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わたしの練習69河野満 常に高い打球点で打つ

 ―“表ソフト。フォア、バック両方を使ってのペンの前陣速攻”。河野君の卓球を一言であらわせば、こういうことになると思う。そして、河野君の特にすぐれている点は、第1に打球点が常に高いこと。第2に相手の強打を半歩さがってバックハンドで打ち返す技術がうまいこと。第3にカンがよいこと。
 「荻村さんにも、そういわれた。専修大学へ入ったときに野平孝雄さんから『われわれ速攻選手は、打って打って打ちまくるんだ。試合の1セット目にミスが多くてもあれだけ練習しているんだから、後半は必ず入ってくる。ある程度ミスすると、それ以上はミスがなくなる。だから、速攻選手はミスをこわがってはいけない。そして、高い打球点で打つことが大切だ』とアドバイスを受け、それを守るように心がけている」
 ―高い打球点で打つには、どんなことが必要か。
 「まず前陣でプレーすること。フォームが大きすぎないこと。打ったらすぐもどること。速攻選手は前後のフットワークが必要ないと考えている人がいるが、そうじゃない。ぼくの場合は、一番深い球がきても頂点をとらえて打てる程度に台からさがって待つ。そして、打つときに飛びこむ。打ち終わったら、また一番深い球がきても打てる位置まで一歩さがって待つ。ドライブ型の選手ほど前後に大きくは動かないが、やはり速攻選手も前後のフットワークは必要だ。小きざみで速い動き。それと、カンですね。カンが悪いと、前陣速攻はむずかしい」
 ―伊藤繁雄君が『河野はカンが抜群ですよ』といっていたが、カンをよくする特別の訓練でもしたの?
 「特別の訓練はしないが、子供の頃から、いろんなスポーツをやったのがよかったのではないか。小中学生時代は相撲、野球、陸上、サッカー、なんでもやった。野球はピッチャーで四番を打ったし、相撲も学校代表で出た。2年前のストックホルム大会の代表合宿で、バスケットやバレー、サッカーなどをトレーニングとしてやったが、やはりああいうのは良かったと思う。中国の荘則棟らも、バスケットなどのトレーニングをやったと聞く。どうも、日本の卓球選手はランニングのほかは卓球だけ、というように卓球に片寄りすぎているのではないか」

 ◇高校3年からバックハンドを振る

 ―高校2年のインターハイではオールフォアの速攻で、コースのうまい選手だな、と思った。ところが3年の全日本ジュニアで優勝したときは、みごとなバックハンドを振っていたので驚いた。
 「高校2年冬の久里浜合宿(横須賀)でバックハンドを教えられた。それからはフォアとバック、半々ぐらいの割合で練習をした。相手にショートをしてもらってそれをバックハンドで打つ練習とか、相手にフォアで打ってもらいそれをバックハンドで打つ練習。どうも、自分の場合は、ショートしてもらった球を打つよりも、相手に打ってもらって、それをバックハンドで打つ練習の方がよかった。大学に入ってからも、相手のフォアハンド対自分のバックハンドの打ち合いのあと相手にスマッシュしてもらい、それを逆にバックハンドで打ち返す練習を多くやった(先に攻められた時の練習)。そのために、相手の強打をバックハンドで打ち返すのが入るようになった。この場合に半歩さがって待つことが大切だと思う。荘もそうしている。相手の強打を頂点をとらえて打ち返そうとすれば、半歩さがった位置で待つのがちょうどよい。
 高校3年生から練習時間の半分をバックハンド練習に使ったが、バックハンドが入り出したら、フォアが入らなくなった。3年のインターハイではフォアハンドを振りきれなくて、早く負けてしまった。半年ほど、フォアが不調だった。全日本ジュニア(12月)の前にやっと両ハンドとも入るようになった。ランニングを毎日40分ほどやっていたが、それが効いたのか、半年間の練習が実を結んだのか、全日本ジュニアのときは、フォアもバックも思いきって振ることができた。練習をさぼるとガタッと悪くなるか、練習をつづけてもすぐには効果が出ないことがありますね。でも、一生懸命やれば、いつかは必ず効果があらわれるものだと思う。特に自分の場合は、その効果が出るまでに半年~1年半かかる」
 ―大学1年のときはバックハンドを振らなかった。それで伸び悩んだというか、足踏みしたのでは…?
 「みんなにそういわれる。でも、自分では必ずしもそうは思わない。あの1年間、オールフォアで動き回る卓球をやったが、いまでもバックハンドが不調のときはフォアで回るし、荘でも高橋さんに勝ったときはオールフォアで打ったそうですね。バックハンドを振れる選手でもフォアで回らねばならないときがある。大学1年のときにフォアで回る卓球をやったことは、その意味では必ずしもマイナスではなかったと思う。」
 ―じゃ、もしもう一度生まれ変わって卓球をやるとしたら?
 「もちろん速攻選手になる。そうですね。生まれ変わってやるとしたら、やっぱり中学時代からフォア、バック両方を振る卓球をやるでしょうね」

