卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回から、ファンタスティックなプレーで多くのファンを持つメイス(デンマーク)の名勝負を2試合紹介する。
ラストは、郝帥(中国)との2005年世界卓球選手権(以下、世界卓球)上海大会男子シングルス準々決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
キレないメイスが魅せた、
世界卓球史に残る大逆転劇!
大方の予想を覆し、男子シングルス4回戦で王皓(中国)をストレートで下したメイス。2004年アテネオリンピック男子シングルスで銀メダルを獲得し、優勝候補の本命の一人だった王皓が、自国開催で完敗するという波乱に場内が騒然となったが、メイスは続く準々決勝でさらなるドラマの主役を演じる。
メダルをかけた準々決勝の相手は、郝帥だ。メイスと同じサウスポーの郝帥の武器はサービスで、彼の何気ないフォームからスッと出すサービスは回転量の差がすさまじく、郝帥はサービスの名手として世界にその名を響かせていた。
試合が始まると、予想通り、メイスは郝帥のサービスに手を焼いて3ゲームを立て続けに失い、あとがなくなる。第4ゲームも郝帥に終始リードを許す苦しい展開が続き、ゲームカウント0-3のポイント7-10とマッチポイントを握られてしまう。
これまでのメイスは、思うようにプレーできないと、そのストレスをうまく消化できずに自ら崩れてしまうことが多かった。メイスが試合中に感情を爆発させて、ラケットを床やフェンスに放り投げるのを目にしたのは一度や二度ではない。
郝帥のサービスをうまく崩せないゲーム展開に加え、そうした精神面のもろさを踏まえると、メイスの快進撃もこれまでか。誰もがそう見立てる中、しかし、メイスは一人試合に集中していた。
「僕が精神的に成長した転機は、けがをしたことです。ひざを故障したため、約半年間プレーができませんでした。そのときに、自分がどれだけ卓球を愛しているかがわかったんです。(中略)
このようなとき、『もし、ひざが回復して卓球をすることができたら、何かを変えよう』と思ったんです。(中略)
以前の僕は、試合中に相手にリードされたり、試合で負けたりしたときは、信じられないくらいイライラしていました。そのため、ラケットを投げたり、何かに八つ当たりしていました。
しかし、トップ選手になりたいなら、このような行為を慎まなければならない。世界のトップ選手の中にラケットを投げたりする選手はいませんし、多くの選手は試合中に落ち着き、集中しています。
とても長い道のりだったけど、最近では少しずつ自分の敗戦を受け止められるようになってきました。これは、自分のプレーをより良くするために克服しなければならないことだったと思います。
郝帥戦は、僕の精神的な成長が表れた好例かもしれません。2~3年前なら、あのような展開では0-4で負けていたでしょう。途中で試合を放棄したかもしれません。でも、僕は成長し、経験を積んできました(卓球レポート2005年11月号より抜粋)」と、精神面を磨いて上海大会に臨んだことを後に明かしたメイス。
このコメント通り、絶体絶命の場面でもあきらめずにボールを追いかけたメイスは、ロビングに活路を見いだして郝帥を猛追する。
窮地を脱するヒーロー映画さながらのメイスの大逆転劇は、何度見てもファンタスティックだ。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)