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「作戦あれこれ」第67回 異質ラバー作戦③ アンチの攻撃と対戦した場合

 小野とベンクソンが蔡振華をストレートで破る

 ノビサド世界選手権大会の日本対中国戦で一番に出た世界チャンピオンの小野が、アンチのシェーク攻撃型・蔡振華を見事なプレーでストレートで破った。このあと、中国の若い力に5点連取されて敗れたが、蔡振華を破ったのは全試合を通じて、郭躍華、ベンクソン(スウェーデン)、小野の3人だけであった。危ないと思われたハンガリーとの決勝戦でも、蔡はクランパ、ゲルゲリーの2人の強豪をなぎ倒し団体戦優勝の立役者となった。
 では、なぜ彼等が勝ったか?3人とも世界No.1になった選手だから当然といえばそれまでだが、それにもまして攻め方が実にうまかったからだ。もし攻め方がまずかったら蔡得意の3球目強ドライブを浴びて負けていただろう。
 前号では、①勇敢な精神と自信を持ってやること ②最適打球点まで早く動くこと ③ドライブロングサービスを多く使い、サービスから激しくゆさぶること ④中盤から勝てる試合のやり方をすること。この4つのことを述べたが、小野、ベンクソン、郭躍華のプレーを見てその外にどんなことに注意したらよいか。異質攻撃マンに弱い人はどんな人かを述べよう。

 下を見ながらサービス、レシーブをするな

 まず悪い例から述べよう。チェコはノビサドの世界選手権団体戦で、前回に続いて4位の好成績を残したが蔡振華には完敗した。その1つの原因は、下を見ながらサービスを出していたからだ。これは絶対にしてはならない。なぜなら、下を見ているスキにラケットを反転され、相手に好きなように変化をつけられて3球目攻撃がやりにくくなってしまうからだ。また、事前に相手のレシーブ面を判断することができないために3球目の動きが遅れ、折角のサービスチャンスを生かすことができない。
 レシーブもサービスのときと同じことがいえる。日本の中・高校生に多いが、よくサービスが目の前の床から出されるかのように、下を向いて構え、相手がサービスを出す直前にあわてて顔を上げてレシーブする人がいる。これではどちらの面に持ちかえたのかわからない。しかも、激しい頭の動きから、集中力が薄れ、ツッツキレシーブするのも困難になってしまう。
 同様に、ネットの網から相手の動作を見るような低いレシーブの構えもよくない。背の低い人は仕方がないがふつうの身長の人が低く構えると、ラバーの色で変化が見分けられるチャンスを逃してしまうからだ。
 では、どのようなサービスの出し方、レシーブの構え方がよいか。注意点を述べよう。

 相手の動きを見ながらサービスを出す

 サービスを出すとき重要なことは、小野選手、ベンクソン選手のように「インパクトの直前まで相手の動きを見て、インパクト直後、すぐに相手の動きを見る」ことだ。これは、異質の攻撃マンとやるときだけでなく、どんなタイプとやるときでも非常に重要なことだ。サービスを出すときの基本だ。そうすればレシーブの直前にラケットを反転させる選手と対戦しても、打球する前にある程度の判断の目安はつく。それによってずいぶん3球目攻撃がやりやすくなるものだ。
 レシーバー側からすれば、ここまで注意深く見られたら、なかなかラケットをかえることができない。特に競ったときはできにくい。もし、変えるとしたら変化に賭けたときとか、サーバー側の心理を攪乱させるためにはじめに逆に持って元にもどすときであろう。なぜなら早く攻められたときに、ラケットを回すと慣れている人でもミスが出やすいからだ。

 コートの近くで高く構えよ

 レシーブの位置はコートの近くで、姿勢は高く構えたほうがよい。
 この使い分けをうまくやったのは、河野選手('77年世界チャンピオン)だ。彼はドライブ選手や速攻選手とやるときは、目とボールを結ぶ線がネットの白線ぎりぎりのところからボールを見るように、どっしりと構える。しかし、シングルスの準決勝で異質のカット主戦だが、変化サービスから3球目攻撃がうまい梁戈亮(中国)と対戦したときは、変化を見分けやすいように目とボールを結んだ線がネットの白線より15センチぐらいになるように高く構えた。はじめは不慣れなために出足が遅れたり、集中力が散漫になってレシーブミスが出た。が、慣れるにしたがって出足も集中力もよくなり、梁をカットに追い込んでスマッシュを決め、団体戦の雪辱を果たしたと同時に、決勝戦に駒を進めて初優勝を飾った。
 アンチ攻撃マンと対戦したときも、まったくこれと同じことがいえる。低い姿勢で構えている人や、遠くで構えている人はどうしても変化が見分けづらい。少し高く構えれば、ラバーの色でサービスを出す前にわかることがあるものだ。
 しかし、これも河野選手でさえそうであったように、出足が遅れたり、集中力が散漫になったり、タイミングが狂ったりする。すぐにはなかなかよいレシーブはできないものだ。アンチ攻撃マンに備えて、ロング対ロングの練習のときから、このレシーブのやり方を課題として練習する必要がある。

