試合で良いレシーブをするための心構えとして「自信を持って臨む」「勇気をもってレシーブする」ことが大切だと前回述べた。しかし、良いレシーブをするためのコツ、心構えはほかにもいくつかある。今回はそのことについて述べよう。
自分の限界に挑戦し、思い切り動け
レシーブで大切なことの3番目は、足をしっかり動かすことだ。スタートが遅れたり、動きが鈍かったりすると狙い通りのレシーブはできない。特にフォアハンドでからだから遠い位置のフォア前サービスや、バックに鋭く食い込んでくる投げ上げサービス、スピードロングサービス等をレシーブすることが難しい。
足の動きが悪いと手先だけのレシーブになったり、動きの不足を体でカバーしようとしてラケットの角度が狂ったりするからだ。
ではどうしたら良いか?当然のことではあるが、スタートを早く切り、レシーブの位置まで思い切って素早く動くことだ。このときの動きが早ければ早いほどバウンドの頂点を十分な体勢でとらえることができる。そうすると、相手の動きを見ながら効果的なレシーブをすることができ、次の4球目攻撃に結びつけやすい。
しかし、このときに「早く動こう」ぐらいの気持ちでは素早い動きはできない。なかにはカカトをべったりつけて構えている選手さえいる。これではとても速く動けない。いつでもパッと飛び出せるようにかかとを上げ、足をこきざみに動かしながらレシーブの構えをとる。そして「どんなサービスでも狙い打ってやる。自分の限界に挑戦する気持ちで思い切り動くぞ!」という強い気概を持って臨むと早く動けるようになるものだ。
「がむしゃらに動け!」と木村監督
レシーブで"しっかり動く"ということで、私には強く印象に残っている試合がある。それは、初出場のストックホルムで行なわれた第29回世界選手権大会でのことである。この大会で日本は順調に勝ち進み、決勝進出をかけたソ連戦も大逆転勝ちして決勝進出を決めた。翌日の決勝戦の相手は、強豪朝鮮チームだった。
決勝戦の前夜、宿舎の一室でミーティングが行なわれた。緊張した雰囲気だった。このとき、監督兼選手だった木村さんがいろいろ話された中に「明日の決勝戦はとにかくがむしゃらに動け」というアドバイスがあった。それを聞いて私はよしこれだと思った。「ヨーシ、決勝戦はレシーブからがむしゃらに動くぞ!自分のフットワークの限界に挑戦し思い切り動くぞ!」と強く決心した。
決勝戦当日、私は「足をがむしゃらに動かすために」と朝食前からランニングやダッシュをやり、練習ではフットワークとレシーブを中心にコンディションの調整をした。そして、試合の直前にはレシーブからのシャドープレーを入念にやって試合に備えた。
試合が始まった。私はレシーブに回ったとき、「自分のフットワークの限界に挑戦し、思い切り動くぞ!」と1本ごとに自分に言い聞かせてレシーブに臨んだ。そのせいで競ったときでも、強く払うレシーブや、逆モーションドライブレシーブが思い切ってでき、大事なところで2勝して団体優勝の原動力となることができた。大変嬉しかった。
このとき、もし木村監督から「がむしゃらに動け」という話を聞かなかったり、聞いても試合当日はレシーブの動きをよくするトレーニングや練習、ウォーミングアップをやらなかったとしたら、おそらくこうはうまくいかなかったのではないかと思う。
サービスに全神経を集中させよ
レシーブの動きを早くするためには、どうしても欠かせないことがある。それはサービスに対する反応を早くすることだ。相手のサービスに対する読みが悪く、反応が遅いとそれだけスタートが遅れレシーブが悪くなる。
反応を早くするには、読みをよくすることと、相手のサービスに全神経を集中させることがコツだ。したがって、レシーブのこと以外考えないようにすることだ。よくレシーブのときに、1本前のサービスミスや、スマッシュミス、ドライブミスにこだわったりする選手がいる。あるいは、勝敗や他のコートの試合を気にしたり、不必要に相手の3球目攻撃を恐れながらレシーブする選手がいるが、これでは相手のサービスに集中できず、反応が遅れて良いレシーブは絶対にできない。このようなことがないように十分気をつけよう。
ボールをしっかり見てミートを強く
レシーブで大切なことの4番目は、ボールをインパクトまでしっかり見てミートを強くして打ち返すことだ。特に払うレシーブや、逆モーションレシーブ、また切るツッツキ、プッシュ、ドライブ、スマッシュなどの強気なレシーブをするときには、非常に大切なことだ。
