試合で、相手のサービスの変化がわからなかったりコースが読めないと、いくらすばらしいフォアハンドや安定したバックハンド、鋭いフットワークを持っていても正確なレシーブはできない。せっかくの技術が宝のもちぐされになってしまう。このような選手を、サービスに対して盲という。このようなタイプは、中・高校生または家庭婦人等一般の初心者に多いが、高い目標をもちながらこれでつまづいている選手がいる。
たとえば、よくあるのは変化サービスに対して「たぶんこのぐらい切れているだろう」と思ってレシーブしたのが思ったより切れていてネットにひっかけたり横に出してしまったりする。「たぶんドライブ性ロングサービスだろう」と思ってレシーブしたのが、実はナックル性ロングサービスでネットにひっかける。または「よく切れた下切れだろう」と思ったのが切れていなくてオーバーミスをするなどだ。
このように「たぶんこのぐらいだろう」という選手が多いが、相手がミスさせようとして出したサービスを半コートの大きさが、縦137センチ、横152センチの狭い、しかも15.25センチのネットの上を通り越してレシーブしなければならないだけに、だろうの甘い考え方では、いつまでたっても上達しないものである。
また、4球目を考えすぎて迷ったときや集中力がないときによくあるが、インパクトのときは変化を見分けているようなのに、レシーブする前に変化を忘れておかしなレシーブをする選手もいる。これもせっかく変化を見分けても何にもならない。
相手の手首を穴があくほど集中して見よ
では、中・高校生や家庭婦人や一般の初心者クラスがサービスの変化をしっかり見分けて良いレシーブをするためには、どのような点に気をつけたら良いか、特に重要な点を述べてみよう。
まず第一に、相手がサービスをするときの特にインパクトの瞬間の手首の動き、ラケットの角度、それとからだ全体の動きをよく見ることだ。相手の手首に、大きな穴があくほど集中して見る必要がある。インパクトの瞬間にすでにボールの回転を見るつもりで、最高に集中して見ることだ。なぜならば、インパクトの瞬間のスイングの速さというのは、一般に想像されている以上に速いし、ボールがラケットに当たる位置によってもボールの回転は違うからでもある。このような最高の集中力でみれば正確に変化が見分けられる。
それと、もう1つ大事なことがある。ボールをよく見て打つことだ。それもただ漠然として見るのではダメだ。日本では青色のマーク、中国では赤色のマークが入っているがレシーブするときにそのマークをよく見て、どのぐらい強く回転しているか判断してレシーブすることである。よく切れているサービスならば、マークが全然見えないほど鋭い回転をしているし、あまり切れていないときはマークの色が見える。ナックル性サービスならば、さらにボールのマークがはっきりと見える。このように相手がサービスを出す瞬間と自分のラケットにあたるまで、ボールのマークをよく見てレシーブすれば、人間の能力としてはベストに近い判断をすることができる。中・高校生や、初心者の人達がこのようなことに注意してレシーブし、そして早く慣れれば1週間後、2週間後にはだいぶレシーブがよくなっているだろう。
しかし、このためには次のような点にも注意することが必要だ。
顔をボールの近くまで持っていけ!
レシーブの構えはコートの近くで構えよ!
