3月28日~4月7日、私は第38回世界選手権エーテボリ大会の取材にスウェーデンへ飛んだ。
スウェーデンは私が初出場の1967年ストックホルム大会で初優勝した国で、日本にとっては1957年5種目、1967年6種目に優勝した縁起のいい国。今大会も、と期待したが、結果は宮崎、石田の活躍にとどまった。
しかし石田の活躍は、高校1年生でも世界の強豪と互角に戦えることを証明したくれた。他の日本の中学生、高校生もぜひ大きな目標をもってがんばってほしい。
表ソフトが大活躍した世界大会
さて、今回の世界大会の大きな特徴としては表ソフト速攻型の大活躍があげられる。男子シングルスのベスト4に表ソフト攻撃型が3人(江加良、陳竜燦、滕毅)、ベスト8に5人(前記3人と謝賽克、韓国の金琦沢)、女子も表ソフトの戴麗麗が団体、複の2冠王となった。
また、国内の試合でも、現在、表ソフト攻撃型の活躍が目立っているし、今後はますます表ソフト速攻型が増えてくることだろう。そのため、ドライブマンの表ソフト攻撃型対策もますます重要になってくる。3年前に一度表ソフト前陣攻撃型の攻略法について述べたが、今大会のプレーの動向を前提に、今の時代にあった対表ソフト攻略法をもう一度考えてみよう。
また、これから述べることは、表ソフト攻略法ではあるが、同時に表ソフト攻撃型の選手にも必ず役立つことと思う。ぜひ参考にしてほしい。
戦術がよければ必ず勝てる
私の体験から、表ソフト攻撃型に勝つためには、技術もさることながら、何よりも戦術、それも相手の技術に応じた戦術が大切である。まずこのことを十分に知っておく必要がある。
そして、この戦術を考えるためには、最近の表ソフト前陣攻撃型の技術を知らなくてはならない。
さて、それでは世界選手権で活躍した選手たちが今までの表ソフト攻撃型と比べてどう変ったかというと、
①ツッツキやカットサービスに対して強いドライブで攻撃する(ドライブの威力、変化が増した) ②ドライブ処理、レシーブ等で横回転ショートを使う選手が増えた ③サービス、ドライブ、強打で逆モーションをうまく使う ④対ドライブ攻略の研究が進みドライブ打ち、ミドル攻撃、ドライブ処理がうまくなった ⑤台上処理(フォアで払う、フォアで切ってツッツく)がよくなった...等だ。
今後の表ソフト攻撃型は、こういう技術傾向にあることを、ドライブ型も速攻型もしっかり頭に入れておく必要がある。
同時にドライブマンにとっては、これまでの表ソフト攻撃対策の練習プラス、これらの新傾向に対応する練習もしておかなければ勝てない時代になってきた。
しかし、改良されてきた現在の表ソフト攻撃型にも弱点はあり、正しくその弱点を攻めれば勝てる。
ではどのように戦ったらよいのだろうか。
相手の弱いパターンを早く見つける
まず試合で考えることは「相手はどのようなパターンに持ち込まれると弱いか」をいち早く見抜くことだ。
このことはなかなか難しいが、他選手との試合を見たり、対戦中にいろいろな攻めをすることで見抜ける。
たとえば、フォアサイドからは強打できないとか、動きながらのショートにミスが多いとか、台上処理が下手だとかいう弱点がないか調べることだ。
それと関連して試合中に考えなくてはならない大事なことがある。それは、"先の先"(サービスや3球目から積極的に先手攻撃をしていくこと)と、"後の先"(まず相手に攻めさせ、それを利用して攻撃する)の2つのパターンを上手に使い分けることだ。"先の先"だけでは、ショートのうまい表ソフト攻撃に振り回されてしまう。"後の先"を入れることによって相手の弱点(攻撃力の弱いところ)がわかったり、相手を崩すことができる。といって、"後の先"だけでもこちらの戦術を読まれて先手先手と攻められる。使い分けが大切だ。
さて、対表ソフト戦術には、いろいろな戦法がある。そこで、これからひとつひとつの具体例をとりあげ、作戦をいろいろと考えてみよう。
ツッツキを上手に使う
まず、今回は表ソフト前陣攻撃型の選手がよく使うバック前の投げ上げ変化サービスに対するレシーブ作戦だ。ドライブマンはフォアドライブ主戦型でバックハンドが弱い。相手は一般的な表ソフト攻撃型でフォアハンド強打とプッシュを得意とする選手としよう。
さて、この両者の対戦で表ソフト速攻選手がドライブマンのバック前に投げ上げサービスを出す作戦できた。ドライブマンはどうしたらよいだろうか。
この時一番悪いのが相手の攻撃を怖がって中途半端なバックのツッツキで入れるレシーブばかりになること。これでは、相手に横回転サービスから強打、下回転サービスからドライブで好きなように攻められてしまう。
