同じ戦型で、同じような技術、同じような打球の威力であるにもかかわらず、試合で勝ち残る選手とアッサリ負けてしまう選手がいる。
ドライブマンD君は悩む。
「地区のライバルH君とは打球の威力も同じぐらいだし、やっていることはサービス、レシーブだってほとんど同じだ。何でいつも負けるんだろう?」
たしかに、一見みればD君もH君も全く同じようなプレーをしている。しかし、試合を通じて見ればD君とF君には決定的な差があった。
凡ミスの数の差である。
二人の試合を見ると、肝心なところはもちろん、何げない場面で、D君がボロボロッとミスをしてしまう。これでは同じことをしても勝てないはずである。
「なぜだか分からないが強い」と言われる選手は、概して凡ミスが少ない。連覇を続けるようなチャンピオンは、まずこのタイプである。
さて、原因は分かったとしても、凡ミスを減らすのはかなり難しそうだ。「凡ミスを減らすにはどうしたらよいか?」今回はこのことについて考えてみよう。
実戦で使う練習をしよう
試合でどうにも凡ミスの多い選手がいる。
しかし、その選手が1000本ラリーや2000本ラリーになると凡ミスせず、うまい、ということもある。
なぜか、というと、卓球の試合は色々なリズムで色々な技術を使うのに、その訓練、つまり実戦での凡ミスを減らす練習が足りないのである。
たとえば、単調なリズムでフォアクロスに1000本続ける練習はできたとする。ところが、実戦ではストレートにも打たなくてはならないし、スマッシュもしなくてはいけない。スマッシュやストレート打ちをミスしないためには、連続スマッシュやストレート打ちの練習をしなくてはならない。スマッシュのコントロールは、スマッシュの練習によってのみ身につくのである。
それを、試合ではめったに使わないゆるいボールでつなぐ練習ばかりし、実戦ではスマッシュを打ったのでは凡ミスが多く出て当然である。
同じように、練習では足を止め、ショートだけしかできない形でショートしていると、試合でちょっとでも動くと凡ミスが出る。
ツッツきの練習でも「バックツッツキしかやらない」という心構えで練習していると、試合でフォア側を警戒したり、払おうとしてからツッツキに切り替えた時に凡ミスが出る。
サービスの練習でも、ロングサービスはロングサービス、ショートサービスはショートサービスで練習していると、試合でショートサービスを出すような格好からロングサービスを出そうとしても凡ミスが出る。練習でたとえ100本続けてサービスが出せるようになってもミスが出る。
練習のための練習では実戦の凡ミスは減らない。
試合練習を多くやることが、試合での凡ミスを減らす一番の近道である。
ゲーム練習を多くしよう
中学でも高校でも、勝負強いチームはゲーム練習の割合が多い。一日の練習の半分はとっている。そのため、試合のやり方がうまく、基本技術のレベルは同じぐらいでも、強い。反対にゲーム練習の少ないチームは、実戦での読みが悪く、凡ミスが多く出る。
さて、このゲーム練習の時に、実戦での凡ミスを減らすためのコツがある。それは「大試合と同じ気持ちで一本一本真剣にやる」「ミスした時はなぜミスしたかを考え、次は正しい打ち方で、二度と同じミスをしないように心がける」ことである。その上で、現在できない課題、たとえば「全身を使って思いきって打つこと」や「ストレートコートをうまくつくこと」...等に挑戦していく。
こういったやり方で、4時間、5時間...とゲーム練習をやり込んでいくと、ある瞬間から「当たれば何でも入る。凡ミスしそうな感じがなくなる」ようになる。こなれば実戦での凡ミスが減ることは間違いない。
筆者も大学1年の時、西飯さん(現西飯スポーツ)と連日、深夜まで猛練習をした時がそうであった。このことが、その年の全日本初優勝やその後のプレーに大きな影響を与えた。
一流は競ると凡ミスしない
「競ると凡ミスが多くなる」選手がいる。
これはやはり練習の時に「大試合と同じ気持ちで一本一本真剣にやる」心がけが足りないからである。
一流の選手は、気楽に打った時はミスが出ても、競った時や緊張した場面では凡ミスが出なくなる。それに対して三流の選手は、練習場や気楽な場面では入るが、競れば競るほど凡ミスが多くなる。
これはひとえに練習に対する取り組み方の差である。
一流選手の練習は厳しい。練習に緊張感がある。そのため、競れば競るほど練習場での雰囲気に近くなり、集中する分ミスが出づらくなる。
これに対し、三流選手は普段の練習を気楽にやってしまう。相手の練習の時は遊んでしまったりもする。そのため、試合で競れば競るほど練習場での雰囲気と変ってしまい入らなくなる。
"練習は試合のつまりで"の言葉は金言である。緊張感をもって練習すれば、実戦での凡ミスは減る。
練習試合に行こう!