ところが試合の下手な選手は、レシーブミスを恐がって払うにしてもツッツくにしても、ただ相手のコートに入れるだけのレシーブをしてしまう。このような安全第一のレシーブでは、威力がない上にもどりも遅れ相手に思い切り3球目攻撃をされてしまう。
ではどうしたら良いか?先に述べたようにボールをよく見、ミートを強くしてレシーブすることだ。しかし、このときにふつうの選手と同じぐらいの気持ちでは、威力があるレシーブはできない。払うレシーブで攻めるときは「一発で打ちぬくぞ」と思い、流しボールで攻めるときは「バックを打ち抜くぞ、回り込んだら腹にぶちあてるぞ」と決意する。ツッツキで攻めるときは「ネットまでとどかせないぞ」というぐらいの強気で思いきり切って攻めることが大切だ。そうすると自然にインパクトのときに体の力がラケットに集まり、ミートが鋭くなって威力あるレシーブができるようになるものである。
しかし、このとき注意することは、一発で打ち抜くぞとか、相手の腹にぶち当てるぞ...という気持ちのままレシーブするとどうしてもフォームが大きくなるので、台上のレシーブもロングサービスに対するレシーブも、「フォームは小さくして鋭く打つ」という気持ちで臨むことが大切だ。
ボールの芯を打つ気持ちで打て
ミートを強くしてレシーブするために、もう一つ大事なことはインパクトまでボールをしっかり見て打ち返すことだ。
ところが、このことをキチンと守っていない選手が非常に多い。一番多いのは、インパクトの20センチぐらい手前でボールから目が離れ「このぐらいの力で打てばいいだろう」とカンで打っている選手だ。このような選手は、きまってミートが弱い。
というのはボールを見ようと首を回せば自然に腰も回るのに、そうしないために腰が回らず手打ちになるからである。そのためにミスが非常に多い。
台上のボールを払う場合も、ロングサービスを打つ場合も腰を入れて打つためにインパクトまでしっかりボールを見て打つようにしよう。
私は、ボールを最後までよく見るようにするために、ボールの芯をラケットの芯でとらえるように心がけて練習した。それによってボールを最後まで見るクセがつき、威力あるレシーブができるようになった。
みなさんも、肉眼では見えないが、ボールの芯をラケットの芯でとらえるような気持ちでレシーブ練習すれば、きっとボールを最後まで見るクセがつき、レシーブが向上すると思う。
自分の限界に挑戦し、思い切り動け
レシーブで大切なことの3番目は、足をしっかり動かすことだ。スタートが遅れたり、動きが鈍かったりすると狙い通りのレシーブはできない。特にフォアハンドでからだから遠い位置のフォア前サービスや、バックに鋭く食い込んでくる投げ上げサービス、スピードロングサービス等をレシーブすることが難しい。
足の動きが悪いと手先だけのレシーブになったり、動きの不足を体でカバーしようとしてラケットの角度が狂ったりするからだ。
ではどうしたら良いか?当然のことではあるが、スタートを早く切り、レシーブの位置まで思い切って素早く動くことだ。このときの動きが早ければ早いほどバウンドの頂点を十分な体勢でとらえることができる。そうすると、相手の動きを見ながら効果的なレシーブをすることができ、次の4球目攻撃に結びつけやすい。
しかし、このときに「早く動こう」ぐらいの気持ちでは素早い動きはできない。なかにはカカトをべったりつけて構えている選手さえいる。これではとても速く動けない。いつでもパッと飛び出せるようにかかとを上げ、足をこきざみに動かしながらレシーブの構えをとる。そして「どんなサービスでも狙い打ってやる。自分の限界に挑戦する気持ちで思い切り動くぞ!」という強い気概を持って臨むと早く動けるようになるものだ。
「がむしゃらに動け!」と木村監督
レシーブで"しっかり動く"ということで、私には強く印象に残っている試合がある。それは、初出場のストックホルムで行なわれた第29回世界選手権大会でのことである。この大会で日本は順調に勝ち進み、決勝進出をかけたソ連戦も大逆転勝ちして決勝進出を決めた。翌日の決勝戦の相手は、強豪朝鮮チームだった。
決勝戦の前夜、宿舎の一室でミーティングが行なわれた。緊張した雰囲気だった。このとき、監督兼選手だった木村さんがいろいろ話された中に「明日の決勝戦はとにかくがむしゃらに動け」というアドバイスがあった。それを聞いて私はよしこれだと思った。「ヨーシ、決勝戦はレシーブからがむしゃらに動くぞ!自分のフットワークの限界に挑戦し思い切り動くぞ!」と強く決心した。
