~「よし!全日本にかけよう」~
「よし!全日本にかけよう」と決意したのは、10月14日から19日まで青森で行われたオリンピック・アジア・ゼネラルゾーン日本代表選考会が終わってからでした。選考会の成績が10勝12敗の14位と、みじめな結果に終わったからです。
3年連続全日本の決勝で敗れた'84年末、病気(肝炎)のため入院加療して以来、全日本ではベスト16、8といま一つ成績は伸びませんでした。選考会後に行われた日本リーグ(実業団)でも不本意な成績でしたし、「今年だめだったら、年齢的にきびしくなるし、もう終わりかな」という危機感でいっぱいでした。
「これではいかん。今年の全日本にすべてをかけて臨もう」と、前年2位だった男子ダブルスも辞退し、シングルス一本に的をしぼりました。周りでは、「もったいない」という声もありました。
確かに、パートナーの村上さん(川鉄千葉)には大変申し訳ないと思いましたが、私の気持ちは変わりませんでした。
~大会前の重点練習内容~
全日本選手権の組み合わせを知った時点で、林さん(シチズン時計)か西村さん(三新化学)、渡辺君(協和発酵)、斎藤君(日産自動車)...と、左のドライブ型との対戦が予想されました。
そこで、大会前は"対左のドライブ型"を考え、次の練習に重点をおいて取り組みました。
1.ショートの位置(コートからの距離)
オリンピック選考会で、ショートする位置がコートからさがりすぎているのに気づき、コート上でインパクトできるように、ショートする時の位置を前にとるように努めました。
2.レシーブ+4~6球目攻撃
レシーブでは、特にバック前へのサービスを回り込んで払うレシーブに力を入れました。
レシーブの構える位置がコートから離れすぎると、ショートサービスが払いづらくなり、あまり近すぎると、フォアへのロングサービスを出された時、斜め後ろにさがり気味になってしまいます。バック前とフォアへのロングサービス両方がうまくレシーブできる位置を探しました。私の場合、コートから50cmぐらいの位置です。
払うコースは、ストレート(左利きのバックへ)を基本にして、クロスにも払います。払う時は、しっかりふみ込むように気をつけました。
●バック前のサービスをストレートに払った場合
オールにショートしてもらい、フォアハンド攻撃。それをフォア、バック両サイドにドライブをかけてもらったのをフォアハンド攻撃
●バック前のサービスをクロスに払った場合
㋑ストレート(フォア)にきた時は、バウンド直後をとらえてカウンター気味にクロスへ返し、それをしのいでもらったのを両ハンド攻撃
㋺バックにきた時は、入れるだけにならないように、プッシュ性ショートで押してからの攻撃
●フォアハンドサービスをフォアに出された場合
㋑下回転サービスは、フォア前にストップ。それを速いタイミングでバックに大きくツッツいてもらい、ミドルへツッツキ打ち。それをしのいでもらって、フォアハンド攻撃
ストップする場合、腕をいっぱいに伸ばしてインパクトするといいストップはできません。しっかりふみ込んで、目をボールに近づけるようにして打球することが大切です。
㋺横回転サービスに対しては、基本的にはクロスに払う
相手にクロスとわかっていても、強ドライブをかけさせないように、速いタイミングで払います。
3.サービス+3~5球目攻撃
最近は左の選手に対して、バックハンドサービスが使えず、後半は慣れられて5ゲームを戦うのは大変でした。そこでバックハンドサービスを主体に練習しました。
バックハンドサービスをバック前に出し、オールに返してもらい(相手は㋑ツッツキ、㋺払う)、フォアハンドで待つ方法と両ハンドで待つ方法
㋑下回転系のサービスを出した場合は、フォアハンドで待つ
㋺斜め上や横回転サービスを出した場合は、強く払われることが多いので、両ハンドで待つ
以上が主な練習内容です。が、ムダな練習をしてもしかたがありません。あくまで、試合で使う技術、最後にどれを使うかを考えて取り組みました。
4.イメージトレーニング
