ロングサービスは日本の伝統的な技術の一つである。
「サービスは16センチ以上ボールをあげなくてはならない」ルールになり「ロングサービスを出すのは以前より難しくなったか」と心配したが、12月の全日本を見る限りではそうではなかった。むしろ、若手選手において、以前よりロングサービスを多用する選手の活躍がめだった。
これは別に、高く上げると短く出すのが難しくなるのでロングサービスが増えた、という消極的な理由ではなく、ロングサービスが効くから多用する、という積極的な理由によるもので、大変良いことと思う。
国内では伝統的なバックハンドドライブ(ナックル)性ロングサービスを使う選手が多いし、世界的にみてもオリンピックアジアゼネラルゾーン予選で1位になった焦志敏の良く切れたカット性ロングサービス、表ソフト速攻の名手・陳竜燦の逆モーションスピードロングサービスなど、巧みなフォアハンドのロングサービスを使う選手が目につく。
それにもかかわらず、今までロングサービスを多用する選手が少なかったせいか、ロングサービスをどのようにレシーブしたらよいか、レシーブ側の対策が十分でないように感じる。
そこで今回は、相手のロングサービスに対し、どんなレシーブ作戦をとったらよいか、考えてみよう。
"狙い打ち"を考える
ショートサービスが「相手に強く打たれないように」出すサービスなのに対し、ロングサービスはもともと打ち合いにもっていくためのサービスである。
サーバーがそういう積極的な気持ちで出しているロングサービスに対し、初めから打ち合いをイヤがって、「とにかく入れておこう」というやり方では失敗する。サービスを出す側にすれば、大きくゆるく返ってくるボールを待って狙い打ちすればよいことになる。これでは何より、気持ちの上でレシーバーが負けてしまう。
相手が打たれるのを覚悟して出してくるロングサービスに対しては、まず"狙い打ち"を考えることである。
狙い打ちされる、と思えばサーバーのプレーは消極的になる。逆にレシーバーはプレーに勢いがつき、サーバーの気持ちが読めるようになる。試合後半で、サーバーがロングサービスを怖くて出せなくなればレシーバーの勝ちである。最後はショートサービスに山をはって、積極的にレシーブ攻撃していけばよい。
幅のあるプレーを
さて、"狙い打ち"というからには、全部スマッシュで狙い打てれば一番いいが、サーバーも必死でコースを考え、一番良いサービスを出してくる。なかなかそうはいかない。3~4割は逆をつかれるのが普通である。
そこでドライブマンなら強ドライブとスマッシュ、速攻型なら頂点強打とスマッシュの二通りの方法で狙い打ち、逆をつかれた場合は「打ちづらいレシーブで返す」もしくは「打たせてしのぎラリーにする」といった幅のあるレシーブ作戦をとるようにする。
読みと集中力
さてどのようなレシーブにしろ、サーバーが勝負をかけてくるロングサービスに対しては、一瞬の油断もできない。レシーバーとしては、心・技・体・智のすべてを傾けることが要求される。
レシーブの構えの時、ダッシュのスタートの時のような集中力で小刻みに足を動かす(全く静止している状態からより、少し動いた状態から動いた方がスタートが早い)。それまでの相手サービスの組み立て、一本前の相手サービスと自分のレシーブからコースを読み「7割はバックへのロングサービス。それはストレートに強ドライブで攻める。2割はフォア。それはストレートに深く打たれないようにドライブ。もしショートサービスがきたら切ってツッツく。打てるボールはバックへ払う」というように自分のレシーブを確認する。
読みの材料としては、一本前のショートサービスを自分が自信をもって狙い打っていれば次はロングサービスがくる確率が高い。フォア側のサービスを狙い打っていればバックへくる確率が高い。その逆に、強い選手になるほど、効いているサービスを連続して使おうとしてくるので、自分がショートサービスに対し甘いレシーブをしたらもう一本ショートサービスがくる確率が高く、バックへのスピードロングサービスにタイミングが合っていないともう一本同じサービスがきやすい(こんな時は狙えれば狙い打ち。タイミングが合わずミスが出そうならコースをついて先手をとり、4球目で攻め込む作戦をとる)。
強ドライブと強打
相手のドライブボールに対しても強ドライブで攻め込んでいくドライブ型は、どんな種類のロングサービスに対しても、まず強ドライブで狙い打つことを考えるべきである。
筆者が良くやったのは、バックへくるロングサービスをバックストレートに強ドライブで相手フォアを抜いてしまうレシーブ。腰をしっかりひねり、ボールをためてコースを読めなくする。サーバーとしては7~8割はバックへ山をはっているため、このレシーブに弱い。
このレシーブが効くと、サーバーとしてはフォア側を待たねばならず、バックへドライブでレシーブした時もショートでつなぐのが精一杯、といった感じになる。それを連続ドライブで打ち抜けば、サーバーは大事なところでロングサービスを出しづらくなる。
フォア側にきたロングサービスに対しても、高い打点をとらえストレートに強ドライブで打ち抜くのを基本にする。相手がストレートを警戒し、得点に余裕のある時はクロスに強ドライブでレシーブし、打ち合いにもっていく。相手がつなげば連続強ドライブで決める。
