元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球5日目の張本智和／早田ひな対林鐘勳／申裕斌（韓国）の混合ダブルス準々決勝と、長﨑美柚／木原美悠対黄怡華／陳思羽（中華台北）の女子ダブルス4回戦を解説してくれた。
▼混合ダブルス準々決勝
張本智和／早田ひな 8,5,6 林鐘勳／申裕斌（韓国）
張本／早田のメダル決定戦は、強敵の林鐘勳／申裕斌でした。林鐘勳のパワフルなプレーと申裕斌の丁寧なプレーのコンビネーションにどう戦うのか、とても興味深い一戦でしたが、張本／早田が充実のプレーを見せてくれました。
混合ダブルスの「あるある」なのですが、男子が女子に打球する際、無理に仕掛けようとしてリスクを冒す傾向があります。そこで得点したいし、仮に得点できなくても崩せれば、次のパートナーの女子が優位にプレーできるからです。そのため、混合ダブルスでは男子が女子のボールを取るのか、それとも女子が男子のボールを取るのかによって仕掛けや戦術が大きく変わってきます。
この「あるある」の通り、1ゲーム目は林鐘勳が早田に打球するパターンでしたが、林鐘勳は早田に対して強引に強打したり、台上で厳しく仕掛けようとしてミスをしました。1ゲーム目は、この差が大きかったと思います。加えて、張本／早田は相手に強打されてもストレートを突く攻守がうまくできていました。
続く、2ゲーム目は張本が申裕斌に打球するパターンになりましたが、このパターンに張本／早田の強さがよく表れていましたね。張本は、申裕斌に対して決められるボール以外は、相手に強打されないよう的確につないでいましたが、それはひとえに「早田に男子同様の決定力がある」からです。つまり、早田に決定力があるので、男子の張本が無理しなくても得点できるため、男子が独り相撲を取ってしまう「混合ダブルスあるある」に陥らない。ここに、二人の最大の強みがあります。
2ゲーム目は、張本が要所でつなぎ早田が決めるパターンで奪うと、3ゲーム目はノリノリでしたね。お互いが打てば決まる状態で決定打を連発しました。こうなると、二人は本当に強い。韓国ペアはかなりの強敵でしたが、それを圧倒する強さを見せて、張本／早田が今大会の日本選手団で初のメダルを決めました。
もちろん、二人の目標は金メダルなのでここで満足はしてはいないでしょう。準決勝の林詩棟／蒯曼（中国）もかなりの強敵ですが、大いに期待したいと思います。
▼女子ダブルス4回戦
長﨑美柚／木原美悠 7,-9,8,9 黄怡華／陳思羽（中華台北）
長﨑／木原は、長﨑のチキータや回り込みから木原の連係プレーが素晴らしいのですが、1ゲーム目はその持ち味を発揮して黄怡華／陳思羽を寄せ付けない内容で先取しました。
2ゲーム目は中華台北ペアが足を使ってラリー戦を挑んできました。長﨑／木原は3-7から9-10まで追い付きましたが、このゲームは黄怡華／陳思羽に軍配が上がります。
勝利に王手がかかる3ゲーム目は5-5とお互いが譲らない展開が続きましたが、ここで長﨑がこの試合で初めてロングサービスを使ってエースを取ります。ここから流れが変わり、コースが単調になって狙われていたところもうまく修正し、長﨑／木原が3ゲーム目を物にしました。長﨑のロングサービスには、ちょっとしたことで試合の流れやリズムが変わるという卓球の面白さがよく表れていたと思います。
4ゲーム目は長﨑／木原が終始良いペースで先行します。終盤、中華台北ペアにじわじわと追い上げられましたが、最後は9本で勝ち切りました。
この試合は、長﨑／木原がお互いに良いボールが決まりすぎてコースがクロスに集まり、競り合いになってしまった印象でしたが、まずは勝利できて良かったです。
調子が良いときに気を付けなければいけない点は、「調子が良すぎるが故にコースを考えずに打ってしまう」ことです。もちろん、決定率は高いのですが、世界最高峰の舞台ではコースが単調になると相手に慣れられてしまいます。長﨑／木原には調子が良いからこそ、コースを意識してほしいと思います。その上で、思い切ってプレーできれば、さらに盤石の戦い方ができるでしょう。
※文中敬称略
（まとめ＝卓球レポート）
