場合は、スピードだけでいくのは危険が多いのでコースの研究もしました。コースをつくためにはグリップもフットワークも関係します。自分のグリップも変化していきました。フットワークも練習しました。この練習には多くの長所があります。ボールに安定性がでること、体力づくりになること、そして自分に克(か)つという精神面をも充実していくことなど。卓球において精神面は大きな比重を占めています。それは非常に複雑な競技でわずかのくるいが失点につながるからです。精神面の欠陥が試合の結果を大きく左右します。フットワーク練習は、私の課題である安定性を増すことだけでなく、いろいろな面でたいへん役にたったと思っています。
私の卓球の他の課題である“相手よりも早く攻撃する”ということは、相手もまたこちらよりも早く攻撃しようとしているのですから、非常にむずかしいことです。私の場合は、フォアハンドの強打が一番威力があるので、これを生かすのが私の卓球の最上の方法だと思いました。しかし、他の技術も上達しなければフォアハンド強打に結びつけることができないのです。大学入学当時は、補助武器としてショートを多用してきましたが、最近は理由はあとで述べるように、バックハンドを振るようにしています。
◇先手攻撃と打球点
最近の試合ではカット系のサービスが多い関係から、ツッツキや台上で2バウンド以上する返球が多くなっているので、ツッツキ打ちの練習や台上のボールの処理練習もしています。それはこの技術の上手下手(じょうずへた)によって相手よりも早く攻撃することができるかできないかが決まるからです。サービス・レシーブのうまさが、先手攻撃の主導権を握るということはいうまでもありません。しかし、ここで考えなければいけないことは、なんでも先に攻撃すればいいのかというとそうではなく、確率計算が行われた上でなければ危険であると思います。それは強打するのが困難なボールもあるはずだからです。だから練習によって確率を高めなければいけないし、練習によって打ってもいいボールと強打してはならないボールと球質を見わけることも習得しなければいけないと思います。それには打球点が問題になってきます。私の場合は一番高いところがよいので、練習においてもこの点には特別に注意して練習しました。
一枚ラバーの選手に私の経験から忠告しますが、打球点を落としたらほとんどといっていいぐらい確率が悪くなります。私の調子の悪いときは打球点の落としすぎかミートが悪いときです。しかし、これは一枚ラバーの選手だけでなく、卓球選手全体にいえるあたりまえのことと思いますが、これが案外むずかしく、守られていないことが多いと思います。
◇バックハンドの必要性を痛感
第29回世界選手権大会に参加して、外国の選手、特にヨーロッパのシェークハンドの選手が実に上手にバックハンドを振るのを目の当たりに見ました。私のいままでの卓球と比較してみて、ここらになにか自分の卓球の欠点があるように感じ、帰国後はバックハンドの練習を前よりも多くやりました。グリップの関係やスナップの使い方等がうまくいかないために、グリップをかえてみました。するといままで振りやすかったフォアハンドが振りにくくなってしまい、調子をくずしてしまいました。やはり自分のスタイルはフォアハンド強打であるので、あくまでもフォアハンド主戦のオールラウンドプレーを目ざすことにしました。しかし、グリップをかえてバックハンドを練習したおかげで、いくらかバックハンドの振り方がわかってきたことは大きな収穫でした。同時に、自分の武器となる主戦の技術を習得しなければいけないという大きな教訓を与えられました。この教訓によって、昨年の10月中旬から11月の上旬にかけてフォアハンドの練習を徹底的に行いました。これが全日本学生選手権で、先輩の鍵本さんを破って優勝できた理由の一つだと思っています。
全日本硬式の試合が終わったあと、欠点であるバックハンドの練習を多くやりました。そのときでもバックハンドだけの練習でなく、バックハンドやフォアハンドとの関連サービスと、バックハンドレシーブからバックハンドスマッシュというように、連けいプレーの練習と切りかえ練習を注意しながらやりました。このように目標を決めて練習したことが、東京選手権の優勝に結びついたのではないでしょうか。
これから自分は、練習していきたいものが山ほどあってたいへんなのですが、主戦武器はもちろん、山ほどある中から、特にバックハンドの強打と安定性、フットワーク、それにサービスを練習していきたいと思います。
ボールの威力というものは相対的なものであって絶対的なものとは自分では思っていません。なぜなら、切れたカットボールを打つことの下手な選手には切れたカットボールが威力がありますが、そのボールを打つことの上手な選手には威力があまりなくなるからです。しかしスピードボールの場合は、絶対的に近いものを持つ可能性が強いものです。人間の瞬間的に動く能力には限界があります。ですから、いまの段階においては、絶対的に近いものをもつ可能性の強いスピードボールを追い求める前陣速攻を主体にしたオールラウンドプレーをめざしています。
これから伸びる中学・高校のみなさんに、私なりの考えをいわせてもらうなら、①どんな戦型の選手になるかは、みなさんが考えて決めることですが、主戦武器の練磨と並行して、いろいろな技術の習得が大切 ②フットワークおよびトレーニングはぜひ必要 ③考えて練習をする人となにも考えないで練習する人とでは、上達の速度がたいへん違う、ということです。みなさんが1本1本をもっと大切にして練習されることを望みます。
かわはら さとし 早稲田大4年。主将。神奈川・横浜商出。
21歳。右利き、シェーク、一枚ラバーの攻撃選手。
身長170センチ、体重60キロ。
全日本学生チャンピオン。東京選手権者。
(1968年6月号掲載)
前陣でのフォアハンド強打を生かすにはフットワークが必要になってきます。しかし、フォアハンド一本では現代の速い卓球についていけません。自分の卓球をこの時点で見つめたとき、バックハンドを強化するよりもショートを強化したほうが自分の卓球を向上させていくのによいと思い、バック側の練習はおもにショート練習を行いました。
