卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、「RISING Zhang Jike!」と題し、チキータを武器に世界の頂点へと駆け上がった張継科(中国)の名勝負の数々をお届けしている。
今回は、樊振東(中国)との2013年世界卓球選手権(以下、世界卓球)パリ大会男子シングルス3回戦を紹介しよう。
■ 観戦ガイド
パリ大会の前評判は芳しくなかった張継科
若き才能の挑戦が、王者の意地に火をつける
2011年世界卓球ロッテルダム大会男子シングルスで初出場初優勝を果たし、2012年世界卓球ドルトムント大会男子団体では主力メンバーとして中国の優勝に大きく貢献した張継科は、2012年ロンドンオリンピック男子シングルスで金メダルを獲得する。
頂点を極めた張継科は、前回王者として、またオリンピック金メダリストとして2013年世界卓球パリ大会男子シングルスに臨んだが、大会前に彼を優勝候補に推す声は多くはなかった。金メダル獲得の余波による多忙でしばらく大会から遠ざかっていたことに加え、故障も重なり、このパリ大会直前まで不振が続いていたからだ。さらに、全てのビッグタイトルを手にした張継科の勝利へのモチベーション低下も危惧されていた。
金メダリストであるにもかかわらず、パリ大会の前評判は決して芳しくなかった張継科。
しかし、「ロンドンオリンピックで大満貫(※)を達成した後、一時的に目標を失いかけました。劉国梁監督と長いミーティングを重ねて『過去のことは忘れて、もう一度大満貫を目指す』という目標を立てました(卓球レポート2013年7月号より抜粋)」と後に張継科が明かしたように、その内面には勝利への欲求が静かにともっていた。
男子シングルス1回戦でアッカストロム(スウェーデン)、2回戦でツボイ(ブラジル)に順当勝ちした張継科は、3回戦で早くもヤマ場を迎える。
対戦相手は、樊振東。当時16歳という異例の若さで最強中国の男子シングルス代表に選ばれた樊振東は、将来のエース候補として中国が期待するホープだ。現在、世界の頂点に限りなく近い選手として知られる樊振東だが、当時もチキータからの畳み掛けるような両ハンド攻撃は先輩の張継科をもしのぐほどで、そのプレースタイルは時代の先端を走っていた。
現王者か。それとも次代のホープか。
3回戦には似つかわしくない好カードに多くの注目が集まったが、若き才能に触発された張継科が、王者としてのプライドをほとばしらせる。
(文中敬称略)
※世界卓球、オリンピック、ワールドカップの全てを制することを中国では大満貫と呼ぶ
(文/動画=卓球レポート)