ドライブマンであればこういったストレートへの強ドライブを軸に、カット性サービスに対してはスピードドライブとループドライブを混ぜ、相手の待ちを崩す。
一方、相手のドライブボールに対してはロングで打っていくタイプの選手は、強打を軸に考えるとよい。コースはストレート、そしてクロス、ミドル。自分がロングサービスを出した時、どんなレシーブをされたらいやかを考えると、どのコースに打ったらよいか分かる。
体の軸を崩さず、腰のひねりと、上腕、手首を鋭く使い、小さくパンと強打する。ドライブマンに負けない素早い動きで頂点をとらえることが大切。
スマッシュも使え
強ドライブ、強打のレシーブを基本に戦うのがうまいやり方だが、時にはスマッシュも必要である。特にドライブマンがスマッシュレシーブすると、サーバーはレシーブの種類が読めなくなり、他のレシーブがより効くようになる。
スマッシュの時に気をつけるのはムチャ打ちしないこととフットワーク。2~3割のミスはしかたがないが、苦しいからスマッシュするのではいけない。読みどおりにきた時に思いきってスマッシュするようにしよう。
フットワークで気をつけるのは、両足をしっかり動かすこと。
合わせる中打(強打)のレシーブであれば、一歩動のレシーブでも可能だが、フットワークの基本は十分な体勢をつくるため、両足を動かすこと。全身で打つスマッシュの時は必ず両足を動かそう。
逆をつかれたらしのぐ
相手に逆をつかれて狙い打てない時はどうするか?
フォアへ逆をつかれた時はドライブマンなら相手コート深くを狙って回転に変化をつけたドライブでしのぐ。速攻タイプは高い打点の中打でコースをつく。あてるだけのレシーブでは変化に弱い。
バックへ逆をつかれた時は、できればフォアへショート(プッシュ)、バックロングで返し、相手の強打をしのいでラリーにする。相手の逆をつけば、すかさず4球目で攻め込む。
逆をつかれてバック系技術で処理する時、カット性のショートや横回転を入れたショートで相手のバックサイドを切ったり、小さく低く止めることができればレベルとしてはかなり高い。
また、パンとタイミングの速いバックハンドでレシーブしてもかなり相手の攻撃を防げる。こういったプレーも練習し、相手に決定打を打たせないようになれば、かなりの技術レベルといえる。
ロングサービスに強くなるにはロングサービスに慣れるのが一番の近道。
あせらず、作戦どおりのレシーブができるよう、しっかり練習しよう。
「サービスは16センチ以上ボールをあげなくてはならない」ルールになり「ロングサービスを出すのは以前より難しくなったか」と心配したが、12月の全日本を見る限りではそうではなかった。むしろ、若手選手において、以前よりロングサービスを多用する選手の活躍がめだった。
これは別に、高く上げると短く出すのが難しくなるのでロングサービスが増えた、という消極的な理由ではなく、ロングサービスが効くから多用する、という積極的な理由によるもので、大変良いことと思う。
国内では伝統的なバックハンドドライブ(ナックル)性ロングサービスを使う選手が多いし、世界的にみてもオリンピックアジアゼネラルゾーン予選で1位になった焦志敏の良く切れたカット性ロングサービス、表ソフト速攻の名手・陳竜燦の逆モーションスピードロングサービスなど、巧みなフォアハンドのロングサービスを使う選手が目につく。
それにもかかわらず、今までロングサービスを多用する選手が少なかったせいか、ロングサービスをどのようにレシーブしたらよいか、レシーブ側の対策が十分でないように感じる。
そこで今回は、相手のロングサービスに対し、どんなレシーブ作戦をとったらよいか、考えてみよう。
"狙い打ち"を考える
ショートサービスが「相手に強く打たれないように」出すサービスなのに対し、ロングサービスはもともと打ち合いにもっていくためのサービスである。
サーバーがそういう積極的な気持ちで出しているロングサービスに対し、初めから打ち合いをイヤがって、「とにかく入れておこう」というやり方では失敗する。サービスを出す側にすれば、大きくゆるく返ってくるボールを待って狙い打ちすればよいことになる。これでは何より、気持ちの上でレシーバーが負けてしまう。
相手が打たれるのを覚悟して出してくるロングサービスに対しては、まず"狙い打ち"を考えることである。
狙い打ちされる、と思えばサーバーのプレーは消極的になる。逆にレシーバーはプレーに勢いがつき、サーバーの気持ちが読めるようになる。試合後半で、サーバーがロングサービスを怖くて出せなくなればレシーバーの勝ちである。最後はショートサービスに山をはって、積極的にレシーブ攻撃していけばよい。
幅のあるプレーを
さて、"狙い打ち"というからには、全部スマッシュで狙い打てれば一番いいが、サーバーも必死でコースを考え、一番良いサービスを出してくる。なかなかそうはいかない。3~4割は逆をつかれるのが普通である。
そこでドライブマンなら強ドライブとスマッシュ、速攻型なら頂点強打とスマッシュの二通りの方法で狙い打ち、逆をつかれた場合は「打ちづらいレシーブで返す」もしくは「打たせてしのぎラリーにする」といった幅のあるレシーブ作戦をとるようにする。
