~李エリサ選手のプレーに感動~
私が初めてラケットを握ったのは、小学校6年生(13歳)になってまもなくの頃でした。前年のサラエボ世界選手権大会('73年)で、韓国女子が初めて世界の王座について国内は卓球ブームにわいていました。ソウル市内だけでも、大小合わせて800もの卓球場があったと言われます。会社や学校では当然のごとく卓球熱が高まり、大いに奨励されたものでした。
そんな折、韓国のエースとして大活躍した李エリサ選手(右ペン、裏ソフトラバー使用、ドライブ主戦型)のプレーを見る機会があったのです。コート周辺をすばしこい身のこなしで動き回り、ボールをあやつるかのように確実に返球し、豪快なスマッシュを打ちこむスピード感あふれたプレーに感動したのは言うまでもありません。「卓球は素晴らしい。よし!自分もやろう。そして、李エリサ選手のようになろう」と思ったものです。
私は、さっそく友だちを誘って、町の卓球場でラケットを握りました。実際にボールを打ってみると、うまく入らないのですが、なんともいえない快い気持ちでした。「卓球はおもしろい」と思い、始めました。
それからは夢中でした。すぐ学校の卓球部に入り、毎日練習するようになりました。
といっても、当時は現在のように、学校に専門のコーチがおられたわけではありません。卓球はまったくやったことのない先生が、指導書をもとに教えてくださいました。ですから、一流選手になるために欠かせない"素振り"や"体力トレーニング"もありませんでした。みんなでゲームをしたり、わいわい言いながら、あくまで"楽しむ"といった感じでやっていたように思います。
~表ソフトラバーに替えて上昇~
卓球を始めた時からペンホルダーグリップで、裏ソフトラバーを使用していました。おそらく、李エリサ選手のプレーが頭にあったのかもしれません。しかし、成績の方は中学校になってもいま一つ伸びず、学校でもそんなに目立つ存在ではありませんでした。ただ"卓球が好きだからやっている"といった感じだったのではないでしょうか。これでは技術が向上するはずがありません。
「本当に強くなろう」と意識が高くなって、本格的に取り組み出したのは、高校に入ってからです。ナショナルチームに加えていただき、練習量も多く、質もそれまでとは比較できないほど高くなりました。そして、2年生になった頃、コーチの先生に「君は裏ソフトより表ソフトラバーの方が合っている」とアドバイスを受け、表ソフトラバーに替えました。裏ソフトラバーを使っていた時から、ショートが得意だったし、ショートを多用するプレーだったからだと思います。
表ソフトラバーに替えてから成績は急激に伸び出しました。高校3年生になった'81年ノビサド世界大会には、韓国代表となり出場することができました。しかし、ショートに頼るプレーだったので、いい試合はしてもなかなか勝てませんでした。
~バックハンドの強化~
世界大会に出場して、バックハンドの必要性をつくづく感じました。そこで、帰国してからは、バックハンドの習得に力を入れました。
バックハンドを打つ時は、
①スタンスは肩幅よりやや広め
②右足をやや前にして構える
③膝を軽く曲げ、前傾姿勢を保つ
④ボールと合わせ、右ひじを体の前に近づけ、右肩前の半身の形でバックスイングをとる
⑤腰を鋭くひねり、ボールをよく見ながら、ボールをはじきながらこすり上げる感じで、しっかり振りきる
⑥打球点は、バウンドの頂点か頂点前でとらえる
⑦インパクトと同時に、フリーハンドを鋭く後方に引く(肩の高さぐらいで)
⑧振りきった後は、素早く基本姿勢(ニュートラル)に戻って、次球備える
...などを一球一球チェックしながら打ちました。
~サービスの工夫~
バックハンドの強化と同時に、力を入れたのはサービス練習です。表ソフトラバーですから、3球目が攻めやすいように、あまり回転に固執せず、出し方を工夫しました。ノビサド大会では、サービスが単調でしたので、相手にねらわれて先手をとられる展開が多かったからです。それに、バックハンドを強化することによって、サービスもそれなりの工夫が必要だと感じたからです。
そこで、バックサイドから出していたバックハンドのアップ・ダウンサービスを、ミドルやフォアからも出すように考えました。同じ回転のサービスでも、違った位置から出すことによって、少ない球種をカバーすることができます。また、僅小差の変化を生かし、相手のタイミングを狂わすのがねらいでした。そして、フォアサイドから出した場合、バック側にレシーブされた時は、積極的にバックハンドスマッシュで攻めるように練習しました。