1つは、レシーブのとき顔をボールの近くまで持っていくことである。あまり近づけすぎるとおかしな打ち方になるのでよくないが、フォアハンドロングを打つときと同じ30~35センチぐらいまで動く必要がある。その際、目の高さはボールの高さより少し上ぐらいまで顔を低くしたほうがボールが高く見えてレシーブしやすい。また、そのほうが膝、腰、腕等もスムーズに使えてレシーブしやすい利点もある。
もう1つは、レシーブの位置をコートの近くで構えることである。この位置も、もちろん近過ぎても遠過ぎてもダメである。昨年のバーミンガム大会で世界チャンピオンになった河野選手でさえ、大学1年生のころはコートから3メートルぐらい離れた位置で構え、その位置から相手がサービスのモーションを起こすと同時に前に出て来たが、動きの中でサービスを見ていたために正確な変化を見分けることができずそれが一つの原因で今一歩の成績だった。
しかし、その後レシーブの位置を考えたのだろう。バーミンガム大会のときは、コートから約60~70センチの近い位置で構えを取っていた。つまり、20~30センチ微調整すれば短いサービスも深いロングサービスも打ち返せる位置である。カットの第一人者の高島選手も、90センチ前後の、やはり台上のボールの処理がやりやすい位置で構えている。
それともう1つは、この2人に限らず世界的に活躍する選手のレシーブの構えを見て感じることは「からだ全体でボールを注視している」ことである。もう少し詳しくいうと、レシーブするときに、足の先、髪の毛1本1本まで神経を行きわたらせて「このレシーブはこう」。「これはこう」とからだ全体でボールを見る感じでレシーブしているのである。
レシーブが下手な選手はどうか、というとそうではない。先日、新潟県のある町へ、中・高校生と家庭婦人、社会人選手の指導に行き地元の選手と試合をしたが、私が出した短いサービスに対してつっこみの悪い選手や、レシーブの構えをとったときに顔だけはこちら側を向いているがからだは違う方向に向いている選手がいた。また、カットマンでコートから1.5メートルぐらい遠くへ離れて構えている選手もいた。このような選手は、全員レシーブに問題があった。
やはり、短い変化サービスをレシーブするときは、顔とボールとの距離が30~35センチぐらいのところまで、しっかり前へ動いてボールをよく見て打ち返す。引きつけて打つことができるので安定する。レシーブの構えは、遠からず、近からずの60~80センチぐらいの位置で構える。顔の位置はボールの高さよりやや高い位置まで落とす。それと目だけでなく、からだ全体でボールをよく見るようにするといった基本を守ることが大事だ。
ボールをよく見るようにはしたが、また見すぎないようにも気をつけた
私は、いままで述べたことを実行するため、次のようなことに注意してきた。
1つは、ボールをよく見るようにはしたが見すぎないようにしたことだ。なぜならば、ボールを見ることばかりにこだわると、相手の動きが見えなくなってしまいレシーブからの4球目攻撃がおろそかになる。つまり、インパクト後は、すぐにボールの行方と相手の動きを見なければならないが、ボールを見すぎると打ったあとも顔が残り、ボールの行方と相手の動きを見遅れいい4球目攻撃ができなくなってしまう。相手の3球目攻撃を封じるには、打球する前相手の動きを少し見るようにする必要がある。このようにしたときは、いい4球目攻撃や守備が実にやりやすかった。
また私は試合のとき、古いボールを使わず新しいボールを使った。それは、もちろんボールのマークで回転を見分けるためであった。それに、新しいボールははっきり見えることからどこが頂点かよくわかり頂点をとらえやすかったからである。
たとえば、よくあるのは変化サービスに対して「たぶんこのぐらい切れているだろう」と思ってレシーブしたのが思ったより切れていてネットにひっかけたり横に出してしまったりする。「たぶんドライブ性ロングサービスだろう」と思ってレシーブしたのが、実はナックル性ロングサービスでネットにひっかける。または「よく切れた下切れだろう」と思ったのが切れていなくてオーバーミスをするなどだ。
このように「たぶんこのぐらいだろう」という選手が多いが、相手がミスさせようとして出したサービスを半コートの大きさが、縦137センチ、横152センチの狭い、しかも15.25センチのネットの上を通り越してレシーブしなければならないだけに、だろうの甘い考え方では、いつまでたっても上達しないものである。
また、4球目を考えすぎて迷ったときや集中力がないときによくあるが、インパクトのときは変化を見分けているようなのに、レシーブする前に変化を忘れておかしなレシーブをする選手もいる。これもせっかく変化を見分けても何にもならない。
相手の手首を穴があくほど集中して見よ
では、中・高校生や家庭婦人や一般の初心者クラスがサービスの変化をしっかり見分けて良いレシーブをするためには、どのような点に気をつけたら良いか、特に重要な点を述べてみよう。
まず第一に、相手がサービスをするときの特にインパクトの瞬間の手首の動き、ラケットの角度、それとからだ全体の動きをよく見ることだ。相手の手首に、大きな穴があくほど集中して見る必要がある。インパクトの瞬間にすでにボールの回転を見るつもりで、最高に集中して見ることだ。なぜならば、インパクトの瞬間のスイングの速さというのは、一般に想像されている以上に速いし、ボールがラケットに当たる位置によってもボールの回転は違うからでもある。このような最高の集中力でみれば正確に変化が見分けられる。
それと、もう1つ大事なことがある。ボールをよく見て打つことだ。それもただ漠然として見るのではダメだ。日本では青色のマーク、中国では赤色のマークが入っているがレシーブするときにそのマークをよく見て、どのぐらい強く回転しているか判断してレシーブすることである。よく切れているサービスならば、マークが全然見えないほど鋭い回転をしているし、あまり切れていないときはマークの色が見える。ナックル性サービスならば、さらにボールのマークがはっきりと見える。このように相手がサービスを出す瞬間と自分のラケットにあたるまで、ボールのマークをよく見てレシーブすれば、人間の能力としてはベストに近い判断をすることができる。中・高校生や、初心者の人達がこのようなことに注意してレシーブし、そして早く慣れれば1週間後、2週間後にはだいぶレシーブがよくなっているだろう。
しかし、このためには次のような点にも注意することが必要だ。
顔をボールの近くまで持っていけ!
