女子シングルスは早田ひな(日本生命)が制し、張本智和(IMG)と組んだ混合ダブルス、伊藤美誠(スターツ)と組んだ女子ダブルスと合わせて三冠を獲得した。ハイレベルなトーナメントを勝ち上がっていった早田の堂々たるプレーは、タレントひしめく日本女子卓球界の中でも抜きん出たものだった。
女子シングルスの勝因や前回の初優勝との違いなどについて、丁寧に語ってくれた早田の記者会見の模様を紹介する。
--三冠達成おめでとうございます。今のお気持ちを聞かせてください。
もう本当に素直に嬉しいですし、やり切ったなって思っています。
--決勝戦を振り返っていただけますか?
0対2になるまでは、私自体の調子は全然悪くなかったんですけど、それ以上に相手がもう負ける覚悟で思い切って攻めてきたりとか、やっぱり自分に(早田に)そのくらい攻めないと勝てないっていう意思を持ってやってきていました。逆に言うと、自分自身がプレッシャーをかけられてるんだなっていう気持ちに考え直したというか。逆にこれで(木原に)勝ったらすごいなって思って第3ゲームから試合に入っていったので。人間、誰だって負けることはあるから、もう負けても大丈夫っていう気持ちで試合して、それが本当に最後までうまくいったなと思います。
--気持ちの切り替えのほかに、技術的、戦略的に何か変えましたか?
(木原が)あれだけ思い切って攻めてきていたので、とにかく相手が強打できないボール、レシーブもそうですしラリーの中でもそうですし、強打できないボールをうまく使うことによってさすがに相手も丁寧なプレーから始まってくるので、そこで凡ミスをしないことをまず意識して、そこから回転量で操ったり攻める時は攻めたりといったバランスを考えながらずっと試合をしていました。
--苦しい中でもサービスが効いていたと思いますが、ご自身ではいかがですか?
あれだけの中でサービスが聞いたのはすごく自信になります。でも、最初の前半はそこのコントロールがうまくできなかったので、サービスの質を落としてとにかく低く出すこと、そして分かりづらく出すことを自分の意識として変えてやっていけたので、そういう形で展開を変えることができて良かったなと思っています。
--あらためて三冠を獲得し、追われる立場になることについていかがですか?
今回も常に多分追われている状況で、決勝戦も本当に負けかけの試合だったんですけど、逆に自分が違う考え方で試合をすると、こうやって4対2でひっくり返すことができたりとか、その時々の試合で自分で「うわ、(うまく)はまったな」という部分があるので、その楽しさは絶対に忘れてはいけないですし、これからもそういった楽しさを突き詰めていって、どんなに追われる状況でも自分の卓球を貫けていけたらいいかなと思ってます。
--前回の優勝は大阪で、今回初めてお客さんがいっぱいの中での東京での優勝だと思いますけど、いかがですか?
本当にたくさんの方に来ていただいて、最後は本当に応援してくださる皆さん1人1人に「ありがとうございました」って伝えたいんですけど、もう2階もいっぱいで3階にもたくさんの人がいて、みんなが全力で手を振っておめでとうって言ってくれたので、本当に嬉しかったです。その期待に応える三冠をこの場で達成できたのはすごく意味があるかなと思います。
--今、考えている近い目標と大きな目標を聞かせていただけますか?
ここからまたTリーグが始まっていくので、Tリーグの中でも当たる相手がどんどんチャレンジャーの気持ちでやってくると思います。これまで以上に自分のできる最大限のもの、そして今回の反省を活かして、またさらにレベルアップしてTリーグ、そしてプロツアーなどを戦っていきたいです。
直近での目標は世界選手権のシングルスでベスト4には最低でも入りたいと思っていますし、それが勝っても負けてもパリオリンピックの選考レースだったり、パリオリンピックに選ばれた時に絶対に生きると思うので、そういった1試合1試合を無駄にしないように日々過ごしていきたいです。
--去年のTリーグの個人戦の時だったと思いますが、「全て変わった早田ひなを見てほしい」ということをおっしゃっていました。その後、さらに変わったところ、あるいは新たに加わったところはあったでしょうか?あったとしたら、この大会で発揮できましたか?
そうですね。発揮された結果、三冠が取れたかなってまず思っています。フォームの修正だったり、試合の仕方もそうですし、本当に細かな部分ではあるんですけど、常に進化をするように自分の中で心がけているので、Tリーグの個人戦からまた一回り二回り、自分自身がうまくなっているのかなというのは、今回の全日本を通じてすごく感じました。対戦相手との勝負になるので、その都度その都度いろんな戦術を使っていろんなボールの質を出していくので、これというのは特にはないんですけど、でも、相手によってうまく自分をコントロールして変えることができるようになったのは、Tリーグの個人戦からさらに良くなった部分かなと思います。
--フォームの修正というのは具体的にどんなところですか?