上記の練習を毎日すべてやろうとしても、ムリがあります。ボールを打たない時は、「後半、あの選手はこのサービスでくる。だから、こうする。それをこうきたら、こうしよう」と、相手のプレーを読み、イメージトレーニングに努めました。
同じ左の選手といっても、一人ひとり、サービスの組み立ても異なり、攻めのパターンも少しずつ違います。常に対戦相手を頭にうかべて、あれこれ考えました。
~チャンピオンとしての自覚と責任~
大会に入った時の調子は特別良い方でもなく、悪くもありませんでした。
以前は、自分なりに目いっぱいやりこみ、疲労気味の状態で大会に臨んでいましたが、今回は、ダブルスを辞退したこともあって、うまく疲労をとりのぞくことができたようでした。
前回までは、どうしても「決勝まではいかなければ」という力みがあったり、勝ちたい意識が強すぎたように思います。そのため、守りが多くなり、ドライブが多かった気がします。そこで、今回はドライブを少なくし、ツッツキに対しても強打を多用するよう努めました。
ドライブを使うと、自分より下位選手には負けませんが、強い選手には分が悪くなります。「たとえ1~2回戦で負けてもいいから、練習してきた作戦で思いきり戦おう」という気持ちで臨みました。
不思議と、大会が始まった後は何も考えず、夢中で戦うことができました。
その結果、夢にまで見た全日本で優勝することができました。卓球をやってきて本当によかったと思っています。「もうチャンスはない」と思っていたのに、「何事もあきらめてはいけない」とつくづく感じています。これからは、チャンピオンの自覚と責任をもって取り組む覚悟です。
さしあたっての目標は、5月に行われるアジア選手権に向けています。オリンピックに出場する選手たちもかなり来日するはずですので、思いきり戦いたいと思っています。前回の世界大会では団体戦に出場できませんでしたが、今度は団体戦に出て何としても優勝できるように全力を尽くして取り組みたいと思っています。そのためには、体力面の強化が最大の課題です。
再び世界に挑戦する気持ちを抱きつつ。
ぬかづかじゅうぞう
川鉄千葉
'87年全日本単優勝
(1988年4月号掲載)
「よし!全日本にかけよう」と決意したのは、10月14日から19日まで青森で行われたオリンピック・アジア・ゼネラルゾーン日本代表選考会が終わってからでした。選考会の成績が10勝12敗の14位と、みじめな結果に終わったからです。
3年連続全日本の決勝で敗れた'84年末、病気(肝炎)のため入院加療して以来、全日本ではベスト16、8といま一つ成績は伸びませんでした。選考会後に行われた日本リーグ(実業団)でも不本意な成績でしたし、「今年だめだったら、年齢的にきびしくなるし、もう終わりかな」という危機感でいっぱいでした。
「これではいかん。今年の全日本にすべてをかけて臨もう」と、前年2位だった男子ダブルスも辞退し、シングルス一本に的をしぼりました。周りでは、「もったいない」という声もありました。
確かに、パートナーの村上さん(川鉄千葉)には大変申し訳ないと思いましたが、私の気持ちは変わりませんでした。
~大会前の重点練習内容~
全日本選手権の組み合わせを知った時点で、林さん(シチズン時計)か西村さん(三新化学)、渡辺君(協和発酵)、斎藤君(日産自動車)...と、左のドライブ型との対戦が予想されました。
そこで、大会前は"対左のドライブ型"を考え、次の練習に重点をおいて取り組みました。
1.ショートの位置(コートからの距離)
オリンピック選考会で、ショートする位置がコートからさがりすぎているのに気づき、コート上でインパクトできるように、ショートする時の位置を前にとるように努めました。
2.レシーブ+4~6球目攻撃
レシーブでは、特にバック前へのサービスを回り込んで払うレシーブに力を入れました。
レシーブの構える位置がコートから離れすぎると、ショートサービスが払いづらくなり、あまり近すぎると、フォアへのロングサービスを出された時、斜め後ろにさがり気味になってしまいます。バック前とフォアへのロングサービス両方がうまくレシーブできる位置を探しました。私の場合、コートから50cmぐらいの位置です。