レシーブの構えはコートの近くで構えよ!
1つは、レシーブのとき顔をボールの近くまで持っていくことである。あまり近づけすぎるとおかしな打ち方になるのでよくないが、フォアハンドロングを打つときと同じ30~35センチぐらいまで動く必要がある。その際、目の高さはボールの高さより少し上ぐらいまで顔を低くしたほうがボールが高く見えてレシーブしやすい。また、そのほうが膝、腰、腕等もスムーズに使えてレシーブしやすい利点もある。
もう1つは、レシーブの位置をコートの近くで構えることである。この位置も、もちろん近過ぎても遠過ぎてもダメである。昨年のバーミンガム大会で世界チャンピオンになった河野選手でさえ、大学1年生のころはコートから3メートルぐらい離れた位置で構え、その位置から相手がサービスのモーションを起こすと同時に前に出て来たが、動きの中でサービスを見ていたために正確な変化を見分けることができずそれが一つの原因で今一歩の成績だった。
しかし、その後レシーブの位置を考えたのだろう。バーミンガム大会のときは、コートから約60~70センチの近い位置で構えを取っていた。つまり、20~30センチ微調整すれば短いサービスも深いロングサービスも打ち返せる位置である。カットの第一人者の高島選手も、90センチ前後の、やはり台上のボールの処理がやりやすい位置で構えている。
それともう1つは、この2人に限らず世界的に活躍する選手のレシーブの構えを見て感じることは「からだ全体でボールを注視している」ことである。もう少し詳しくいうと、レシーブするときに、足の先、髪の毛1本1本まで神経を行きわたらせて「このレシーブはこう」。「これはこう」とからだ全体でボールを見る感じでレシーブしているのである。
レシーブが下手な選手はどうか、というとそうではない。先日、新潟県のある町へ、中・高校生と家庭婦人、社会人選手の指導に行き地元の選手と試合をしたが、私が出した短いサービスに対してつっこみの悪い選手や、レシーブの構えをとったときに顔だけはこちら側を向いているがからだは違う方向に向いている選手がいた。また、カットマンでコートから1.5メートルぐらい遠くへ離れて構えている選手もいた。このような選手は、全員レシーブに問題があった。
やはり、短い変化サービスをレシーブするときは、顔とボールとの距離が30~35センチぐらいのところまで、しっかり前へ動いてボールをよく見て打ち返す。引きつけて打つことができるので安定する。レシーブの構えは、遠からず、近からずの60~80センチぐらいの位置で構える。顔の位置はボールの高さよりやや高い位置まで落とす。それと目だけでなく、からだ全体でボールをよく見るようにするといった基本を守ることが大事だ。
ボールをよく見るようにはしたが、また見すぎないようにも気をつけた
私は、いままで述べたことを実行するため、次のようなことに注意してきた。
1つは、ボールをよく見るようにはしたが見すぎないようにしたことだ。なぜならば、ボールを見ることばかりにこだわると、相手の動きが見えなくなってしまいレシーブからの4球目攻撃がおろそかになる。つまり、インパクト後は、すぐにボールの行方と相手の動きを見なければならないが、ボールを見すぎると打ったあとも顔が残り、ボールの行方と相手の動きを見遅れいい4球目攻撃ができなくなってしまう。相手の3球目攻撃を封じるには、打球する前相手の動きを少し見るようにする必要がある。このようにしたときは、いい4球目攻撃や守備が実にやりやすかった。
また私は試合のとき、古いボールを使わず新しいボールを使った。それは、もちろんボールのマークで回転を見分けるためであった。それに、新しいボールははっきり見えることからどこが頂点かよくわかり頂点をとらえやすかったからである。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1978年7月号に掲載されたものです。