東京選手権を見て
3月1日から3日間にわたって行なわれた東京選手権は世界選手権出場メンバーはじめ、実業団、大学、高校のトッププレーヤーはほとんどが参加する"春の全日本"と呼ばれるにふさわしい盛大な大会だった。
しかし、この大会を見たわたしは、世界のレベルとくらべ、特に女子選手に対して一抹の不安を感じざるをえなかった。今のレベルでは中国はおろか、レベルが上がってきた朝鮮、韓国、ヨーロッパの選手にもとてもたちうちできそうにない。また男子にしても、爆発的なパワーやフットワークをみせる若手や個性的なプレーをする選手が少なく停滞を感じた。
女子の場合は世代交代期であること、男子の場合は実業団のレベルが上がり若手が勝ちずらくなったこと、また世界的にみれば男女とも選手層が以前より厚くなったこと...などが、この不安(日本不振)の原因であるのか、と考えてもみたがどうもそればかりではなさそうだ。そこで、もっと基本的なところに選手が伸び悩んでいる原因があるのではないかと思って大会を見るうち「以前の選手より、全体として腰を使って打球していない」ことに気づいた。
そう思って試合をみると、たしかにしっかり腰を使ってプレーしている選手が少ない。攻撃選手だけでなくカットマンもそうである。しっかり腰を使って威力あるスマッシュ、ドライブを打っているのは、斉藤(明大)、小野(日本楽器)選手はじめ、ほんの一握りの選手だけだった。東京選手権に出場できるのは日本のトップの選手だけである。この選手たちのほとんどがこうであるのだから、その他の全国の選手たちが腰を使って打っていないのは火をみるよりも明らかである。
腰を使うことは基本中の基本
腰に限らず、からだ全体を使い、基本を守って打つことは非常に大切である。また、一口に腰を使うといっても、サービスやバック系技術の時も腰を使うことは大切であるが、ここでは「フォアロングの時に腰を使うことがいかに大切か」ということを述べてみたい。
では、フォアロングを打つ時、腰を使わないで打つとどのような欠点が出るかというと
①振りが遅い
②コントロールが悪い
③打球のリズムがとれない
④変化球に弱い
⑤凡ミスが多い
⑥からだ全体を使えない
⑦打球コースを読まれる
...といったことになる。つまり、裏をかえせば、
①腰をひねってバックスイングをとり、正しい重心移動をしながら腰を回転させれば、スイングが速くなる
②足をしっかり動かし、腰をひねって、打球方向へ向けば狙ったところにボールがいきやすいし、前への押しが加わるのでコントロールがよくなる
③ボールのスピードに合わせて腰をひねれば、速い打球に対しては小さくすばやく、ゆるいボールに対してはゆっくり大きめにリズムをとってボールを待つことができ、急に高くあがったチャンスボールに対してもミスが出ない
④腰をひねって、半身の形をとれば、いわゆるふところが深くなって、多少ボールの深さが違っても正しい押しを加えて打球することができるため、ツッツキ打ち、カット打ち、ドライブ打ちにミスが出ない
⑤腰を使い、体で覚えたスイングは、大事な場面でも正確な打球をしやすい
⑥腰のひねりを利用し、ステップバックや前への踏み込みがやりやすい。また、飛びつき、回り込みの時も自然に正確な動作ができる
⑦体をひねってバックスイングをとると、腰をひねらず打つ方向に体が向いている場合と違って、相手はどのコースに打ってくるかわからない
...ということが、腰を使って打つことによって自然に身についてくる。また、このほかにもレシーブ、3球目にミスが少なくなり威力がでる、ラリー戦に強くなる、等たくさんの長所がある。
なぜ腰を使わなくなったか
では、なぜこのように大切な「腰を使ったプレー」をみんなが心がけなくなったのかを考えてみると、三つの原因があると思う。
一つは、中国卓球等に影響され、速いプレーをしようとするあまり、台についてショート系の合わせるプレーになっているのではないか?たしかに両ハンドを使いピッチの速い卓球をすることは大切だが、打球点が早ければいいというものではない。いかに動きを速くして、腰を使った威力のある決定打を打つかが大切なのである。中国選手であれば肘や手首をフルに使って前陣でも威力のある打球がでるように工夫し、ちょっとでも時間のある時は腰を使ったスマッシュを打つ。そこのところを見のがしては大きなマイナスだ。
次に、フォアハンドの重要性をかろんじているのではないか?バック系技術はたしかに大切だが、やはり打球の威力はフォアハンドのスマッシュ、ドライブほどは出ない。このフォアハンドに威力がなければ試合で勝つことはできない。フォアハンドに威力と安定性をつける努力が何より大切である。