~現在の重点練習内容~
現在の練習は、来春のニューデリー世界大会、'88年ソウルオリンピックをめざして強化合宿を数多く行っています。
強化合宿での1日の練習時間は、5時間です。午前中2時間、午後2時間、夜間1時間に分かれています。夜間の練習の時は、主にサービス練習にあてています。
その外、体力トレーニングとして、
①ランニング
朝5kmぐらい走ったり、時にはダッシュ
②サーキット
③ウエートトレーニング
バーベルを使って行う...などです。
技術面では、
①フォアハンドの強化
現在最も重点をおいて取り組んでいるのは、フォアハンドの強化です。バックハンドはあるていど自信がありますが、フォアハンドが不安だからです。昨春のエーテボリ世界大会では、団体戦で江加良、陳竜燦選手に勝ったように、中国選手に対しては、ショート対ショートでは負けないと思っています。ですから、フォアハンドを強力にすればきっとチャンスはあるはずです。ただ、中国にはいろんなタイプの選手がいますので、いろんなタイプの選手と積極的に練習するように心がけています。
②カット打ち
現在、韓国のトップクラスにはカットマンがいません。そのため、カット打ちも一つの課題です。カット打ちでは、一本調子になりやすいので、前後にゆさぶったり、ボールの緩急をつけたり、ミドルをうまく攻めるなど、研究が必要です。そういった意味で、日韓合同合宿はたいへん有意義でした。五藤選手や渋谷選手といっしょに練習できたのは、非常に勉強になりました。
③サービス+3、5球目攻撃
④レシーブ+4、6球目攻撃
...などです。
私も韓国のナショナルチームの代表選手になって10年になりました。韓国では最年長ですが、日本では五藤選手や宮崎選手、小野選手など、自分より年上の人たちが一生懸命がんばっておられます。私も負けてはおられません。これから悔いを残さないように、一日一日を必死で卓球に打ち込んでいきたいと思っています。そして、目標である世界チャンピオンになんとしてもなりたいものです。
キム ワン 韓国
右、ペン、表ソフト前陣型(日中号スーパー+インパーシャル使用)。移動式バックハンドサービスからの両ハンド攻撃が得意。第10回アジア競技大会では、韓国のエースとして活躍。団体優勝に導いた。単3位。複2位
(1986年12月号掲載)
私が初めてラケットを握ったのは、小学校6年生(13歳)になってまもなくの頃でした。前年のサラエボ世界選手権大会('73年)で、韓国女子が初めて世界の王座について国内は卓球ブームにわいていました。ソウル市内だけでも、大小合わせて800もの卓球場があったと言われます。会社や学校では当然のごとく卓球熱が高まり、大いに奨励されたものでした。
そんな折、韓国のエースとして大活躍した李エリサ選手(右ペン、裏ソフトラバー使用、ドライブ主戦型)のプレーを見る機会があったのです。コート周辺をすばしこい身のこなしで動き回り、ボールをあやつるかのように確実に返球し、豪快なスマッシュを打ちこむスピード感あふれたプレーに感動したのは言うまでもありません。「卓球は素晴らしい。よし!自分もやろう。そして、李エリサ選手のようになろう」と思ったものです。
私は、さっそく友だちを誘って、町の卓球場でラケットを握りました。実際にボールを打ってみると、うまく入らないのですが、なんともいえない快い気持ちでした。「卓球はおもしろい」と思い、始めました。
それからは夢中でした。すぐ学校の卓球部に入り、毎日練習するようになりました。
といっても、当時は現在のように、学校に専門のコーチがおられたわけではありません。卓球はまったくやったことのない先生が、指導書をもとに教えてくださいました。ですから、一流選手になるために欠かせない"素振り"や"体力トレーニング"もありませんでした。みんなでゲームをしたり、わいわい言いながら、あくまで"楽しむ"といった感じでやっていたように思います。
~表ソフトラバーに替えて上昇~
卓球を始めた時からペンホルダーグリップで、裏ソフトラバーを使用していました。おそらく、李エリサ選手のプレーが頭にあったのかもしれません。しかし、成績の方は中学校になってもいま一つ伸びず、学校でもそんなに目立つ存在ではありませんでした。ただ"卓球が好きだからやっている"といった感じだったのではないでしょうか。これでは技術が向上するはずがありません。