さて、こんな時はまず"後の先"を狙う戦術がよい。回り込んで強く払う体勢からバック前やフォア前にストップ、もしくはフォア側に深く切ってツッツく。そうして、相手が軽打やドライブで攻めてくるボールをバックへパッと回し、次球をドライブ攻撃。攻めあぐんでツッツキや軽いドライブになれば思い切り動いて両サイドに打てる体勢から思い切ったドライブ攻撃をする。もちろん相手がこのコースにヤマをはればバックへ深くツッツいたり、ナックルで払い、相手のツッツキやショートをドライブで狙い打ちする。
バックでツッツいてレシーブする場合は、相手の動きをよく見ながら、ボールをよく引きつけてストレートに(相手のフォアサイドいっぱいに)鋭く切って返すレシーブを主体とする。そして、相手に一球打たせたボールをバックへしのいで相手を大きくゆさぶり、次球からラリーに持ち込む。その中に、バウンド直後をとらえて速いタイミングで同じくフォアへツッツき、泳がせていきなり次球をドライブ攻撃する作戦や、速いタイミングでバックへ切ってツッツキき、相手につまらせて打たせたり、回り込めずにツッツくのを狙い打ちする。
先制攻撃で相手の意表をつく
今述べた、後の先の戦術の中に"先の先"の戦術を入れると、ますます勝ちやすくなる。つまり払うレシーブからの攻撃だ。この戦術を使うときは、相手がフォア側のツッツキやストップを警戒し、何とか横回転や切らないサービスでレシーブを浮かそうとしている時に効く。しかし、払うことを相手に読まれると逆に一発で打ち抜かれることがあるので十分に気をつけよう。
さて、払うレシーブをするときは、フォアハンドでもバックハンドでもやりやすい位置まで素早く動いて、何でもできる体勢からパッと鋭く払うことだ。特に勝負どころでは、クロスに強く払う。すると相手はフォアで回り込んで攻めようとしても、プッシュで攻めようとしても不十分な体勢になり、コースが甘くなる。それを必ず返ってくると思っておいて、フォアハンドで決める。
もちろん、甘いサービスであれば(もしくは相手によっては)ストレートにフォアへ払えば一発で抜けることもある。また、コースを読ませないためミドルに払う戦法も使う。そして、大事なところでクロスに払って勝負すると勝つ確率が高くなる。
スウェーデンは私が初出場の1967年ストックホルム大会で初優勝した国で、日本にとっては1957年5種目、1967年6種目に優勝した縁起のいい国。今大会も、と期待したが、結果は宮崎、石田の活躍にとどまった。
しかし石田の活躍は、高校1年生でも世界の強豪と互角に戦えることを証明したくれた。他の日本の中学生、高校生もぜひ大きな目標をもってがんばってほしい。
表ソフトが大活躍した世界大会
さて、今回の世界大会の大きな特徴としては表ソフト速攻型の大活躍があげられる。男子シングルスのベスト4に表ソフト攻撃型が3人(江加良、陳竜燦、滕毅)、ベスト8に5人(前記3人と謝賽克、韓国の金琦沢)、女子も表ソフトの戴麗麗が団体、複の2冠王となった。
また、国内の試合でも、現在、表ソフト攻撃型の活躍が目立っているし、今後はますます表ソフト速攻型が増えてくることだろう。そのため、ドライブマンの表ソフト攻撃型対策もますます重要になってくる。3年前に一度表ソフト前陣攻撃型の攻略法について述べたが、今大会のプレーの動向を前提に、今の時代にあった対表ソフト攻略法をもう一度考えてみよう。
また、これから述べることは、表ソフト攻略法ではあるが、同時に表ソフト攻撃型の選手にも必ず役立つことと思う。ぜひ参考にしてほしい。
戦術がよければ必ず勝てる
私の体験から、表ソフト攻撃型に勝つためには、技術もさることながら、何よりも戦術、それも相手の技術に応じた戦術が大切である。まずこのことを十分に知っておく必要がある。
そして、この戦術を考えるためには、最近の表ソフト前陣攻撃型の技術を知らなくてはならない。
さて、それでは世界選手権で活躍した選手たちが今までの表ソフト攻撃型と比べてどう変ったかというと、
①ツッツキやカットサービスに対して強いドライブで攻撃する(ドライブの威力、変化が増した) ②ドライブ処理、レシーブ等で横回転ショートを使う選手が増えた ③サービス、ドライブ、強打で逆モーションをうまく使う ④対ドライブ攻略の研究が進みドライブ打ち、ミドル攻撃、ドライブ処理がうまくなった ⑤台上処理(フォアで払う、フォアで切ってツッツく)がよくなった...等だ。
今後の表ソフト攻撃型は、こういう技術傾向にあることを、ドライブ型も速攻型もしっかり頭に入れておく必要がある。
