卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回から、芸術的なタッチで観るものを魅了する松平健太(ファースト)の名勝負の数々を紹介していく。
シリーズ2回目は、呉尚垠(韓国)との2009年世界卓球選手権(以下、世界卓球)横浜大会男子シングルス2回戦をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
2度目の世界卓球男子シングルス出場を果たした松平
アジアの大砲に、華麗なラケットさばきで立ち向かう
平成20年度全日本卓球選手権大会男子シングルス準決勝で吉田海偉(東京アート/当時 グランプリ大阪)とのゲームオールジュースの激闘を制し、決勝へと勝ち上がった松平健太(当時 青森山田高)。決勝では水谷隼(木下グループ/当時 明治大)に敗れ、優勝こそならなかったが、前年の手首の故障による長期休養からの完全復活をアピールした。
この活躍により、松平はこの年の4月末に地元の日本で開催される2009年世界卓球横浜大会男子シングルスの日本代表に選手される。2007年世界卓球ザグレブ大会に初出場した松平にとって、2度目の世界卓球代表だ。
男子シングルス1回戦からの出場になった松平は、バックハンドの名手として知られるカラカセビッチ(セルビア)にストレートで快勝すると、2回戦で呉尚垠(韓国)と相対した。
呉尚垠は、強豪韓国の大黒柱。アジア人離れした体躯から放つ強烈な両ハンドドライブで「アジアの大砲」と恐れられる。2005年に行われた世界卓球上海大会では銅メダルを獲得しており、この横浜大会直前に発表された呉尚垠の世界ランキングは12位(2009年4月2日発表)だ。
いくら世界ジュニア王者とはいえ、当時、世界ランキング101位だった松平にとって、百戦錬磨の呉尚垠は高く険しい壁だ。
松平の才能を持ってしても呉尚垠は厳しい相手かと予想されたが、試合が始まると、松平がしゃがみ込みサービスからの華麗なラケットワークで第1ゲームを先制する。呉尚垠も地力を見せて第2、第3ゲームを返し、突き放そうとするが、横浜アリーナの大観衆を背にした松平が必死に食らいつく。
大砲級の豪打で攻め立てる呉尚垠と、その大砲を、弁慶を相手にする牛若丸よろしく華麗にさばく松平。男子シングルス2回戦と早いラウンドの試合だが、勝敗の行方が終盤まで分からないスリリングな展開は、まさに名勝負だ。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)