 バックサイドを攻めてフォアをつけ

 コースのつき方について述べよう。フォアハンド側を裏ソフト、バック側をアンチで主に戦う選手には、バックサイドを連続して攻めバックに寄せておいてからフォアを攻めるとよい。
 とくにこの戦法はレシーブのときに効果的だ。なぜかというと、アンチと裏ソフトを反転させて出してくるサービスは見分けづらいため、ミスしないように山なりのドライブでレシーブすることが多い。このドライブをいきなりフォアへ持っていくと、待ってましたとばかりに強打を浴びたり、両サイドに振り回されてしまう。しかし、ループでもバックのサイドを切るようにレシーブすると相手はアンチで返してくる。この打球は飛んでこないが前にしっかり動けば狙える。フォアへレシーブしたときより攻めやすいボールだ。それに、アンチのショートはスピードがないのでしっかり動けば連続攻撃もしやすい。
 そして、バックに寄せておいてからフォアサイドに決める。なぜなら、アンチの攻撃マンは両面待ちをすることからフォアへの動きが悪い。世界第2位の蔡振華もこう攻められると実に弱かった。もちろん、同じパターンばかりだと狙い打ちされるので、ときどきはミドルを強襲するとかして攻撃に変化をつける必要があるのはいうまでもない。

 コースの甘いレシーブ・3球目攻撃はきかない

 私は先日、全日本実業団東京都代表の学習研究社から招待を受けて、学習研究社、駒沢大学の2チームと香港チームの試合を見た。このとき、私は香港No.1のアンチ攻撃マン、ラウ・チュン・ファン選手と試合をした。ラウは、国際ユース大会で中国の若手ホープ、江加良とゲームオールの試合をしている。サービスが大変わかりにくく、それからの3球目ドライブ攻撃がうまい。また、ドライブをアンチと裏のショートで止めるのがうまい選手であった。
 私は、7月号の述べた作戦あれこれを主体に戦ってみた。サービスのときは、ドライブロングサービスを多く使い、サービスから激しくゆさぶった。レシーブのときは、ドライブで積極的に攻めた。逆にわかりにくい変化サービスを弱気になってツッツいたときは、ほとんど得点された。
 この時、勉強になったことがたくさんあった。とくに強く感じたことは、レシーブのコース、3球目のコースの取り方だった。
 はじめ私は、1バウンドで出てくるサービスや、ツッツキレシーブを強ドライブで攻めて得点していたが、そのうちに得点できなくなった。その原因はコースが甘かったからだ。それでクロスに攻めるときはサイドを切るように、ストレートへ打つときはクロスに打つように見せかけてストレートのコーナーいっぱいに狙った。とたんに決まり出して大きくつき離し1ゲーム目13本で勝った。アンチの選手は、両面で待ち、しかもラケットを反転させるため、逆モーションやサイドを切るボールには弱いのだ。

 回転に変化をつけると弱い

 次に強く感じたことは、ドライブの変化に弱いことだ。私は、変化がわかったサービスは思い切り強ドライブでコースをつくようにしたが、変化がわからないときはボールをしっかり見て変化を確かめながら少し山なりのドライブで変化をつけて返した。ラウは、意外にもそのボールを4~5本ネットミスやオーバーミスをした。両面で打球するため、アンチと裏のときの角度、押しの違いからミスが出るのだろう。日本対中国戦の小野と蔡振華戦でも小野の変化をつけたドライブが何本も効いていた。アンチはドライブの変化に弱いようだ。ただし、ループのときはその回転が残ってくる。そのカット性のボールを予測して狙っていこう。

 終盤フォア側にサービスを出されると弱い

 それともう1つは、前半、中盤にわたってバック、フォアにロングサービスを混ぜて激しくゆさぶり、終盤はフォアへドライブ性ロングサービスとショートサービスを出してゆさぶると効果的であることだ。
 私は2ゲーム目の中盤、暑さのために疲れて11対14とリードされたが、ドライブレシーブで積極的に攻めて14対16とした。ここから、バックにドライブロングサービスを出すモーションからフォアへナックル気味のロングサービスを2本連続して出し、1本目はバックにレシーブしてきたのを回り込んでミドルへ3球目ドライブ。2本目はサービスエースで16オール。3本目はフォア前へ斜め下切りサービスから、バッククロスへ強ドライブ3球目攻撃17-16。フォアへナックルロングサービスから3球目ドライブ攻撃18-16.フォア前へ鋭く切った下切りサービスエース19-16と逆転し、17本で試合を決めた。
 小野も蔡振華戦で1、2ゲームとも、最後の1本をフォアへの逆モーションドライブロングサービスで得点して試合を決めたが、アンチは前中盤にいろいろのサービスを出され、終盤、フォアへ逆モーションのロングサービスやショートサービスを出されると、バック側のアンチ面にサービスを出されることを恐れて、フォアへのスタートが遅れる。ただし、相手がヤマをはっているときはやめたほうがよい。バック側のサービスを警戒しているときに思い切って出そう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1981年9月号に掲載されたものです。
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