三つ目に、サービス、レシーブの練習をすることは大切なことだが、サービスであれば「3球目の威力あるフォアハンド攻撃に結びつけること」「レシーブであればフォアハンドの基本ができてこそよいレシーブができ、4球目の攻撃に結びつけられるのだ」ということをもう一度確認することが大切だ。サービスだけのサービス練習、レシーブだけのレシーブ練習でなく、威力あるフォア攻撃に結びつけることを考えて練習しよう。
腰をつかうための練習法
さて、それではどのような練習をしたら、腰を使ったフォアハンドが身につくかを考えてみよう。
腰を上手に使うことは、決して難しいことではない。そして一度身につければいろいろな技術に応用できる。ただ、マスターするためにやや時間がかかるだけだ。
正確な腰の使い方をマスターするためにはまず上手な選手のプレーを連続写真等を参考にマネすることだ。そして素振りをたくさんして腰を使ったフォームの感覚をつかむ。
それができたら1本打ちだ。
まず、左足を半歩前にした基本姿勢をとり、相手にやさしいロングサービスを出してもらう。そして、そのボールにあわせて左腰(右利き)を右側にしっかりひねり、そこからスイングする。野球やテニスのスイングと同じで、腕より常に腰が先に回る形になる。
この1本打ちで腰をしっかり回すクセをつけたら、次にクロス、ストレートで続ける練習をし、しっかり腰を使って打っているかチェックしよう。
これらの練習で腰を使って打てるようになったら三歩動の空フットワーク(ボールを使わないフットワークのシャドープレー)に挑戦しよう。三歩動の左右のフットワーク、前後のフットワークをしながら、正確にしっかり腰を使って打てるようになれば実戦でも腰を使ったプレーができるようになる。
そして、スマッシュ練習、ゲーム練習の時もしっかり腰を使っているかどうかチェックしながらやろう。
このように普段から腰をつかって打球するように心がけていると、打球に威力と安定性がでるうえ、プレーのスケールが大きくなる。スケールの大きな卓球で試合に勝てるよう、腰を使って打球しよう。
3月1日から3日間にわたって行なわれた東京選手権は世界選手権出場メンバーはじめ、実業団、大学、高校のトッププレーヤーはほとんどが参加する"春の全日本"と呼ばれるにふさわしい盛大な大会だった。
しかし、この大会を見たわたしは、世界のレベルとくらべ、特に女子選手に対して一抹の不安を感じざるをえなかった。今のレベルでは中国はおろか、レベルが上がってきた朝鮮、韓国、ヨーロッパの選手にもとてもたちうちできそうにない。また男子にしても、爆発的なパワーやフットワークをみせる若手や個性的なプレーをする選手が少なく停滞を感じた。
女子の場合は世代交代期であること、男子の場合は実業団のレベルが上がり若手が勝ちずらくなったこと、また世界的にみれば男女とも選手層が以前より厚くなったこと...などが、この不安(日本不振)の原因であるのか、と考えてもみたがどうもそればかりではなさそうだ。そこで、もっと基本的なところに選手が伸び悩んでいる原因があるのではないかと思って大会を見るうち「以前の選手より、全体として腰を使って打球していない」ことに気づいた。
そう思って試合をみると、たしかにしっかり腰を使ってプレーしている選手が少ない。攻撃選手だけでなくカットマンもそうである。しっかり腰を使って威力あるスマッシュ、ドライブを打っているのは、斉藤(明大)、小野(日本楽器)選手はじめ、ほんの一握りの選手だけだった。東京選手権に出場できるのは日本のトップの選手だけである。この選手たちのほとんどがこうであるのだから、その他の全国の選手たちが腰を使って打っていないのは火をみるよりも明らかである。
腰を使うことは基本中の基本
腰に限らず、からだ全体を使い、基本を守って打つことは非常に大切である。また、一口に腰を使うといっても、サービスやバック系技術の時も腰を使うことは大切であるが、ここでは「フォアロングの時に腰を使うことがいかに大切か」ということを述べてみたい。
では、フォアロングを打つ時、腰を使わないで打つとどのような欠点が出るかというと
①振りが遅い
②コントロールが悪い
③打球のリズムがとれない
④変化球に弱い
⑤凡ミスが多い
⑥からだ全体を使えない
⑦打球コースを読まれる
...といったことになる。つまり、裏をかえせば、
①腰をひねってバックスイングをとり、正しい重心移動をしながら腰を回転させれば、スイングが速くなる