払うコースは、ストレート(左利きのバックへ)を基本にして、クロスにも払います。払う時は、しっかりふみ込むように気をつけました。
●バック前のサービスをストレートに払った場合
オールにショートしてもらい、フォアハンド攻撃。それをフォア、バック両サイドにドライブをかけてもらったのをフォアハンド攻撃
●バック前のサービスをクロスに払った場合
㋑ストレート(フォア)にきた時は、バウンド直後をとらえてカウンター気味にクロスへ返し、それをしのいでもらったのを両ハンド攻撃
㋺バックにきた時は、入れるだけにならないように、プッシュ性ショートで押してからの攻撃
●フォアハンドサービスをフォアに出された場合
㋑下回転サービスは、フォア前にストップ。それを速いタイミングでバックに大きくツッツいてもらい、ミドルへツッツキ打ち。それをしのいでもらって、フォアハンド攻撃
ストップする場合、腕をいっぱいに伸ばしてインパクトするといいストップはできません。しっかりふみ込んで、目をボールに近づけるようにして打球することが大切です。
㋺横回転サービスに対しては、基本的にはクロスに払う
相手にクロスとわかっていても、強ドライブをかけさせないように、速いタイミングで払います。
3.サービス+3~5球目攻撃
最近は左の選手に対して、バックハンドサービスが使えず、後半は慣れられて5ゲームを戦うのは大変でした。そこでバックハンドサービスを主体に練習しました。
バックハンドサービスをバック前に出し、オールに返してもらい(相手は㋑ツッツキ、㋺払う)、フォアハンドで待つ方法と両ハンドで待つ方法
㋑下回転系のサービスを出した場合は、フォアハンドで待つ
㋺斜め上や横回転サービスを出した場合は、強く払われることが多いので、両ハンドで待つ
以上が主な練習内容です。が、ムダな練習をしてもしかたがありません。あくまで、試合で使う技術、最後にどれを使うかを考えて取り組みました。
4.イメージトレーニング
上記の練習を毎日すべてやろうとしても、ムリがあります。ボールを打たない時は、「後半、あの選手はこのサービスでくる。だから、こうする。それをこうきたら、こうしよう」と、相手のプレーを読み、イメージトレーニングに努めました。
同じ左の選手といっても、一人ひとり、サービスの組み立ても異なり、攻めのパターンも少しずつ違います。常に対戦相手を頭にうかべて、あれこれ考えました。
~チャンピオンとしての自覚と責任~
大会に入った時の調子は特別良い方でもなく、悪くもありませんでした。
以前は、自分なりに目いっぱいやりこみ、疲労気味の状態で大会に臨んでいましたが、今回は、ダブルスを辞退したこともあって、うまく疲労をとりのぞくことができたようでした。
前回までは、どうしても「決勝まではいかなければ」という力みがあったり、勝ちたい意識が強すぎたように思います。そのため、守りが多くなり、ドライブが多かった気がします。そこで、今回はドライブを少なくし、ツッツキに対しても強打を多用するよう努めました。
ドライブを使うと、自分より下位選手には負けませんが、強い選手には分が悪くなります。「たとえ1~2回戦で負けてもいいから、練習してきた作戦で思いきり戦おう」という気持ちで臨みました。
不思議と、大会が始まった後は何も考えず、夢中で戦うことができました。
その結果、夢にまで見た全日本で優勝することができました。卓球をやってきて本当によかったと思っています。「もうチャンスはない」と思っていたのに、「何事もあきらめてはいけない」とつくづく感じています。これからは、チャンピオンの自覚と責任をもって取り組む覚悟です。
さしあたっての目標は、5月に行われるアジア選手権に向けています。オリンピックに出場する選手たちもかなり来日するはずですので、思いきり戦いたいと思っています。前回の世界大会では団体戦に出場できませんでしたが、今度は団体戦に出て何としても優勝できるように全力を尽くして取り組みたいと思っています。そのためには、体力面の強化が最大の課題です。
再び世界に挑戦する気持ちを抱きつつ。
ぬかづかじゅうぞう
川鉄千葉
'87年全日本単優勝
(1988年4月号掲載)