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「卓球は血と魂だ」 第二章 三 道場十五戒②

三 道場十五戒

人生最大の敵は自惚れであり、
最大の味方は努力である


 ハンガリーの首都ブダペストに、三年前女子専門の卓球道場が完成、六才の少女から長期英才教育が開始されている。名選手を育成した二十数年の実績を買われたオルマイ博士夫妻が日夜指導に当っている。私は二度そこを訪れてオルマイ氏の話をきいた。その一つは、欧州からは十二、三才で欧州チャンピオンになるような凄い女子選手が時々出現するが、ここでも十代の英才育成を狙うのか、という質問だったが、その答は次のようなものだった。

 「チェコのボストバとか、最近ではルーマニアのネメシュのような好選手が時々現われるが、才能はすばらしいものがあっても、体験が伴っていないと長つづきせず、また崩れてしまいやすい。才能と体験と努力が、バランスがとれて大成するのは女子で二十才から二十五才、男子で二十五才から三十才だと考えている。」ということだった。

 早く花が咲くと、その人はそこで自惚れてしまい、体力や精神力、そして大きな技術の成長の道が止ってしまう、という意味もあったが、この点は日本でも韓国でも中国でも、指導者は同じような経験をもっている、と云ってよいのではなかろうか。

 お隣の韓国では、国民学校(小学校)生徒の全国卓球大会を毎年四回以上開催して、すでに八年になる。小学生の段階から男女とも好選手が多数出現するようになってはいるが、ある韓国指導者は「少年時代に素晴らしい選手であっても、その人の技術が小さく固まってしまいやすい。この点の指導は大変むずかしい」と云っているが、その問題は重大である。

 スポーツの選手が伸びていく基本は、その人自身の胸の中に燃える向上心にあり、コーチはよくその選手を研究して激励と方向づけをしてやることである。時に賞めてやり、激励してやることは非常に役に立つが、甘やかしてダメにする場合が多い。それは歴史が証明している。

 人生においても、すべてそれが原則だと思う。人間は弱いものであり、トップに立つと自惚れやすい。オレは一流だ、と思った時にその人の進歩は止まる、と思ってよいのではないか。何事もトップに立つことは困難なことだが、それを維持することはもっとむずかしい。トップに立てば、他の目標となり、後から来る人達に狙われ、研究される。

 その立場に立ってなお長くトップを維持できる人は本物のチャンピオンであり、立派なリーダーであるが、それは、その人が過去に自惚れることなく、常に自らを反省し、前を向いて努力をつづける人物であるからである。

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