元ナショナルチームコーチとして数々のトップ選手の指導に携わり、現在はTリーグの解説者としても活躍する渡辺理貴氏が、その卓越した観察眼で世界卓球2022成都を鋭く分析する企画。
今回は、10/8に行われた中国対日本、ドイツ対韓国の男子団体準決勝について、それぞれ分析していただいた。
【中国対日本】
高速から超高速にギアを上げた張本。近い将来の打倒中国に期待
▼男子団体準決勝
中国 3-2 日本
○樊振東 5,10,4 戸上
王楚欽 8,-8,-6,-9 張本○
○馬龍 -8,5,5,2 及川
樊振東 -7,6,3,-9,-9 張本○
○王楚欽 10,7,4 戸上
トップは、樊振東に良いポジションを取られて打たれては不利になると考えた戸上は、先手を取れるときには、積極的にミドル(右腰あたり)を狙う戦術が功を奏して、2ゲーム目はジュースまで樊振東を追い込みました。しかしながら、終盤になると、どこに打っても樊振東は良いポジションを取っていたので、その基礎レベルの高さと判断力には驚かされましたね。
これまでの戦いぶりを見ても明らかなように、戸上の両ハンドはすでに世界トップレベルの球威ですが、その戸上の両ハンドに対して単に止めるようなブロックは1本もありませんでした。樊振東が良いポジションを取れたときは、全てのボールをしっかりスイングしてくるので、それを攻撃するには、より素早い戻りが必要になります。戸上としては対応が難しかったですね。ゲームを奪うには至りませんでしたが、大舞台で世界ランキング1位の強さを肌で体感したことで、戸上はまた一つ強くなる糧を手に入れたと思います。
2番は、張本に過去4勝1敗と相性が良い王楚欽を中国チームが当てにきました。戸上の急成長を垣間見ている中国としては、最善を尽くしてきたと言えます。
試合は、第1ゲームからお互いの良さを出し合った高速ラリーの連続でした。わずかなパワーの差で王楚欽が先制しますが、第2ゲームは後半に訪れたチャンスを確実に決めた張本が取ります。
第3ゲームは序盤、張本にツキがありましたが、高速から超高速にギアを上げましたね。超高速にギアを上げても両ハンドの切り替えに迷いが出ない張本は、ハーフロングサービス(台からツーバウンド目がぎりぎり出るか出ないか微妙な長さのサービス)から王楚欽のループドライブを狙い打つ戦術も効果的に決まり、強敵を退けました。最後までぶれずに強気のプレーを貫いた張本の値千金の勝利だったと思います。
3番の及川は、序盤、馬龍のドライブに驚くほどの対応力の高さを発揮し、スピードのあるラリーを何度も物にして第1ゲームを先取します。しかし、第2ゲームからは、10本返すと11本打ってくる馬龍の攻撃の手はゆるむどころか厳しくなる一方で、及川も必死に左右の打ち分けで馬龍を台から下げようと試みますが、逆に動き切られる場面が増えてしまいました。及川の頑張りは素晴らしかったですが、馬龍が実力で上回った試合でした。
4番のエース対決は、第1ゲームから張本の連続攻撃に力みが一切見られませんでしたね。第1ゲームは、張本が伸びのあるバックハンドで樊振東の動きを詰まらせ、先制します。第2ゲームに入っても張本はネットインをノーバウンドショットで返すなど乗っていましたが、樊振東の1球1球の質が高いプレーにミスが出てしまい、ゲームを返されます。第3ゲームは、張本が限界に近いくらいの対応力を見せますが、樊振東の球威に押されないようにスイングするためクロスにボー ルが集まってしまい、樊振東に動ききられて落とします。
第4ゲームが始まる前に張本は珍しくウェアを着替えましたが、それが気分転換になったのか、1球目からミドルへの素晴らしい攻撃が決まって幸先よくスタートし、このゲームを取り返して試合を振り出しに戻します。
最終ゲームに入ると張本の勢いが止まりません。ポイント10-7リードから2本取られましたが、最後は樊振東のバックハンドドライブを止めきって勝利しました。試合内容の素晴らしさもそうですが、「日本が中国から2点を奪った」という点においても歴史に残る試合だったと思います。