◇二つの課題と取り組んで
練習しているうちに、自分の卓球をのばしていく上に二つの大きな課題があることに気づきました。一つはスピードと安定性の問題。一つはいかに相手より早く攻撃するか。これはいまでもそうですし、これからも続く問題だと思っています。
私の場合は、スピードだけでいくのは危険が多いのでコースの研究もしました。コースをつくためにはグリップもフットワークも関係します。自分のグリップも変化していきました。フットワークも練習しました。この練習には多くの長所があります。ボールに安定性がでること、体力づくりになること、そして自分に克(か)つという精神面をも充実していくことなど。卓球において精神面は大きな比重を占めています。それは非常に複雑な競技でわずかのくるいが失点につながるからです。精神面の欠陥が試合の結果を大きく左右します。フットワーク練習は、私の課題である安定性を増すことだけでなく、いろいろな面でたいへん役にたったと思っています。
私の卓球の他の課題である“相手よりも早く攻撃する”ということは、相手もまたこちらよりも早く攻撃しようとしているのですから、非常にむずかしいことです。私の場合は、フォアハンドの強打が一番威力があるので、これを生かすのが私の卓球の最上の方法だと思いました。しかし、他の技術も上達しなければフォアハンド強打に結びつけることができないのです。大学入学当時は、補助武器としてショートを多用してきましたが、最近は理由はあとで述べるように、バックハンドを振るようにしています。
◇先手攻撃と打球点
最近の試合ではカット系のサービスが多い関係から、ツッツキや台上で2バウンド以上する返球が多くなっているので、ツッツキ打ちの練習や台上のボールの処理練習もしています。それはこの技術の上手下手(じょうずへた)によって相手よりも早く攻撃することができるかできないかが決まるからです。サービス・レシーブのうまさが、先手攻撃の主導権を握るということはいうまでもありません。しかし、ここで考えなければいけないことは、なんでも先に攻撃すればいいのかというとそうではなく、確率計算が行われた上でなければ危険であると思います。それは強打するのが困難なボールもあるはずだからです。だから練習によって確率を高めなければいけないし、練習によって打ってもいいボールと強打してはならないボールと球質を見わけることも習得しなければいけないと思います。それには打球点が問題になってきます。私の場合は一番高いところがよいので、練習においてもこの点には特別に注意して練習しました。
一枚ラバーの選手に私の経験から忠告しますが、打球点を落としたらほとんどといっていいぐらい確率が悪くなります。私の調子の悪いときは打球点の落としすぎかミートが悪いときです。しかし、これは一枚ラバーの選手だけでなく、卓球選手全体にいえるあたりまえのことと思いますが、これが案外むずかしく、守られていないことが多いと思います。
◇バックハンドの必要性を痛感
第29回世界選手権大会に参加して、外国の選手、特にヨーロッパのシェークハンドの選手が実に上手にバックハンドを振るのを目の当たりに見ました。私のいままでの卓球と比較してみて、ここらになにか自分の卓球の欠点があるように感じ、帰国後はバックハンドの練習を前よりも多くやりました。グリップの関係やスナップの使い方等がうまくいかないために、グリップをかえてみました。するといままで振りやすかったフォアハンドが振りにくくなってしまい、調子をくずしてしまいました。やはり自分のスタイルはフォアハンド強打であるので、あくまでもフォアハンド主戦のオールラウンドプレーを目ざすことにしました。しかし、グリップをかえてバックハンドを練習したおかげで、いくらかバックハンドの振り方がわかってきたことは大きな収穫でした。同時に、自分の武器となる主戦の技術を習得しなければいけないという大きな教訓を与えられました。この教訓によって、昨年の10月中旬から11月の上旬にかけてフォアハンドの練習を徹底的に行いました。これが全日本学生選手権で、先輩の鍵本さんを破って優勝できた理由の一つだと思っています。
全日本硬式の試合が終わったあと、欠点であるバックハンドの練習を多くやりました。そのときでもバックハンドだけの練習でなく、バックハンドやフォアハンドとの関連サービスと、バックハンドレシーブからバックハンドスマッシュというように、連けいプレーの練習と切りかえ練習を注意しながらやりました。このように目標を決めて練習したことが、東京選手権の優勝に結びついたのではないでしょうか。
これから自分は、練習していきたいものが山ほどあってたいへんなのですが、主戦武器はもちろん、山ほどある中から、特にバックハンドの強打と安定性、フットワーク、それにサービスを練習していきたいと思います。
ボールの威力というものは相対的なものであって絶対的なものとは自分では思っていません。なぜなら、切れたカットボールを打つことの下手な選手には切れたカットボールが威力がありますが、そのボールを打つことの上手な選手には威力があまりなくなるからです。しかしスピードボールの場合は、絶対的に近いものを持つ可能性が強いものです。人間の瞬間的に動く能力には限界があります。ですから、いまの段階においては、絶対的に近いものをもつ可能性の強いスピードボールを追い求める前陣速攻を主体にしたオールラウンドプレーをめざしています。
これから伸びる中学・高校のみなさんに、私なりの考えをいわせてもらうなら、①どんな戦型の選手になるかは、みなさんが考えて決めることですが、主戦武器の練磨と並行して、いろいろな技術の習得が大切 ②フットワークおよびトレーニングはぜひ必要 ③考えて練習をする人となにも考えないで練習する人とでは、上達の速度がたいへん違う、ということです。みなさんが1本1本をもっと大切にして練習されることを望みます。
かわはら さとし 早稲田大4年。主将。神奈川・横浜商出。
21歳。右利き、シェーク、一枚ラバーの攻撃選手。
身長170センチ、体重60キロ。
全日本学生チャンピオン。東京選手権者。
(1968年6月号掲載)