読みと集中力
さてどのようなレシーブにしろ、サーバーが勝負をかけてくるロングサービスに対しては、一瞬の油断もできない。レシーバーとしては、心・技・体・智のすべてを傾けることが要求される。
レシーブの構えの時、ダッシュのスタートの時のような集中力で小刻みに足を動かす(全く静止している状態からより、少し動いた状態から動いた方がスタートが早い)。それまでの相手サービスの組み立て、一本前の相手サービスと自分のレシーブからコースを読み「7割はバックへのロングサービス。それはストレートに強ドライブで攻める。2割はフォア。それはストレートに深く打たれないようにドライブ。もしショートサービスがきたら切ってツッツく。打てるボールはバックへ払う」というように自分のレシーブを確認する。
読みの材料としては、一本前のショートサービスを自分が自信をもって狙い打っていれば次はロングサービスがくる確率が高い。フォア側のサービスを狙い打っていればバックへくる確率が高い。その逆に、強い選手になるほど、効いているサービスを連続して使おうとしてくるので、自分がショートサービスに対し甘いレシーブをしたらもう一本ショートサービスがくる確率が高く、バックへのスピードロングサービスにタイミングが合っていないともう一本同じサービスがきやすい(こんな時は狙えれば狙い打ち。タイミングが合わずミスが出そうならコースをついて先手をとり、4球目で攻め込む作戦をとる)。
強ドライブと強打
相手のドライブボールに対しても強ドライブで攻め込んでいくドライブ型は、どんな種類のロングサービスに対しても、まず強ドライブで狙い打つことを考えるべきである。
筆者が良くやったのは、バックへくるロングサービスをバックストレートに強ドライブで相手フォアを抜いてしまうレシーブ。腰をしっかりひねり、ボールをためてコースを読めなくする。サーバーとしては7~8割はバックへ山をはっているため、このレシーブに弱い。
このレシーブが効くと、サーバーとしてはフォア側を待たねばならず、バックへドライブでレシーブした時もショートでつなぐのが精一杯、といった感じになる。それを連続ドライブで打ち抜けば、サーバーは大事なところでロングサービスを出しづらくなる。
フォア側にきたロングサービスに対しても、高い打点をとらえストレートに強ドライブで打ち抜くのを基本にする。相手がストレートを警戒し、得点に余裕のある時はクロスに強ドライブでレシーブし、打ち合いにもっていく。相手がつなげば連続強ドライブで決める。
ドライブマンであればこういったストレートへの強ドライブを軸に、カット性サービスに対してはスピードドライブとループドライブを混ぜ、相手の待ちを崩す。
一方、相手のドライブボールに対してはロングで打っていくタイプの選手は、強打を軸に考えるとよい。コースはストレート、そしてクロス、ミドル。自分がロングサービスを出した時、どんなレシーブをされたらいやかを考えると、どのコースに打ったらよいか分かる。
体の軸を崩さず、腰のひねりと、上腕、手首を鋭く使い、小さくパンと強打する。ドライブマンに負けない素早い動きで頂点をとらえることが大切。
スマッシュも使え
強ドライブ、強打のレシーブを基本に戦うのがうまいやり方だが、時にはスマッシュも必要である。特にドライブマンがスマッシュレシーブすると、サーバーはレシーブの種類が読めなくなり、他のレシーブがより効くようになる。
スマッシュの時に気をつけるのはムチャ打ちしないこととフットワーク。2~3割のミスはしかたがないが、苦しいからスマッシュするのではいけない。読みどおりにきた時に思いきってスマッシュするようにしよう。
フットワークで気をつけるのは、両足をしっかり動かすこと。
合わせる中打(強打)のレシーブであれば、一歩動のレシーブでも可能だが、フットワークの基本は十分な体勢をつくるため、両足を動かすこと。全身で打つスマッシュの時は必ず両足を動かそう。
逆をつかれたらしのぐ
相手に逆をつかれて狙い打てない時はどうするか?
フォアへ逆をつかれた時はドライブマンなら相手コート深くを狙って回転に変化をつけたドライブでしのぐ。速攻タイプは高い打点の中打でコースをつく。あてるだけのレシーブでは変化に弱い。
バックへ逆をつかれた時は、できればフォアへショート(プッシュ)、バックロングで返し、相手の強打をしのいでラリーにする。相手の逆をつけば、すかさず4球目で攻め込む。
逆をつかれてバック系技術で処理する時、カット性のショートや横回転を入れたショートで相手のバックサイドを切ったり、小さく低く止めることができればレベルとしてはかなり高い。
また、パンとタイミングの速いバックハンドでレシーブしてもかなり相手の攻撃を防げる。こういったプレーも練習し、相手に決定打を打たせないようになれば、かなりの技術レベルといえる。
ロングサービスに強くなるにはロングサービスに慣れるのが一番の近道。
あせらず、作戦どおりのレシーブができるよう、しっかり練習しよう。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年2月号に掲載されたものです。