5番の戸上対王楚欽の勝負どころは、第1ゲームでしたね。 戸上が追い上げられてポイント9-8でタイムアウトを取った後、サービスエースで10-8にしましたが、その次の王楚欽のアップサービス(上回転系サービス)は攻めたかったところです。王楚欽には競った場面でアップサービスを使ってくる傾向があるので、一発のチキータを持つ戸上としては、それを予測して狙いにいってほしかったですね。勝利には至りませんでしたが、各ゲームとも戸上らしい積極的なプレーが随所に発揮できていて、試合内容は非常にハイレベルでした。
中国との差を埋めていくことは並大抵なことではありませんが、戸上にはそれに挑戦する資格も資質もあることを今大会で示してくれました。近い将来、「打倒中国」を必ず成し遂げてくれると期待したいと思います。
【ドイツ対韓国】
ドゥダが充実のプレーで2点取り。一方の韓国は張禹珍の2点落としが痛手に
▼男子団体準決勝
ドイツ 3-2 韓国
○ドゥダ -10,7,7,7 張禹珍
ダン・チウ -7,-10,6,-8 安宰賢○
シュトゥンパー -6,4,-5,9,-8 趙勝敏○
○ダン・チウ 12,7,-11,6 張禹珍
○ドゥダ 9,6,-8,6 安宰賢
トップは、第1ゲームこそ張禹珍のよく切れたサービスとフットワークを活かしたパワード ライイブに苦しんだドゥダでしたが、形成逆転の糸口になったのは、意外にも正確なストップと時折混ぜる深いツッツキによる前後の揺さぶりでした。
張禹珍はストップを入れにいくとドゥダにパワードライブで攻撃され、深いツッツキに対して打点を落とすとカウンターブロックで大きく揺さぶられるという悪循環に陥ってしまいましたね。ドイツにとっては、エースを倒す値千金の勝利になりました。
続く2番、ドイツはエースのダン・チウ、一方の韓国は意外にも安宰賢を起用してきました。 両者は国際大会では恐らく初対戦でしたが、試合はダン・チウの正確なスイングからのコースや球種の打ち分け対安宰賢の驚異的なフットワークという構図で進み、非常に見ごたえがありました。
人間離れしたフットワークを見せる安宰賢が2ゲームを連取しますが、第3ゲームは守備にも自信のあるダン・チウが安宰賢を振り回す戦術を選択をしてゲームを取り返します。しかし、第4ゲームはダン・チウがいくら揺さぶっても、安宰賢の動きを止められませんでしたね。
3番のシュトゥンパー対趙勝敏も、国際大会ではおそらく初対戦です。試合はハイトスサービス(投げ上げサービス)からのパワフルな攻撃で趙勝敏が第1ゲームを取ります。しかし、今大会のドイツチームの特徴ですが、正確無比なストップでシュトゥンパーが形成逆転に成功し、ゲームカウントをタイに戻します。
その後、お互いがゲームを取り合って試合は最終ゲームまでもつれましたが、勝敗を分けたのは、ドイツのタイムアウト直後、趙勝敏がシュトゥンパーのロングサービスを狙い打ってレシーブエースを奪ったプレーでした。この大胆かつ予測に基づいたスーパープレーが決め手になり、趙勝敏がシュトゥンパーを振り切って韓国が決勝進出に王手をかけます。
ここまでは、安宰賢を2点使いし、趙勝敏を3番に据えるという朱世赫監督の意外性のあるオーダーが功を奏していましたね。
4番は、お互いがエースとしてここまでチームを引っ張ってきたダン・チウと張禹珍の対戦で、両者の対戦も国際大会ではおそらく初です。
試合は、第1ゲームのジュースを落とした張禹珍がなかなか自分のリズムに乗れませんでしたね。ダン・チウが張禹珍の回り込みをフリックで鈍らせ、仮に回り込まれて打たれたとしても固い守備で得点を渡さない充実のプレーでラストにつなぎました。
5番のドゥダ対安宰賢は、安宰賢が2勝0敗と分が良く、朱世赫監督がこの試合で安宰賢を起用したのは、この対戦を見込んでのことだったと思います。
しかし、試合が始まるとドゥダがペースを握ります。トップでは丁寧な台上で張禹珍を下したドゥダでしたが、この試合では、第1ゲームから積極的にフォアハンドを使って安宰賢の足止めに成功します。このあたりの柔軟な戦術転換にドゥダの好調の要因が表れていましたね。
0対2とされ、あとがなくなった安宰賢は捨て身ともいえる回り込みで第3ゲームを取り返しましたが、第4ゲームは、より前でプレーし、安定性で勝ったドゥダが取り、4時間弱の大激戦にピリオドを打ちました。
覚醒ともいうべきドゥダの2点取りは、ドイツにとって決勝に向けて好材料でしょう。一方の韓国は、頼みのエース・張禹珍が2点を落としたことが、大きな痛手になってしまいましたね。
(まとめ=卓球レポート)