元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球5日目に行われた伊藤美誠対ポータ(ハンガリ)、平野美宇対田志希(韓国)の女子シングルス3回戦を解説してくれた。
▼女子シングルス3回戦
伊藤美誠 7,7,7,8 ポータ(ハンガリー)
長年、ヨーロッパのトッププレーヤーであり、ハンガリーのエースでもあるポータとの対戦でしたが、ずばり伊藤が強かった。伊藤はこれまで1ゲームも落とさず勝ち上がってきていますが、この試合も完全にゲームを支配し、ストレート勝利しました。
展開としては、ポータは攻めると伊藤の表ソフトラバーの変化にミスを誘われてしまうので、途中から伊藤のミスを誘う方法へシフトしました。伊藤のサービスの変化を残すようにゆっくりツッツキをしたり、少し台から距離を取ったりしてタイミングをずらそうと試みましたが、伊藤に通用したのは数本でした。伊藤に対し、ミスを誘うような戦術を取れるポータの技術力や経験値はさすがでしたが、それ以上に伊藤が多彩で速くて強かった。
特に、ゲームカウント2対0、ポイント8-7で伊藤が放ったとてつもない質のチキータは、ぜひ皆さんにアーカイブで見ていただきたいですね。あのチキータは、ポータもラケットで触った時点で「コートにはとても入れられない」と察したのではないでしょうか。伊藤にしかできないチキータの質だったと思います。
独自性の高い技術を駆使して圧倒する伊藤に、今のところ全く隙は見えません。中国選手と対戦した場合、どのような試合を見せてくれるのかとても楽しみです。
▼女子シングルス3回戦
平野美宇 9,6,6,10 田志希(韓国)
平野は、ラリー力に定評のある田志希に対して1ゲーム目からエンジン全開でした。昨日の試合でも有効だった相手のバック側へ伸びるロングサービスをうまく使いながら10-3と簡単にゲームポイントを奪いました。しかし、チャンスボールを決めきれなかったことを機に、田志希に10-9と詰め寄られたところで、平野がタイムアウトを取りました。1ゲーム目からタイムアウトを使うのは珍しいケースですが、大量リードから逆転で1ゲーム目を失うと、試合の流れが相手に大きく傾いてしまう可能性があったため、このタイムアウトは正解だったと思います。
タイムアウトで落ち着きを取り戻した平野は、1ゲーム目の序盤同様、両ハンドで猛攻を仕掛けて難敵の田志希をストレートで退けました。全体的に平野はサービスの配球がとても良く、なおかつラリーで両ハンドを振り切れてミスも少なかったので、田志希としてはかなりプレッシャーがかかる試合だったのではないでしょうか。
この試合では、間合いの長さが遅延行為と見なされて両者ともイエローカードをもらう珍しい事も起こりましたが、平野は動揺せずに終始落ち着いてプレーできていたので、メンタルの充実ぶりも光っていましたね。
※文中敬称略
(まとめ=卓球レポート)