 ◇速攻選手はツッツキ打ちが生命

 ―速攻選手にとっては、どういう練習が大切か。
 「より速く攻める練習。1本でも数多く先手をとる練習。つまりサービスと3球目。レシーブ攻撃。それからツッツキ打ち。速攻選手はツッツキ打ちが生命だと思う。ツッツキを打てれば、カットサービスをレシーブで打てることにも通ずるので、それだけ先手をとる率が高い。またカットマンにも通用すると思う。随分ツッツキ打ちを練習したが、長谷川君のあの猛烈に切れるサービスは、まだレシーブでうまく打てない」
 ―ツッツキを含めてレシーブを打つこと。特によく切れたボールを打つこと。これが河野君の課題のようだね。対長谷川、対アメリン(ソ連)の試合などを見て感じたことは、カットサービスに対してツッツキが多いこと。すると3球目を打たれたりして、河野君得意のあの速攻がレシーブのときは死んでしまう。荘はレシーブで、ほとんどどんなサービスでも打つ。だから、対長谷川戦などで、レシーブでも先手をとることが多い。“日本の荘則棟”といわれ、確かに前陣で高い打球点をとらえて打つという点では荘をはじめ中国の速攻選手と共通したすばらしい長所をもっているが、反面レシーブの攻撃力ではかなりの差がある。進歩改良の余地がまだある。両選手のフォームを見ると、切れたカットサービスや切れたツッツキを打つときの手首の使い方が違う。荘はラケットの先を下向きにしてから、打つ。手首を使う。河野君は角度で合わせて打つ。手首をほとんど使わない。このへんに問題があるのではないか。
 「荻村さんにも、そういわれた。自分でも、いま荘の打ち方を研究している。いまの打ち方だと、角度がちょっと狂うと、ミスが出る。ボールが一直線に飛ぶ感じで安定性がない。自分の一番の課題はこれだと思う」
 ―グリップが堅いために手首がつかいにくいのかな。
 「いや、今のグリップでも十分可能だと思う。現役の日本選手でフォア前の小さいカットサービスを打つのが一番うまいのは、伊藤だと思う。彼も荘と同じように手首を使って打っている。それと、左肩をぐっと前へ入れ、左足を踏みこんだあとに右足も送って、しっかり踏みこんで打っている。これも参考にしたい。台から離れた位置にレシーブを構える今のやり方にも問題があるようだ。タイミングをはずされたときに困る。でも、これからなおしても、そんなになおらないと思うし、今のレシーブの構えでもやれば出来ると思う。一つ一つ自分なりの卓球、河野満しか出来ない卓球を完成したい。
 それから、荘とのちがいのもう一つは、フリーハンドの使い方。フォアハンドを打つときに左手を右わき下に巻きこむようにして打つ荘のフリーハンドの使い方はみごとだと思う」
 ―最近の練習は?
 「仕事が5時まで。残業があると、残業が終わってから早大へ行って練習する。そのあと20~40分ほどランニング。速攻選手でもドライブ選手でも、走ることは大切ですね。一生に一度のチャンスなので2年後の名古屋大会をねらいたい。また、ドライブの選手ばかりが日本1になるのは卓球の発展からいってもよくないし、全日本優勝をめざして、特に速攻選手のためにも、がんばりたい。協会にお願いしたいことは、トップクラスの強化合宿、または有望な新人もどしどし入れた強化合宿をどしどしやってもらいたいと思う。鍵本さんにしろ長谷川君にしろ、最近の井上、今野、阿部にしろ、みんな合宿で強くなったと思う」

 ◇速攻選手よパンチ力を

 ―最後に、若い速攻選手の諸君に一言。
 「速攻選手がふえましたね。残念ながら、中途半端な人が多い。いいコースをついて、先手をとるのは、うまい。だが、パンチ力がない。それと、どのコースも打てるが、このコースなら絶対強いというエースボールがない。ぼくもその傾向がある。長谷川君に負ける原因の一つは、それだと思う。エースボールを絶対つくること、それとトレーニングを積んで体力それにパンチ力をつけること。これを希望したい」

こうのみつる 世界男子団体優勝、旺文社勤務


(1969年9月号掲載)
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