いよいよ2022年全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)が1月24日より東京体育館で開催される。東京での開催は4年ぶりとなる。
昨年は、新型コロナウイルスへの感染対策の一環としてダブルス種目が中止されたが、今大会から復活。また、24日から28日までは無観客だが、終盤の29日と30日は有観客で行われる。
卓球レポートでは大会に先駆けて、女子ナショナルチームの前監督であり、自身も全日本卓球選手権大会(以下、全日本)女子シングルスで通算7度の優勝を誇る馬場美香氏に、女子シングルスとジュニア女子の見どころを聞いた。
ここでは、女子シングルスの優勝の行方を占ってもらった。
【第1ブロック】
経験豊富で接戦に強い石川佳純が一歩リード
加藤美優、大藤沙月らがどこまで迫るか
女子シングルスの見どころについて私なりの見解をお話ししていきます。
第1ブロックでは、昨年優勝の石川佳純(全農)が一歩リードしています。石川に、加藤美優(日本ペイントマレッツ)、大藤沙月(四天王寺高)、南波侑里香(日本ペイントマレッツ)らが挑戦する形になるでしょう。
女子NT(ナショナルチーム)の監督として石川を長く見てきましたが、私が思う彼女の強みは、競り合いになるほど強気なプレーができることです。加えて、今大会でV6を狙う石川は、全日本に向けての調整にも十分長けていると思います。接戦に強く、全日本での経験も豊富な石川は、優勝候補の柱の一人でしょう。
順当に勝ち上がれば、その石川とベスト8決定(6回戦)で対戦する加藤も注目の選手です。バックハンドがとてもうまく、スマッシュが打てて独自性の高いサービスを持つ加藤のプレースタイルは脅威です。石川対加藤が実現したら注目の一戦になるでしょう。
そのほかで私が注目しているのは、木村香純(専修大)です。木村はTリーグでも大物選手をたびたび倒しているので、上位を狙っていると思います。
変化の激しいツッツキとカットを武器にする小塩遥菜(JOCエリートアカデミー/星槎)、全中(全国中学校卓球大会)女子シングルス2位の篠原夢空(貝塚第二中)ら期待の若手もどこまで勝ち上がるのか注目しています。
【第2ブロック】
強豪が集うが、成長著しい早田ひなが最有力
対抗は長﨑美柚、橋本帆乃香
実力者が集まり、激戦が予想されるブロックですが、やはり早田ひな(日本生命)がこのブロックを勝ち抜く本命です。
ここ最近の彼女の成長ぶりには目を見張るものがあります。もともとバックハンド系の技術が鋭くて、中陣でもプレーできるパワーが早田の持ち味でしたが、ここにきて台上や攻めの早さに磨きがかかってきました。また、相手に攻撃されてもカウンター気味にブロックする技術も向上しており、相手からすると早田はとても攻めにくくなりました。そのため、早田がこの激戦ブロックをリードしていくと思います。
次いで注目なのが、長﨑美柚(日本生命)です。昨年ドーハで行われたアジア卓球選手権大会女子団体優勝のメンバーであり、全日本社会人卓球選手権大会女子シングルスで優勝している長﨑は将来性のある選手で、質の高い両ハンドが持ち味です。特に強烈なのがチキータで、長﨑のチキータは中国選手でもなかなか取れません。打球前の力の抜き方や打球する一瞬の力の加え方など、天性の才能を感じる選手で、長﨑が持てる力を存分に発揮できれば、誰にとっても脅威になるでしょう。
カット主戦型の橋本帆乃香(ミキハウス)も成長が目覚ましい選手です。最近の橋本は連続攻撃の精度が向上しており、対戦相手からするとカットだけでなく、攻撃も警戒しなければなりません。橋本は昨年行われた2021世界卓球選手権ヒューストン大会男女日本代表選手選考合宿で早田に勝っており、自信を持って今回の全日本に臨んでくると思います。
スーパーシード勢では、女子選手の中では希少な裏面打法を使う宋恵佳(中国電力)と、平真由香(昭和電工マテリアルズ)も力があり、両選手とも上位を狙う力を十分に備えています。
そのほか、昨年のジュニア女子ベスト4の白山亜美(明徳義塾中・高)と、2019年ジュニア女子優勝の出澤杏佳(専修大)のいるパートは、誰が勝ち上がってくるのか興味深いところです。
【第3ブロック】
技術とメンタルが安定している平野美宇がリード
平野を木原美悠、森さくら、佐藤瞳らが追う構図
