練習したいのに練習ができない。そんな時は何をするのがよいのでしょうか。ここではイメージトレーニングと「レミニッセンス効果」というものについて、吉澤洋二先生に解説していただきました。
レミニッセンス効果とは?
練習ができない時は、どうしても気持ちが焦ってしまうものだと思います。しかし、焦ったところで、よいことはありません。それよりも、練習を再開できる時のために、練習ができない時をどう過ごせばよいのかを考えることが大切です。そこで、練習ができない時にやるべきことについて考えてみましょう。
ところで、みなさんはこんな経験をしたり、話を聞いたことはありませんか。
「しばらく休んでいたが、復帰して練習に参加したとき、身体が軽く感じた。よく動くことができ、練習してもなかなか上達できなかった技術ができるようになっていた」
不思議に思われるでしょうが、実は、これには理由があるのです。
日頃、練習をしても思うように技術を習得できない時があると思いますが、その原因として、次のようなことが考えられます。
①練習に熱心に取り組むことで疲労がたまっている
②技術を早く習得しようと焦り、大切な練習ポイントを理解していない
熱心に取り組むあまり、心に余裕がないまま練習をしている場合があるわけです。このような状況に陥った時に、練習ができなくなると、次のようなことが起こることがあります。
①しばらく身体を休めることで、疲れをしっかりとることができる
②いったん立ち止まって考えることで、技術や練習のポイントなどを理解することができる
その結果、練習に復帰した時に今まで以上の動きができるようになったとか、なかなかマスターできなかった技術がうまくできたということが起こり得るのです。
このような現象を「レミニッセンス効果」と呼びます。
イメージトレーニングによって
レミニッセンス効果が高まる
打球練習ができる時に、あえてイメージトレーニングを取り入れることは少ないでしょうが、練習ができない時にこそ、イメージトレーニングを大いに導入しましょう。イメージづくりをする場合、目的をはっきりしておくことが大切です。
イメージトレーニングには、大きく3つの取り組み方が考えられます。この3つの取り組みについて、それぞれのポイントや注意点を理解しておきましょう。
①個人の技術向上のためのイメージトレーニング
技術をマスターするための練習のポイントやフォーム(動作)をしっかりイメージすることを繰り返し行うことで、よりはっきりと動作を理解できるようになります。特に、その技術を上手に行っている選手の動画などをよく見て、それを参考にイメージづくりをするとよいでしょう。
②コンビネーション向上のためのイメージトレーニング
ダブルスでペアを組むチームメートとのコンビネーションをスムーズにするために、実際のゲームを想定した動きをイメージすることによって、試合中に動きの迷いが生じないようにすることが可能です。
③対戦相手を想定したイメージトレーニング
イメージを使って対戦をシミュレートすることが、練習再開後に効果を発揮することでしょう。具体的な対戦相手を想定したイメージトレーニングによって、戦術通りに正確な動きを行えるよう備えておきましょう。
練習ができないから何もできないわけではなく、練習が再開した時のことを想定し備えておくことが大切です。練習ができないから「だめだ」と考えるのではなく、「身体を休めていろいろな知識を得る時間ができた」「イメージトレーニングの時間がとれた」と考えることがよいでしょう。そして、練習再開後の新たな目標を設定し、この目標設定とイメージトレーニングによって、継続した取り組みが可能となるでしょう。
【解説】吉澤洋二
名古屋経済大学教授。日本卓球協会スポーツ医・科学委員(スポーツ心理担当)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ/卓球)。日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士。ソウルオリンピック、バルセロナオリンピック、シドニーオリンピック、世界卓球選手権大阪大会でナショナルチームのメンタルサポートを担当。近年は主としてジュニアナショナルチームのメンタルサポートを担当。
イラスト=林とら子