②足をしっかり動かし、腰をひねって、打球方向へ向けば狙ったところにボールがいきやすいし、前への押しが加わるのでコントロールがよくなる
③ボールのスピードに合わせて腰をひねれば、速い打球に対しては小さくすばやく、ゆるいボールに対してはゆっくり大きめにリズムをとってボールを待つことができ、急に高くあがったチャンスボールに対してもミスが出ない
④腰をひねって、半身の形をとれば、いわゆるふところが深くなって、多少ボールの深さが違っても正しい押しを加えて打球することができるため、ツッツキ打ち、カット打ち、ドライブ打ちにミスが出ない
⑤腰を使い、体で覚えたスイングは、大事な場面でも正確な打球をしやすい
⑥腰のひねりを利用し、ステップバックや前への踏み込みがやりやすい。また、飛びつき、回り込みの時も自然に正確な動作ができる
⑦体をひねってバックスイングをとると、腰をひねらず打つ方向に体が向いている場合と違って、相手はどのコースに打ってくるかわからない
...ということが、腰を使って打つことによって自然に身についてくる。また、このほかにもレシーブ、3球目にミスが少なくなり威力がでる、ラリー戦に強くなる、等たくさんの長所がある。
なぜ腰を使わなくなったか
では、なぜこのように大切な「腰を使ったプレー」をみんなが心がけなくなったのかを考えてみると、三つの原因があると思う。
一つは、中国卓球等に影響され、速いプレーをしようとするあまり、台についてショート系の合わせるプレーになっているのではないか?たしかに両ハンドを使いピッチの速い卓球をすることは大切だが、打球点が早ければいいというものではない。いかに動きを速くして、腰を使った威力のある決定打を打つかが大切なのである。中国選手であれば肘や手首をフルに使って前陣でも威力のある打球がでるように工夫し、ちょっとでも時間のある時は腰を使ったスマッシュを打つ。そこのところを見のがしては大きなマイナスだ。
次に、フォアハンドの重要性をかろんじているのではないか?バック系技術はたしかに大切だが、やはり打球の威力はフォアハンドのスマッシュ、ドライブほどは出ない。このフォアハンドに威力がなければ試合で勝つことはできない。フォアハンドに威力と安定性をつける努力が何より大切である。
三つ目に、サービス、レシーブの練習をすることは大切なことだが、サービスであれば「3球目の威力あるフォアハンド攻撃に結びつけること」「レシーブであればフォアハンドの基本ができてこそよいレシーブができ、4球目の攻撃に結びつけられるのだ」ということをもう一度確認することが大切だ。サービスだけのサービス練習、レシーブだけのレシーブ練習でなく、威力あるフォア攻撃に結びつけることを考えて練習しよう。
腰をつかうための練習法
さて、それではどのような練習をしたら、腰を使ったフォアハンドが身につくかを考えてみよう。
腰を上手に使うことは、決して難しいことではない。そして一度身につければいろいろな技術に応用できる。ただ、マスターするためにやや時間がかかるだけだ。
正確な腰の使い方をマスターするためにはまず上手な選手のプレーを連続写真等を参考にマネすることだ。そして素振りをたくさんして腰を使ったフォームの感覚をつかむ。
それができたら1本打ちだ。
まず、左足を半歩前にした基本姿勢をとり、相手にやさしいロングサービスを出してもらう。そして、そのボールにあわせて左腰(右利き)を右側にしっかりひねり、そこからスイングする。野球やテニスのスイングと同じで、腕より常に腰が先に回る形になる。
この1本打ちで腰をしっかり回すクセをつけたら、次にクロス、ストレートで続ける練習をし、しっかり腰を使って打っているかチェックしよう。
これらの練習で腰を使って打てるようになったら三歩動の空フットワーク(ボールを使わないフットワークのシャドープレー)に挑戦しよう。三歩動の左右のフットワーク、前後のフットワークをしながら、正確にしっかり腰を使って打てるようになれば実戦でも腰を使ったプレーができるようになる。
そして、スマッシュ練習、ゲーム練習の時もしっかり腰を使っているかどうかチェックしながらやろう。
このように普段から腰をつかって打球するように心がけていると、打球に威力と安定性がでるうえ、プレーのスケールが大きくなる。スケールの大きな卓球で試合に勝てるよう、腰を使って打球しよう。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1985年5月号に掲載されたものです。