「本当に強くなろう」と意識が高くなって、本格的に取り組み出したのは、高校に入ってからです。ナショナルチームに加えていただき、練習量も多く、質もそれまでとは比較できないほど高くなりました。そして、2年生になった頃、コーチの先生に「君は裏ソフトより表ソフトラバーの方が合っている」とアドバイスを受け、表ソフトラバーに替えました。裏ソフトラバーを使っていた時から、ショートが得意だったし、ショートを多用するプレーだったからだと思います。
表ソフトラバーに替えてから成績は急激に伸び出しました。高校3年生になった'81年ノビサド世界大会には、韓国代表となり出場することができました。しかし、ショートに頼るプレーだったので、いい試合はしてもなかなか勝てませんでした。
~バックハンドの強化~
世界大会に出場して、バックハンドの必要性をつくづく感じました。そこで、帰国してからは、バックハンドの習得に力を入れました。
バックハンドを打つ時は、
①スタンスは肩幅よりやや広め
②右足をやや前にして構える
③膝を軽く曲げ、前傾姿勢を保つ
④ボールと合わせ、右ひじを体の前に近づけ、右肩前の半身の形でバックスイングをとる
⑤腰を鋭くひねり、ボールをよく見ながら、ボールをはじきながらこすり上げる感じで、しっかり振りきる
⑥打球点は、バウンドの頂点か頂点前でとらえる
⑦インパクトと同時に、フリーハンドを鋭く後方に引く(肩の高さぐらいで)
⑧振りきった後は、素早く基本姿勢(ニュートラル)に戻って、次球備える
...などを一球一球チェックしながら打ちました。
~サービスの工夫~
バックハンドの強化と同時に、力を入れたのはサービス練習です。表ソフトラバーですから、3球目が攻めやすいように、あまり回転に固執せず、出し方を工夫しました。ノビサド大会では、サービスが単調でしたので、相手にねらわれて先手をとられる展開が多かったからです。それに、バックハンドを強化することによって、サービスもそれなりの工夫が必要だと感じたからです。
そこで、バックサイドから出していたバックハンドのアップ・ダウンサービスを、ミドルやフォアからも出すように考えました。同じ回転のサービスでも、違った位置から出すことによって、少ない球種をカバーすることができます。また、僅小差の変化を生かし、相手のタイミングを狂わすのがねらいでした。そして、フォアサイドから出した場合、バック側にレシーブされた時は、積極的にバックハンドスマッシュで攻めるように練習しました。
~現在の重点練習内容~
現在の練習は、来春のニューデリー世界大会、'88年ソウルオリンピックをめざして強化合宿を数多く行っています。
強化合宿での1日の練習時間は、5時間です。午前中2時間、午後2時間、夜間1時間に分かれています。夜間の練習の時は、主にサービス練習にあてています。
その外、体力トレーニングとして、
①ランニング
朝5kmぐらい走ったり、時にはダッシュ
②サーキット
③ウエートトレーニング
バーベルを使って行う...などです。
技術面では、
①フォアハンドの強化
現在最も重点をおいて取り組んでいるのは、フォアハンドの強化です。バックハンドはあるていど自信がありますが、フォアハンドが不安だからです。昨春のエーテボリ世界大会では、団体戦で江加良、陳竜燦選手に勝ったように、中国選手に対しては、ショート対ショートでは負けないと思っています。ですから、フォアハンドを強力にすればきっとチャンスはあるはずです。ただ、中国にはいろんなタイプの選手がいますので、いろんなタイプの選手と積極的に練習するように心がけています。
②カット打ち
現在、韓国のトップクラスにはカットマンがいません。そのため、カット打ちも一つの課題です。カット打ちでは、一本調子になりやすいので、前後にゆさぶったり、ボールの緩急をつけたり、ミドルをうまく攻めるなど、研究が必要です。そういった意味で、日韓合同合宿はたいへん有意義でした。五藤選手や渋谷選手といっしょに練習できたのは、非常に勉強になりました。
③サービス+3、5球目攻撃
④レシーブ+4、6球目攻撃
...などです。
私も韓国のナショナルチームの代表選手になって10年になりました。韓国では最年長ですが、日本では五藤選手や宮崎選手、小野選手など、自分より年上の人たちが一生懸命がんばっておられます。私も負けてはおられません。これから悔いを残さないように、一日一日を必死で卓球に打ち込んでいきたいと思っています。そして、目標である世界チャンピオンになんとしてもなりたいものです。
キム ワン 韓国
右、ペン、表ソフト前陣型(日中号スーパー+インパーシャル使用)。移動式バックハンドサービスからの両ハンド攻撃が得意。第10回アジア競技大会では、韓国のエースとして活躍。団体優勝に導いた。単3位。複2位
(1986年12月号掲載)