現代卓球で重要なことは攻撃と防御の融合
―現代のプレーにはどのような特徴がありますか?また、それはここ10年から15年の間にどう変ってきましたか?
マリオ よりプロフェッショナル的になり、アスリート的になってきたと思います。技術のトレーニングだけでなく、身体能力や持久力の重要性がますます大きくなってきました。重要なのは敏捷性(びんしょうせい)、パワーと持久力です。強じんな体だけが現代の卓球を受け止められます。さらに、用具や材料の進歩によってゲームはますます速くなっています。
しかし、スピードがすべてというわけではありません。今日の攻撃選手はより完ぺきでなければなりません。つまり、「攻撃的になれる一方で、守備的にもプレーできなくてはいけない」ということなのです。ガシアン(フランス)やロスコフ(ドイツ)といった選手たちは、攻撃の面では非常に素晴らしいのですが、守備的にプレーすることはあまり上手ではありません。
―「守備的なプレー」とは、具体的にはどういうことでしょうか?
マリオ 卓球には、すぐには「得点」に結びつかないような「何げない送球」というものがあります。ここでいう「何げない送球」とは「安全で賢いレシーブ」「コントロールが良く、大きく変化し、返球しにくい場所を突いたブロック」「正確で柔軟なツッツキ」...など、一般的にコースとコントロールを考えた打球のことです。
ボル(ドイツ)やサムソノフ(ベラルーシ)は、こういう打法が際立って優れている選手の代表例です。これが、彼らが世界のトップレベルの位置を保っている大きな理由です。彼らはストロークが安定していて、攻撃的なドライブ戦ができます。それと同時に、防御(特にブロック)が大変変化に富んでいます。防御は確実であり、しかも変化が際立っています。こうした攻撃と防御のしっかりした混合プレーが、成功の秘けつなのです。
彼らは、対戦相手の特徴によって、プレーを何度でも何度でも変化させることができます。ですから、相手にとって彼らのプレーはほとんど予測不可能で、こういうプレーこそが現代に求められているものです。
―世界レベルの選手のことを話されていますが、地域レベルの選手がそれを覚えると、どのような利点が得られるのでしょうか?
マリオ たくさんの利点が得られます。まずは練習することです。正確なツッツキやレシーブ、ブロックの練習は退屈に思えるでしょう。しかし、結果的には大切であることがわかるでしょう。実際の試合では、守備的なプレーは攻撃的なプレーに優るとも劣らないほど大切だということです。
レベルの低い選手たちは一般的に、ドライブのスピードは最大限に高めるが、変化には乏しいという傾向があります。これでは必然的にハイリスクな卓球となってしまい、防御するどころか自分自身にプレッシャーをかけているようなものです。そして、そのプレッシャーのためにブロックすることも、反撃することもできなくなってしまうのです。
―そうした「過度に攻撃的」な選手たちは、練習をどのように変えていけば良いでしょうか?
マリオ 例を挙げましょう。ドライブとブロックの応酬は、どのように練習していますか?ブロックする側は緩い前進回転のショートで返し、ドライブ側はそれに対して全力で最高速のドライブをかける。これを2球、3球と繰り返していく。このような練習をしているのではないでしょうか。
しかし、このような状況が試合のどこにあるのでしょうか?実戦では、このような状況はほとんどないのです。普通は下回転に対するドライブで戦いが始まります。そして、それは「短い・短い・長い」というツッツキのラリーの後や、ロングあるいはハーフロングの横回転が混じったサービスに対するレシーブなどからの展開です。
この戦いの始まりとなるドライブは、先ほど例に挙げたような単純なドライブとブロックの応酬で練習していたドライブとは、まったく違うものだといって良いのです。そして、これに対するブロックもしくはカウンタードライブも、練習のものとは違ってきます。
先ほど例に挙げたような練習しかしていない選手は、下回転に対してうまくドライブできないでしょう。
自分自身を分析し弱点の改善に取り組む
マリオ 選手ならば、自分自身を分析できなければなりません。何が重要なのかをフィルターにかけて選び、プレーの状況を再現し、練習でそこの部分を鍛えていきます。自分のプレーのことをよく考えることができさえすれば、誰にでもできることです。
―何か具体例を挙げてください。
マリオ 例えば、下回転のボールをうまくドライブできない選手がいるとしましょう。ところが、彼は試合ではいつも短い下回転または横回転のサービスを出します。すると、レシーブされて返ってくるのは、彼が望んでいない下回転ボールがほとんどです。この場合、彼は試合で使うサービスを変え、ハーフロングサービスあるいはロングサービスを多くしなければなりません。
多くの場合、選手自身のプレーの組み立てが間違っていることが多いのです。つまり、ほとんどの選手が自分のプレーをまったく分析していないのです。自分自身の特長と弱点を考えることなく、他の選手の魅力的なストロークをまねしようとするだけなのです。
―どういう方法で、自分の弱点を知りながら鍛えていけば良いでしょうか?
マリオ いろいろな要素がありますが、1番大事なことは選手のモチベーション(向上のための動機づけ)です。選手は負けたことに対して怒らなくてはなりません。怒るといっても、しばしば見られるような破滅的な振る舞いをすることではありません。気づくことが大切なのです。前向きな「怒り」は質問、疑問につながっていきます。この敗戦から何が学べるのか?次の対戦のときに同じ原因で負けないためには、何をやったらいいのか?...こうした疑問を感じた瞬間に、選手は自分自身のプレーを知ることになるのです。
世界レベルであろうと、地域レベルであろうと、選手は自分のミスを理解しなければなりません。そして、自ら進んでその改善に取り組まなければなりません。選手のレベルがどうであろうと、これが成功のカギなのです。コーチはその手助けができるだけです。自分の特長を把握し、さらに自分の弱点と取り組む選手だけが上達していくのです。
ですから、トップレベルまでたどりつける選手はそれほど多くありません。ほとんどの選手は弱点に取り組むのを嫌がります。それは困難で時間のかかることだからです。自分自身を厳しく鍛える動機に乏しいためか、あるいは何事も自己の責任で行うという習慣を若いうちからつけてこなかったためか、弱点に取り組むことができない選手もいます。
また、コーチが仕切りすぎている光景も見られますが、たいていの場合それは間違っています。たとえば、18歳にもなって、10対10のときに出すサービスをコーチのサインに頼る、というのは自分自身のプレーというものを少しも理解していないことの証明です。15歳にもなれば、自分の責任で物事を決めるということを会得する必要があるでしょう。
マリオ・アミズィッチ
1954年10月31日生。元クロアチア(旧ユーゴスラビア)代表選手。
24歳でプロコーチとなり、プリモラッツ(クロアチア)を発掘して世界レベルの選手に育てた。1986年にドイツ・ブンデスリーガのボルシア・デュッセルドルフのコーチに就任し、ロスコフ(ドイツ)やサムソノフ(ベラルーシ)などを育て上げた。2000年より日本卓球協会ナショナルチームコーチとしてジュニア選手などの育成に取り組み、現在は坂本竜介、村森実(ともに青森大学)、岸川聖也(仙台育英高校)、水谷隼(青森山田中学)らの指導に当たっている。
(2005年4月号掲載)