決勝戦当日、私は「足をがむしゃらに動かすために」と朝食前からランニングやダッシュをやり、練習ではフットワークとレシーブを中心にコンディションの調整をした。そして、試合の直前にはレシーブからのシャドープレーを入念にやって試合に備えた。
試合が始まった。私はレシーブに回ったとき、「自分のフットワークの限界に挑戦し、思い切り動くぞ!」と1本ごとに自分に言い聞かせてレシーブに臨んだ。そのせいで競ったときでも、強く払うレシーブや、逆モーションドライブレシーブが思い切ってでき、大事なところで2勝して団体優勝の原動力となることができた。大変嬉しかった。
このとき、もし木村監督から「がむしゃらに動け」という話を聞かなかったり、聞いても試合当日はレシーブの動きをよくするトレーニングや練習、ウォーミングアップをやらなかったとしたら、おそらくこうはうまくいかなかったのではないかと思う。
サービスに全神経を集中させよ
レシーブの動きを早くするためには、どうしても欠かせないことがある。それはサービスに対する反応を早くすることだ。相手のサービスに対する読みが悪く、反応が遅いとそれだけスタートが遅れレシーブが悪くなる。
反応を早くするには、読みをよくすることと、相手のサービスに全神経を集中させることがコツだ。したがって、レシーブのこと以外考えないようにすることだ。よくレシーブのときに、1本前のサービスミスや、スマッシュミス、ドライブミスにこだわったりする選手がいる。あるいは、勝敗や他のコートの試合を気にしたり、不必要に相手の3球目攻撃を恐れながらレシーブする選手がいるが、これでは相手のサービスに集中できず、反応が遅れて良いレシーブは絶対にできない。このようなことがないように十分気をつけよう。
ボールをしっかり見てミートを強く
レシーブで大切なことの4番目は、ボールをインパクトまでしっかり見てミートを強くして打ち返すことだ。特に払うレシーブや、逆モーションレシーブ、また切るツッツキ、プッシュ、ドライブ、スマッシュなどの強気なレシーブをするときには、非常に大切なことだ。
ところが試合の下手な選手は、レシーブミスを恐がって払うにしてもツッツくにしても、ただ相手のコートに入れるだけのレシーブをしてしまう。このような安全第一のレシーブでは、威力がない上にもどりも遅れ相手に思い切り3球目攻撃をされてしまう。
ではどうしたら良いか?先に述べたようにボールをよく見、ミートを強くしてレシーブすることだ。しかし、このときにふつうの選手と同じぐらいの気持ちでは、威力があるレシーブはできない。払うレシーブで攻めるときは「一発で打ちぬくぞ」と思い、流しボールで攻めるときは「バックを打ち抜くぞ、回り込んだら腹にぶちあてるぞ」と決意する。ツッツキで攻めるときは「ネットまでとどかせないぞ」というぐらいの強気で思いきり切って攻めることが大切だ。そうすると自然にインパクトのときに体の力がラケットに集まり、ミートが鋭くなって威力あるレシーブができるようになるものである。
しかし、このとき注意することは、一発で打ち抜くぞとか、相手の腹にぶち当てるぞ...という気持ちのままレシーブするとどうしてもフォームが大きくなるので、台上のレシーブもロングサービスに対するレシーブも、「フォームは小さくして鋭く打つ」という気持ちで臨むことが大切だ。
ボールの芯を打つ気持ちで打て
ミートを強くしてレシーブするために、もう一つ大事なことはインパクトまでボールをしっかり見て打ち返すことだ。
ところが、このことをキチンと守っていない選手が非常に多い。一番多いのは、インパクトの20センチぐらい手前でボールから目が離れ「このぐらいの力で打てばいいだろう」とカンで打っている選手だ。このような選手は、きまってミートが弱い。
というのはボールを見ようと首を回せば自然に腰も回るのに、そうしないために腰が回らず手打ちになるからである。そのためにミスが非常に多い。
台上のボールを払う場合も、ロングサービスを打つ場合も腰を入れて打つためにインパクトまでしっかりボールを見て打つようにしよう。
私は、ボールを最後までよく見るようにするために、ボールの芯をラケットの芯でとらえるように心がけて練習した。それによってボールを最後まで見るクセがつき、威力あるレシーブができるようになった。
みなさんも、肉眼では見えないが、ボールの芯をラケットの芯でとらえるような気持ちでレシーブ練習すれば、きっとボールを最後まで見るクセがつき、レシーブが向上すると思う。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1984年2月号に掲載されたものです。