18歳にして女子で初の2年連続三冠という偉業を達成した伊藤美誠(スターツSC)。準決勝の早田との対戦では、相手のプレーを封じるクレバーな戦いぶりで完封。決勝では14歳の木原の挑戦を貫禄あるプレーで退けた。落としたゲームでは気の緩みは見られたものの、立て直しの早さ、集中したときの強さは、逆に伊藤のメンタルの強さを印象づけたのではないだろうか。
●女子シングルス決勝
伊藤美誠(スターツSC) 11,9,6,-9,5 木原美悠(JOCエリートアカデミー)
―今の率直な気持ちは?
まずは三冠できたこともすごく嬉しいですし、シングルスで最後に優勝できてホッとしたという感じですね。もちろん、うれしい気持ちもすごくあるんですけど、やっぱり、ミックスダブルスと女子ダブルスを優勝してきてから三冠、三冠という言葉をすごくたくさん言われてきて、それはプレッシャーというよりかは「もうちょっとで三冠かあ」という感じだったので、私の中では目の前の試合を1試合1試合をやり切るということしか意識してなかったですし、去年と一緒で目の前の試合に集中することができたので、気持ちの状態というのは保てましたし、更に去年よりも良かったかなとは思っています。
―一昨日のインタビューで「決勝の舞台は楽しんだ者勝ち」と言っていましたが、楽しめましたか?
めちゃめちゃ楽しかったです。なかなか決勝の舞台で年下の選手と対戦することって今の年齢だと少ないことなので、改めて今の卓球の女子のレベルの層が厚いなと思ったのと、もちろん、誰にも負けたくないんですけど、それ以上に年下の選手に負けたくないって思いました。優勝をとられたくないという強い気持ちがすごくあったので、まずは、目の前のポイントをどういうふうに取るかっていうのをしっかり考えて、そして勝つことができて、よかったなと思っています。
―全選手が伊藤選手を倒すために血眼になってやってきているのを肌で感じたと思うが、それについてはどう感じましたか?
去年、三冠したおかげで、私の中でもすごく自信がありましたし、毎回言っていたように、自分の実力が出せれば絶対に大丈夫って信じてやってきたので、自分を信じてよかったなと思いました。
どの選手も私を倒すという目的でやって来るので、それ以上に私は楽しめたことが1番だったかなと思います。もちろん、勝ちたい気持ちというのはあるんですけど、私は勝つ勝つというよりかは、楽しんだ方が勝てると思っているので、自分のプレーをして楽しもうと思ってたら、こうやって三冠を獲れました。
―準決勝の早田選手との試合で、第1ゲーム、伊藤選手がレシーブでアグレッシブにいって2点取ったというのが、会場の空気感を変えたように感じました。立ち上がりはどのような意識でプレーしたのですか?
お互いに試合をする機会は少ないんですけど、もちろん、練習もたくさんしてますし、ダブルスも組んでお互いを知っているので、どう入って来るかというのはお互いの読みだと思います。
私の中では目の前の1本をどうやって取るかと、ずっと言っていた1ゲーム目というのを先手を取りたいと言っていたので、1ゲーム目は絶対に取らないとという思いで1本目から思い切ってできました。私のいいところはジュースで思い切ってできるところだと思いますが、最初から思い切って怖がらずにできるのが一番かなと思ったので、早田選手と試合した時は準決勝だったんですけど、決勝戦だと思って戦いました。
―中国選手と対戦するときは第1ゲームを取らないと、とずっと言っていました。その意識を持ち続けたことがこういう舞台で出せたという感じですか?
私は結構スロースターターだったので、相手の様子を見るというか自分のプレーを探しながらやるって感じだったんですけど、今は自分がどうやってやればいいかというのもわかりますし、相手も自分の卓球を身につけているので、最初の入りを迷わずできます。
今大会のシングルスは初戦があまり良くはなかったので、絶対1ゲーム目を取るという強い思いで1ゲーム目に臨めたというのはありますね。
―それは決勝戦の木原さんとの時も同じようなに臨みましたか?
もちろん、そうです。やっぱり、誰とやっても1ゲーム目はものすごく大事ですし、1ゲーム目で流れが変わるときがあるので、やはりなるべく自分の流れにもっていきたいです。中国人選手と差を感じても1ゲーム目を取れれば、もしかしたらチャンスあるかもしれないと思って小さい頃から頑張ってきたので、そういうところが今大会で出せたかなと思います。
―優勝インタビューで「私、強くなった」と言った。具体的にどんなところですか?
もちろん、卓球面でも実力はどんどんついてきているとは思うんですけど、一番は気持ちの強さが前よりもぐんと上がりました。切り替えの早さ、前よりも1ゲーム取られた後の切り替えだったり、決勝も4ゲーム目9-3で勝っているところからの9-11で負けてしまったんですけど、いつもだったら頭が白くなっちゃったりするので、そこを落ち着いて切り替えられたというのは本当に成長した部分だなと思いました。
強い気持ちを持っておくとプレーもそうですし、私らしいなと改めて思うので、気持ちの面が強くなったと思いました。
―気持ちの面で強くなったのは、この1年でなにかきっかけがあったのですか?