このブロックでは平野美宇(日本生命)が頭一つ抜けている印象です。平野は、ここ数年の全日本では緊張からか上位に入っていませんでしたが、東京オリンピック、それからヒューストンで行われた世界卓球でのプレーを見る限りでは、技術もメンタルも非常に安定してきています。
平野に対抗する有力候補は、木原美悠(JOCエリートアカデミー/星槎)、森さくら(日本生命)、佐藤瞳(ミキハウス)になるでしょうか。
木原は昨年の女子シングルスベスト4ですし、森も力があります。順当に行けば木原と森はベスト8決定でぶつかるので、見ている人がわくわくするような試合をしてくれると思います。
カット主戦型の佐藤は持ち前のカットの安定感や粘りに攻撃力がプラスされてきた印象です。仮にベスト8決定戦で平野と対戦した場合には、見ごたえのある試合になるでしょう。
また、シェーク異質型の成本綾海(中国電力)も非常に力のある選手なので、どこまで勝ち上がるのか注目しています。
スーパーシード勢以外では面田采巳(四天王寺高)のプレーも楽しみです。面田は、昨年のアジア卓球選手権ドーハ大会の日本代表選考会で良いプレーをしていたのが印象的で、平野に挑戦権を得るところまで勝ち上がれるかどうか、そして、挑戦する場合、どのような戦いになるか注目しています。
また、中学生の小塩悠菜(星槎中)も楽しみな選手です。ペンホルダーで裏面を巧みに使う小塩は運動能力とモチベーションがとても高い選手で、ハードな練習でも楽しそうに取り組める才能を持っています。将来的に強くなる選手だと期待していますが、今大会での戦いぶりにも注目です。
【第4ブロック】
昨年の雪辱を晴らしたい伊藤美誠だが
芝田沙季や安藤みなみら難敵がひしめく
第2シードの伊藤美誠(スターツ)は、昨年の決勝で敗れた悔しさが大きいと思いますので、今大会には期するものがあるでしょう。
伊藤の良さはいくつかありますが、まずボールの回転をとても良く理解していることが挙げられます。そのため、飛んできたボールに応じて返球方法を使い分けることがとてもうまい。それから、試合をストレスなく迎えられるという、とても良い特徴を持っています。試合が大きくなればなるほど、楽しみに待ち望むことができるメンタルを備えた選手です。また、自分がどうやったら強くなるのかを考え、努力して進んでいく能力がとても高い選手でもあります。
挙げた良さとこれまでの実績を踏まえると、このブロックを伊藤が制する可能性は高いですが、伊藤にとっては厳しいブロックになったと思います。
順当に行けばベスト8決定で当たる芝田沙季(ミキハウス)とは、昨年の世界卓球で大接戦を繰り広げています。今回も対戦が実現すれば、見ごたえのあるスリリングな試合になるでしょう。
また、反対側にスーパーシードされている安藤みなみ(TOP名古屋)もTリーグで好調を維持しており、なおかつ過去の全日本で伊藤に勝っています。伊藤にとって安藤は、芝田とならび要警戒の相手でしょう。
そのほか、昨年ベスト8でインターハイ(全国高等学校卓球選手権大会)三冠王の横井咲桜(四天王寺高)も上位に勝ち上がる力を十分備えています。
スーパーシード勢以外で注目しているのは、張本美和(木下アカデミー)です。張本は、勝ち上がれば伊藤の初戦で当たるパートにいますが、このパートには出雲美空(エクセディ)や井絢乃(中国電力)、牛嶋星羅(昭和電工マテリアルズ)ら実力者がそろっています。張本が伊藤と対戦するまで勝ち上がれるかどうかは、女子シングルス序盤の大きな見どころでしょう。
優勝の鍵は、調整力と劣勢を打開する力
世界トップレベルの力を持つ選手たちがひしめく女子シングルスですが、優勝するためには、2つのポイントがあると私は思います。
1つは、「全日本に自分のコンディションを万全に合わせる」ことです。第1シードの石川をはじめ伊藤や平野、早田と彼女らを追う選手たちの力は拮抗しており、その時々の状態で勝敗が左右されます。そのため、全日本に照準をぴたりと合わせることができた選手が優位に立つでしょう。
もう1つのポイントは、「劣勢の場面をいかにしのぐか」です。初戦から決勝まで、ベストパフォーマンスを出し続けて勝ちきることは至難の業です。選手たちの力が拮抗しているだけに、試合をこなすうち、自分のプレーができず、相手に押される場面が必ず出てくるでしょう。そうした劣勢の場面でも簡単に屈せず、自分の持てる技や戦い方、気持ちで耐えしのいで逆転につなげられる選手が、優勝に近づくのではないかと思います。
(まとめ=卓球レポート)