さて、基本練習の時も実戦と同じ緊張感で練習するのが理想だが、競った時の緊張感は基本練習では出しづらい。実戦の緊張感は実戦で経験するのが一番である。
ゲーム練習ということでは部内のゲーム練習も大切だが、毎日同じ相手とばかりやっていると"慣れ"が生じ緊張感が生まれづらい。緊張感のないゲーム練習では、凡ミスを減らす効果は半減する。
それを防ぐため、最も良いのが他チームとの練習試合である。
外へ出て、色々なチームと対戦すれば、色々なタイプの選手と試合ができる。チーム戦でみんなの前で試合する。または、フリーで対抗試合を多くやり、成績をノートに残してチーム代表を選ぶ時の参考にする...というようにすれば緊張する。大会と全く同じ雰囲気でできるから試合慣れする。実戦で凡ミスを減らす練習ができる。自分の技術のレベルも分かるため、課題がはっきりし、練習にはりあいが増す。
他チームとの交流試合で急に強くなった選手は多い。一人で、仲間と一緒に、または監督に頼んで他チームとの練習試合をたくさんやり、凡ミスを減らそう。
同じミスをしない
ゲーム練習中に凡ミスを減らすためのチェックポイントは数多い。大切なのは「ミスした時になぜミスしたかを考え、次は正しい打ち方で、二度と同じミスをしないように心がける」ことである。
実戦でのミスには二つの種類がある。
ひとつは、タイミングの狂い、ラケット角度の間違い...等の技術的な凡ミスであり、もうひとつは打法の選び間違い、回転の読み間違い...等の判断ミスである。
タイミングの狂いや空振りなどの技術的なミスは「ボールを良く見る」「しっかり動く」「力を抜いて正しいスイングをする」「正確に重心移動する」...等をチェックする。ボールを拾いに行く間に正しいスイングをしてみるのも良いだろう。
もうひとつの判断ミスは意外と気づきづらいが凡ミスの大きな原因になっている。
一番多いのが自分本位なミス。
試合では、つい自分の技術以上のプレーをしてしまいやすい。練習ではつなぐボールをスマッシュする。慣れていない相手のボールを無理に狙う...。これではミスが出て当然である。
卓球は、打つべきボールはしっかり打ち、つなぐべきボールは大切につなぐのが原則。何でもかんでも自分本位に無理攻めしたのでは凡ミスが増えるばかりである。
練習の時に一番勝ちやすいプレーが試合でも一番勝ちやすいのである。練習の時につなぐボールは試合でも正確につなぎ、練習の時に攻めているボールは試合の時もためらわずに攻める。試合は練習のつもりでプレーするのである。
緊迫感のあるゲーム練習を数多くこなし、こういった無理のないプレーを心がければ、試合での凡ミスが減ることは間違いない。
凡ミスで負けると悔いが残る。卓球の楽しさを味わうためにも凡ミスを減らすよう心がけよう!
ドライブマンD君は悩む。
「地区のライバルH君とは打球の威力も同じぐらいだし、やっていることはサービス、レシーブだってほとんど同じだ。何でいつも負けるんだろう?」
たしかに、一見みればD君もH君も全く同じようなプレーをしている。しかし、試合を通じて見ればD君とF君には決定的な差があった。
凡ミスの数の差である。
二人の試合を見ると、肝心なところはもちろん、何げない場面で、D君がボロボロッとミスをしてしまう。これでは同じことをしても勝てないはずである。
「なぜだか分からないが強い」と言われる選手は、概して凡ミスが少ない。連覇を続けるようなチャンピオンは、まずこのタイプである。
さて、原因は分かったとしても、凡ミスを減らすのはかなり難しそうだ。「凡ミスを減らすにはどうしたらよいか?」今回はこのことについて考えてみよう。
実戦で使う練習をしよう
試合でどうにも凡ミスの多い選手がいる。
しかし、その選手が1000本ラリーや2000本ラリーになると凡ミスせず、うまい、ということもある。
なぜか、というと、卓球の試合は色々なリズムで色々な技術を使うのに、その訓練、つまり実戦での凡ミスを減らす練習が足りないのである。
たとえば、単調なリズムでフォアクロスに1000本続ける練習はできたとする。ところが、実戦ではストレートにも打たなくてはならないし、スマッシュもしなくてはいけない。スマッシュやストレート打ちをミスしないためには、連続スマッシュやストレート打ちの練習をしなくてはならない。スマッシュのコントロールは、スマッシュの練習によってのみ身につくのである。
それを、試合ではめったに使わないゆるいボールでつなぐ練習ばかりし、実戦ではスマッシュを打ったのでは凡ミスが多く出て当然である。
同じように、練習では足を止め、ショートだけしかできない形でショートしていると、試合でちょっとでも動くと凡ミスが出る。
ツッツきの練習でも「バックツッツキしかやらない」という心構えで練習していると、試合でフォア側を警戒したり、払おうとしてからツッツキに切り替えた時に凡ミスが出る。
サービスの練習でも、ロングサービスはロングサービス、ショートサービスはショートサービスで練習していると、試合でショートサービスを出すような格好からロングサービスを出そうとしても凡ミスが出る。練習でたとえ100本続けてサービスが出せるようになってもミスが出る。
