元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球5日目に行われた早田ひな/伊藤美誠対カマト/バトラ(インド)の女子ダブルス4回戦、オフチャロフ/フランチスカ(ドイツ)対宇田幸矢/戸上隼輔の男子ダブルス4回戦を解説してくれた。
▼女子ダブルス4回戦
早田ひな/伊藤美誠 8,6,7 カマト/バトラ(インド)
世界卓球初優勝を目指す早田/伊藤は、ツブ高ラバー使いのバトラと丁寧なプレーを身上とするカマトのインドペアとの対戦になりました。本来であればやりにくいペアではありますが、変化に強い伊藤と、変化をパワーで押し切れる早田からすると、とてもやりやすい相手だったと思います。
二人は試合前のインタビューで「(けがの影響で)練習は全然できていなかったので試合の中で調整していく」という主旨のコメントをしていましたが、その言葉通り、これまでの試合よりも格段に良いプレーが増えて、ストレートで勝利を収めました。長年ペアを組んできた経験と個の力があってこそできるプレーでしたし、あらためて彼女たちのすごさと強さを実感した試合でした。
次のメダルをかけた準々決勝の相手は陳夢/王芸迪(中国)でかなりの強敵ですが、優勝を目指す上では避けて通れない相手です。しっかりかみあってきた早田と伊藤なら、必ず乗り越えてくれると期待します。
▼男子ダブルス4回戦
オフチャロフ/フランチスカ(ドイツ) 7,-6,-10,6,8 宇田幸矢/戸上隼輔
2大会連続のメダルを目指す宇田/戸上は、ベスト8をかけて強豪ドイツのオフチャロフとフランチスカのペアとの対戦になりました。
フランチスカはダブルスの名手として世界でも知られていますが、オフチャロフは言わずと知れた名選手ではありますが、ダブルスはあまり出場してこなかったので得意なイメージがありません。実績では宇田/戸上が上ですが、個の能力が高いドイツペアも侮れないと思っていましたが、その通りの試合展開になりましたね。
1ゲーム目はドイツペアがツッツキを多用し、日本ペアに打たせてカウンターを狙う展開で得点を重ねます。また、フランチスカのYGサービス(逆横回転系サービス)からの展開に手こずり、宇田/戸上が1ゲーム目を落とします。
シンプルに打ち合いをするとドイツペアは強いので、チキータと台の中での細かいプレーで崩してからのラリーで2ゲーム目は宇田/戸上が優位に立ちます。やはり、右利き同士のペアは前後に揺さぶると動きが重なってミスが出やすいので、このあたりの宇田/戸上の戦術は良かったですね。
宇田/戸上が2ゲーム目を取り返し、3ゲーム目も2ゲーム目と同じような展開で競り合いますが、ジュースの場面で戸上が強気のロングサービスでエースを奪い、ゲームを連取しました。
これで実績に勝る宇田/戸上が流れをつかんだかと思われましたが、個の能力に秀でたドイツペアも簡単には勝たせてくれません。台上の細かいプレーからだと自分たちの展開にならないと悟ったドイツペアは、1ゲーム目と同じようにがっつりツッツキを送って日本ペアに打たせ、それをカウンターで狙う戦術に戻して試合を振り出しに戻します。
ファイナルゲームは互いの勝利への意地がぶつかり合う激しいラリーの応酬になりました。本来であれば宇田/戸上もラリーにめっぽう強いペアですが、この試合のドイツペアのラリー力は素晴らしかったですね。加えて、ここまで日本ペアはドイツペアのバック側に詰めてミスを誘う戦術で得点を重ねてきましたが、そのボールも狙われてしまいました。要所でロングサービスを使うドイツペアの強気の戦術にも押され、宇田/戸上は惜しくも敗れました。最後は、ドイツペアが台からかなり離れて打ち合っていたので、真っ向から打ち合うのではなく、少し前に落とすボールなどがあれば、また違った結果になったかもしれません。
いずれにしても、勝利はなりませんでしたが、メダルを期待されるプレッシャーの中、宇田/戸上は良いプレーを見せてくれたと思います。
勝ったフランチスカ/オフチャロフは癖のあるやりにくさに加え、個の能力をしっかり生かした強いペアでした。
※文中敬称略
(まとめ=卓球レポート)