もともと回転をかけるのはうまいタイプなので、回転をかけながらもコントロールして、その高さを調節できるように。打点を落としたところから高いのもそうだし、低いのも打てたりとか、打点をちょっと上げたタイミングでネットすれすれで打つのと、そのタイミングでナックルドライブ(無回転のドライブ)をポンと使ったりとか、同じタイミングでも違う球質のボールだったり、高さを変えたりっていうのは良くなったかなって思います。
--サービスが効いたというところで、第4ゲームの6-6から連続で得点した2本のサービスについて、どういうところが良かったのかお伺いしてよろしいでしょうか。
完全に相手の読みを外したことと、自分が低く出したことで相手にプレッシャーがかかってレシーブミスをしたかなって。多分、(木原は)あの2本中、1本目レシーブミスした時、2本目狙っていこうって思ったと思うんですよね。本当のところは分かりませんが。そこで自分が「この低さでサービスを出したい」というのを、その通りにコントロールできて、低さと長さが完全に100パーセントで良かったので、相手は攻めたいところが攻められなくて、この(レシーブの)質で行ったら私に強打されるというプレッシャーからミスしたのかなというサービスでした。
--分かりました。この試合で勝てると思ったターニングポイントとなると、どこだと思いますか。
うーん。3ゲーム目で、ちょっと点数は覚えていないんですけど、結構引き離して多分5点ぐらいで取ったと思うんですけど、その時に「このままやれば相手は緊張してくるかな」というのは感じたので、そこで「あ、この感覚で行こう」ってなりましたね。
--準決勝で石川佳純選手(全農)にストレートで勝ちました。石川選手は長年追われる立場を経験されてきた方ですが、石川選手への思いを聞かせてください。
石川選手は私が卓球を始めた時から本当にずっと強くて、全日本も出場回数が多くて、常にランクに入り続けている選手です。私の印象としては、世界選手権で1度団体で一緒になった時に、やっぱり試合で勝つ、それで引っ張っていくっていう力があって、でも、それから(試合から)離れた時でもコミュニケーションをうまく取ってチームをまとめるのは本当にうまいなって感じました。やっぱり卓球もそうなんですけど、人としても、日本代表で団体戦を戦う時にチーム一丸となってみんなで頑張ろうって言ってくれるので、石川さんがこの全日本にいてくれるかいてくれないかというのは、私たちにとって結構大きいかなって思います。
--2020年の初優勝と比べて、喜びの質や立場も状況も環境も違うと思いますが、2回目の女子シングルス優勝をどのように捉えていますか?
日本女子の卓球界のレベルの違いが結構あるなっていうのは、今回優勝して思いました。私としてはそんなに感じてはいなかったんですけど、第4ブロックが死の組み合わせと言われていました。8決定で張本選手(張本美和/木下アカデミー)、そして準々決勝で平野選手(平野美宇/木下グループ)、次に石川選手、最後、木原選手(木原美悠/JOCエリートアカデミー・星槎)と当たって、確かに厳しい試合で、組み合わせ的には「うわ、1番きついな」と思われていたと思うんですけど、私自身そんなに厳しいなっていうのを感じませんでした。やっぱり自分自身のこれまで積み重ねてきた力が自信につながっていて、それが(世界卓球2022成都で)怪我をしたことによって、年末の試合も負けたりもしてたんですけど、この全日本に入って感覚がまた良い状態に入ってきていました。
「最終的にパリオリンピックで中国人選手に勝つためには、ここを乗り越えないとあなたは中国人選手に勝てないよ。ここを乗り越えたら本物だよ」と神様に言われているような組み合わせだったので、そこを乗り越えられて本当に良かったなと思います。前の優勝は勢いで、その前は勢いで向かっていっても伊藤選手の実力に負けていました。でも、今回は勢いで向かってくる選手に実力で対応することができたので、そこが前回の優勝とは結構違うかなと思いますね。
--東京オリンピックの前から、早田選手の怖さや意外性をなくなさいようにトレーニングを続けてこられたと思います。その中で対応力や切り替えを身に付けてきたと思いますが、ぶらさずにずっと続けているものはご自身でお持ちですか?
大輔先生(石田大輔コーチ)にベンチに入ってもらって、大輔先生には中3の頃から見てもらっていますが、例えば解説とかぱっと会った人とかに、もうちょっとこうした方がいいんじゃないと言われても、でも、それが本当に自分自身ができる技術なのか、それをやらなくてもいいのか、やった方がいいけどその人にとってフィーリングが出なければやっぱりその意識をさせることが良くないことかもしれない。そういったところのコミュニケーションや関係性は、大輔先生がいることで自分の卓球が常に保たれてここまで上がってこれたなというのはあります。
その中で、本気でオリンピックで金メダルを取るために、やっぱりもっともっと全ての精度を上げていかないといけない。技術もそうですし、メンタル的にもそうですし、体もそうですし。そういった部分でチームひなのトレーナーさんだったり、練習相手と常に会話をしながら、こっちだったらこれの方がいい、あれだったらこれの方がいいっていうのを話し合ってきた結果、今の自分につながっていってるので、これが完成形ではないんですけど、自分の持ち味を消さずにここまで来れたっていうのは大輔先生のサポートや、チームひなの皆さんの私の強みの生かし方がうまいのかなって思っています。
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