練習のための練習では実戦の凡ミスは減らない。
試合練習を多くやることが、試合での凡ミスを減らす一番の近道である。
ゲーム練習を多くしよう
中学でも高校でも、勝負強いチームはゲーム練習の割合が多い。一日の練習の半分はとっている。そのため、試合のやり方がうまく、基本技術のレベルは同じぐらいでも、強い。反対にゲーム練習の少ないチームは、実戦での読みが悪く、凡ミスが多く出る。
さて、このゲーム練習の時に、実戦での凡ミスを減らすためのコツがある。それは「大試合と同じ気持ちで一本一本真剣にやる」「ミスした時はなぜミスしたかを考え、次は正しい打ち方で、二度と同じミスをしないように心がける」ことである。その上で、現在できない課題、たとえば「全身を使って思いきって打つこと」や「ストレートコートをうまくつくこと」...等に挑戦していく。
こういったやり方で、4時間、5時間...とゲーム練習をやり込んでいくと、ある瞬間から「当たれば何でも入る。凡ミスしそうな感じがなくなる」ようになる。こなれば実戦での凡ミスが減ることは間違いない。
筆者も大学1年の時、西飯さん(現西飯スポーツ)と連日、深夜まで猛練習をした時がそうであった。このことが、その年の全日本初優勝やその後のプレーに大きな影響を与えた。
一流は競ると凡ミスしない
「競ると凡ミスが多くなる」選手がいる。
これはやはり練習の時に「大試合と同じ気持ちで一本一本真剣にやる」心がけが足りないからである。
一流の選手は、気楽に打った時はミスが出ても、競った時や緊張した場面では凡ミスが出なくなる。それに対して三流の選手は、練習場や気楽な場面では入るが、競れば競るほど凡ミスが多くなる。
これはひとえに練習に対する取り組み方の差である。
一流選手の練習は厳しい。練習に緊張感がある。そのため、競れば競るほど練習場での雰囲気に近くなり、集中する分ミスが出づらくなる。
これに対し、三流選手は普段の練習を気楽にやってしまう。相手の練習の時は遊んでしまったりもする。そのため、試合で競れば競るほど練習場での雰囲気と変ってしまい入らなくなる。
"練習は試合のつまりで"の言葉は金言である。緊張感をもって練習すれば、実戦での凡ミスは減る。
練習試合に行こう!
さて、基本練習の時も実戦と同じ緊張感で練習するのが理想だが、競った時の緊張感は基本練習では出しづらい。実戦の緊張感は実戦で経験するのが一番である。
ゲーム練習ということでは部内のゲーム練習も大切だが、毎日同じ相手とばかりやっていると"慣れ"が生じ緊張感が生まれづらい。緊張感のないゲーム練習では、凡ミスを減らす効果は半減する。
それを防ぐため、最も良いのが他チームとの練習試合である。
外へ出て、色々なチームと対戦すれば、色々なタイプの選手と試合ができる。チーム戦でみんなの前で試合する。または、フリーで対抗試合を多くやり、成績をノートに残してチーム代表を選ぶ時の参考にする...というようにすれば緊張する。大会と全く同じ雰囲気でできるから試合慣れする。実戦で凡ミスを減らす練習ができる。自分の技術のレベルも分かるため、課題がはっきりし、練習にはりあいが増す。
他チームとの交流試合で急に強くなった選手は多い。一人で、仲間と一緒に、または監督に頼んで他チームとの練習試合をたくさんやり、凡ミスを減らそう。
同じミスをしない
ゲーム練習中に凡ミスを減らすためのチェックポイントは数多い。大切なのは「ミスした時になぜミスしたかを考え、次は正しい打ち方で、二度と同じミスをしないように心がける」ことである。
実戦でのミスには二つの種類がある。
ひとつは、タイミングの狂い、ラケット角度の間違い...等の技術的な凡ミスであり、もうひとつは打法の選び間違い、回転の読み間違い...等の判断ミスである。
タイミングの狂いや空振りなどの技術的なミスは「ボールを良く見る」「しっかり動く」「力を抜いて正しいスイングをする」「正確に重心移動する」...等をチェックする。ボールを拾いに行く間に正しいスイングをしてみるのも良いだろう。
もうひとつの判断ミスは意外と気づきづらいが凡ミスの大きな原因になっている。
一番多いのが自分本位なミス。
試合では、つい自分の技術以上のプレーをしてしまいやすい。練習ではつなぐボールをスマッシュする。慣れていない相手のボールを無理に狙う...。これではミスが出て当然である。
卓球は、打つべきボールはしっかり打ち、つなぐべきボールは大切につなぐのが原則。何でもかんでも自分本位に無理攻めしたのでは凡ミスが増えるばかりである。
練習の時に一番勝ちやすいプレーが試合でも一番勝ちやすいのである。練習の時につなぐボールは試合でも正確につなぎ、練習の時に攻めているボールは試合の時もためらわずに攻める。試合は練習のつもりでプレーするのである。
緊迫感のあるゲーム練習を数多くこなし、こういった無理のないプレーを心がければ、試合での凡ミスが減ることは間違いない。
凡ミスで負けると悔いが残る。卓球の楽しさを味わうためにも凡ミスを減らすよう心がけよう!
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年3月号に掲載されたものです。