同時にドライブマンにとっては、これまでの表ソフト攻撃対策の練習プラス、これらの新傾向に対応する練習もしておかなければ勝てない時代になってきた。
しかし、改良されてきた現在の表ソフト攻撃型にも弱点はあり、正しくその弱点を攻めれば勝てる。
ではどのように戦ったらよいのだろうか。
相手の弱いパターンを早く見つける
まず試合で考えることは「相手はどのようなパターンに持ち込まれると弱いか」をいち早く見抜くことだ。
このことはなかなか難しいが、他選手との試合を見たり、対戦中にいろいろな攻めをすることで見抜ける。
たとえば、フォアサイドからは強打できないとか、動きながらのショートにミスが多いとか、台上処理が下手だとかいう弱点がないか調べることだ。
それと関連して試合中に考えなくてはならない大事なことがある。それは、"先の先"(サービスや3球目から積極的に先手攻撃をしていくこと)と、"後の先"(まず相手に攻めさせ、それを利用して攻撃する)の2つのパターンを上手に使い分けることだ。"先の先"だけでは、ショートのうまい表ソフト攻撃に振り回されてしまう。"後の先"を入れることによって相手の弱点(攻撃力の弱いところ)がわかったり、相手を崩すことができる。といって、"後の先"だけでもこちらの戦術を読まれて先手先手と攻められる。使い分けが大切だ。
さて、対表ソフト戦術には、いろいろな戦法がある。そこで、これからひとつひとつの具体例をとりあげ、作戦をいろいろと考えてみよう。
ツッツキを上手に使う
まず、今回は表ソフト前陣攻撃型の選手がよく使うバック前の投げ上げ変化サービスに対するレシーブ作戦だ。ドライブマンはフォアドライブ主戦型でバックハンドが弱い。相手は一般的な表ソフト攻撃型でフォアハンド強打とプッシュを得意とする選手としよう。
さて、この両者の対戦で表ソフト速攻選手がドライブマンのバック前に投げ上げサービスを出す作戦できた。ドライブマンはどうしたらよいだろうか。
この時一番悪いのが相手の攻撃を怖がって中途半端なバックのツッツキで入れるレシーブばかりになること。これでは、相手に横回転サービスから強打、下回転サービスからドライブで好きなように攻められてしまう。
さて、こんな時はまず"後の先"を狙う戦術がよい。回り込んで強く払う体勢からバック前やフォア前にストップ、もしくはフォア側に深く切ってツッツく。そうして、相手が軽打やドライブで攻めてくるボールをバックへパッと回し、次球をドライブ攻撃。攻めあぐんでツッツキや軽いドライブになれば思い切り動いて両サイドに打てる体勢から思い切ったドライブ攻撃をする。もちろん相手がこのコースにヤマをはればバックへ深くツッツいたり、ナックルで払い、相手のツッツキやショートをドライブで狙い打ちする。
バックでツッツいてレシーブする場合は、相手の動きをよく見ながら、ボールをよく引きつけてストレートに(相手のフォアサイドいっぱいに)鋭く切って返すレシーブを主体とする。そして、相手に一球打たせたボールをバックへしのいで相手を大きくゆさぶり、次球からラリーに持ち込む。その中に、バウンド直後をとらえて速いタイミングで同じくフォアへツッツき、泳がせていきなり次球をドライブ攻撃する作戦や、速いタイミングでバックへ切ってツッツキき、相手につまらせて打たせたり、回り込めずにツッツくのを狙い打ちする。
先制攻撃で相手の意表をつく
今述べた、後の先の戦術の中に"先の先"の戦術を入れると、ますます勝ちやすくなる。つまり払うレシーブからの攻撃だ。この戦術を使うときは、相手がフォア側のツッツキやストップを警戒し、何とか横回転や切らないサービスでレシーブを浮かそうとしている時に効く。しかし、払うことを相手に読まれると逆に一発で打ち抜かれることがあるので十分に気をつけよう。
さて、払うレシーブをするときは、フォアハンドでもバックハンドでもやりやすい位置まで素早く動いて、何でもできる体勢からパッと鋭く払うことだ。特に勝負どころでは、クロスに強く払う。すると相手はフォアで回り込んで攻めようとしても、プッシュで攻めようとしても不十分な体勢になり、コースが甘くなる。それを必ず返ってくると思っておいて、フォアハンドで決める。
もちろん、甘いサービスであれば(もしくは相手によっては)ストレートにフォアへ払えば一発で抜けることもある。また、コースを読ませないためミドルに払う戦法も使う。そして、大事なところでクロスに払って勝負すると勝つ確率が高くなる。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1985年5月号に掲載されたものです。