たくさん試合に出さしてもらっている中で、悪い展開のときは、やっぱり自分から落ち込んでいくというか。いいときは笑っていたりとか、楽しんだりしているんですけど、やっぱり悪いときになってくると、だんだん笑わなくなったり、表情も暗くなってたりしてるので、そういう反省を生かして、どんなときでも笑ってたり、楽しもうっていう気持ちを忘れずにやってるという感じです。
―この1年、どのように過ごしたいですか?
去年もこの三冠からスタートで、すごい自信にもなりましたし、中国人選手ともたくさん対戦して、たくさん勝てて、いい経験をたくさんさせてもらったので、今年は中国人選手に何度でも連続して勝てるようになるっていう実力を持てる選手になることと、オリンピックの選考シーズンになってくるので、一番大事なのは世界ランキングを上げるために、ツアーの1試合1試合を大事に目の前の試合を楽しんで、そして、1年間やり切りたいなと思っています。
―2015年にそういう争いを経験しているが、その時の気持ちの持ち方と今とは違いますか?
前回のオリンピックのときは、私が出場できると思っていませんでしたが、選考シーズンのあと4カ月というところで世界ランキングが上がったのでプレッシャーはありませんでした。逆に後もうちょっとというところで、少し押しつぶされてしまったりとか体調を崩してしまったりとかがあったので、今年は大会等をしっかり考えて体調面を万全に、毎回毎回の試合をやり切って、そしてちゃんと出場権を自分の手でつかみ取りたいなと思っています。
―去年の三冠と今年の三冠は、自分の中で何が一番違いますか?
去年は特に三冠できると思っていませんでした。準決勝、決勝で石川選手、平野選手に勝てたことが、なかなか勝ったことがない選手だったので、うれしい気持ちもありましたが、びっくりっていうのが一番でした。
あとは、平野選手も全日本の準決勝で結構前の全日本で負けてしまっているのが、全日本の負けはここでしか返せないという強い思いを持って対戦できました。
今年はいろんな方に「三冠取って来てね」とすごくうれしい言葉で、「頑張ってね」という言葉もあったんですけど、自分の中では目の前の1戦しか考えてなくて、誰が来ても自分のプレーをするいうのをすごく考えていたので、徹底して自分のプレーができたと思います。
去年はもちろん楽しかったんですけど、去年の方が優勝したいという気持ちが強かったです。今年はとにかく楽しもうというのが一番で、今年の方が全く緊張もしませんでしたし、1ゲーム目のジュースになったときとか、勝ちたいという気持ちはもちろんあるんですけど、それよりも楽しんだほうが勝てそうだなというのは思いました。
去年はすごく調子が良かったので、ゾーンに入ったら「ここからは大丈夫だな」というのはあったんですけど、今年は初戦もあまり思い通りにいかなかったり、段々、ミックスダブルス、女子ダブルスをやっていくうちに調子が上がってきました。どちらもうれしい三冠ではあるんですけど、今年の方が楽しめたし、ほっとした三冠でした。
―1ゲーム目が大事ということですが、決勝の第1ゲームの10−11で木原選手がタイムアウトを取りましたがそのときの心境とコーチと何を話されたかを教えてください。
まだ1ゲーム目なので、今どうやってプレーしてきたかということを話したり、相手は1ゲーム目を取りたいという思いでタイムアウトを取ってきていると思ったので、「あ、攻めに来てるな」と思い、私も負けじと攻めようと思いました。
結構、ラリーで上から押される場面がたくさんあったので、同じタイプの戦型なので難しいところはあったんですが、押されっぱなしではだめだと思ったので、攻める卓球にしたという感じです。
―木原選手の印象は?
あまりプレーを一緒にしたことがありませんが、同じ戦型でもあるので、お互いに分かるところがあったと思います。木原選手は今大会すごい思い切って来られたと思いますし、全日本で決勝まで来ているので、気持ちの強い選手だと思いました。でも、私も相手が年下と思わずに挑戦者のつもりで臨めたので、気持ちの部分では負けてはいなかったと思います。
―決勝の第4ゲームで、木原選手に逆転された場面を振り返っていかがですか?
9対3という点数だったので、木原選手にも思い切ってこられましたし、サービスを出しても一発でやられたり、私の中では「そろそろやばいな」というのは感じていましたが、何をされて点数を取られたのか全然わかりませんでした。
取られはしましたが、しっかりそのゲームを忘れて、次のゲームを絶対取るという気持ちで戦えました。気持ちの切り替えが早くなったので、流れを相手に持っていかれずに、しっかり引き戻せたのだと思います。強いて言えば、しっかり4対0で勝てる場面だったかなと思います。
―9対3から追い上げられていく中で心境の変化はありましたか?
もちろん4対0でしっかり勝ちたかったので、点数が近づくにつれ「そろそろやばいな」とは思ったんですけど、頭が真っ白にはならなかったので、焦りは全然感じませんでした。
以前だったら、次のゲームもどう入ったらいいのかわからないままだったと思いますが、挽回されても落ち着いていた分、切り替えも早くできました。焦りもなく、どこかで「大丈夫だな、取り戻そう」という思いがあったので、落ち着いてプレーできました。
(まとめ・写真=佐藤孝弘)
詳しい試合の結果は大会公式サイトでご確認ください。
全日本卓球:http://www.japantabletennis.com/zennihon2019/