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「作戦あれこれ」第121回 カット型攻略法③ もどりを早く

 うまいカット打ちをするコツ

 前回は、ラリー中のカットマンの攻撃方法を調べ、その中の「カットマンがドライブを狙い打ってくる時の対処法」として「どちらにも打てる体勢から、球威(スピード+回転+打球点)のあるドライブ、回転、コースに変化をつけて、相手の弱点へ粘れ。そうすればカットマンは狙い球がしぼれず、打ちミスが出るため反撃できず、ロングマンペースのラリー展開になる」と述べた。
 こういったドライブでの粘りができれば、相手がいかに攻撃力のあるカットマンといえども、ドライブ対カットのラリー中にそう攻撃をされることはない。が、その時、ぜひ守らなくてはならない技術的な注意点がある。今回は、そのカット打ちの基本中の基本ともいえる大切な点について考えてみよう。

 いち早く攻守兼備の構えをとれ

 ラリー中にカットマンの反撃を防ぐ、カット打ちの基本中の基本と言える大切な点、それは"ドライブした後の戻りを猛烈に早くし、攻めも守りもできる体勢で次球を待つ"ということだ。
 この「戻りを早く」ということは、「足をしっかり動かす」「カットの回転をよく見る」...などと並び、カット打ちの時どうしても守らなくてはならない大切なコツだ。が、このことを守らずカットマンの反撃を浴びている選手があまりにも多い。
 では「戻りを早く」すると、どんな利点があるか?なぜカットマンの攻撃を防げるか?を考えてみよう。

 余裕をもって、よいプレーができる

 "戻りを早く"すると、まず"余裕"がでる。このことが何といっても大きい。つまり、時間的に余裕ができるため、心の余裕、備えの余裕(よい体勢、よい位置)がうまれる。
 このことは、具体的には
①相手の動作がよくみえ、相手の心理、作戦が読めるようになり逆をつきやすい
②十分な体勢で待つため、変化が見分けやすい
③ラリー中の基本位置に素早くもどっているため、攻撃も守備もやりやすい。また、相手の反撃が読めるため、止めやすい位置で待てる
④打球前の構えがよいため、楽に威力のあるドライブで粘れるし、十分な体勢から打てるのでカットマンはコースが読みにくい
⑤連続攻撃がしやすく、ドライブ、スマッシュの判断が楽にでき、体勢十分なのでよく決まる
⑥全身で打つ余裕があるのでミスが少なくなる
⑦相手の反撃が読めるため、待って返せるし、相手に打たせる作戦も使うことができる
...などなど、ほかにもたくさん利点があり、数えきれないほどだ。

 カットマンは崩れる

 「戻りを早く」することには、このような利点がある。このことをカットマンの側からみると
①ドライブマンに余裕があり、ドライブの粘りにミスがでないため「反撃しないと勝てない」と思ってプレーし、カットにミスが多くなる
②ドライブをスマッシュで狙う時も、ドライブマンに余裕があり待たれているため、打つ直前になってコースを変えたり、難しいコースを狙ったりして反撃ミスが多くなる
③ドライブマンに余裕をもってコースをつかれるため、カットに変化をつけずらい。また、ミスも多くなる
...といった不利な状況に陥る。そのためカットマンは、何とかして相手を遅いペースに巻き込み余裕をもって粘らせないように常に考えている。

 しっかり振り切ってから戻る

 歴代の「カット打ちの名手」と言われた選手は、すべて、打球後の戻りが早く、攻守兼備のスキのない構えで次球を待っていた。
 今、この卓球レポートを読んでいるあなたも、攻撃力のあるカットマンに勝つため「戻りを早くする」ことをまずマスターしてもらいたい。
 しかし、その時注意しなくてはならないのは、「戻りを早く」といっても、それは「しっかり振り切ってから全力で戻る」ことだ。戻りに気がいってしまって、中途半端なスイングで戻ろうとするとかえって戻りが遅くなる。しっかり振り切って威力のあるドライブで粘ると早い戻りがやりやすい。
 戻るタイミングとしては、ループで攻めた時はネットをこえる時はもう戻っている感じで、早いドライブで攻めた時も相手コートにバウンドした時には戻っている感じでプレーするとよい。

 作戦のレベルがアップする

 このように大切な"早い戻り"だが、時には何十本ものラリーが続くカットマンとのラリーで、何本も何本も"早く戻る"ためには、十分なスタミナと練習量がなくては不可能だ。試合で自然に早く戻れるようになるためには、100本~1000本といったノーミスラリーの中でこの基本"早い戻り"をチェックする。そしてそれがクセとして自然に試合で出るようでなくてはならない。
 そうすれば、私が試合でやったような
①相手がナックルカットをした後、反撃してきそうな時は、ちょっと強めの回転をかけミスを誘う。回り込もうとした時はフォアへのドライブでノータッチを狙う
②フォアクロスのループ対切れたカットのラリーから狙い打ちしてきそうな時は、いかにも回転をかけた格好であまり回転を書けないドライブを少しだけコースをはずして打ち(あまりはずすと打ってこない)ネットミスを誘う。またはフォアストレートに早いドライブを打つ
...といった余裕のあるプレーもできるようになる。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1986年7月号に掲載されたものです。
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