卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、隙のないオールラウンドプレーで一世を風靡した張怡寧(中国)の名勝負を紹介している。
今回は、劉詩雯(中国)との2009年世界卓球選手権(以下、世界卓球)横浜大会女子シングルス準決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
質の高いボールが行き交う、ハイレベルな準決勝
劉詩雯の猛追を、女王ならではの境地で迎え撃つ
2度目の世界卓球女子シングルス優勝を目指し、横浜に乗り込んだ張怡寧はベスト8まで難なく勝ち上がると、準々決勝で日本期待の石川佳純(全農/当時 ミキハウスJSC)を下してベスト4へ進出した。
準決勝の相手は、当時18歳の劉詩雯だ。劉詩雯といえば、この10年後に行われた2019年世界卓球ブダペスト大会で念願だった女子シングルス初優勝を果たし、コート上で感涙したシーンが記憶に新しいが、彼女が世界卓球女子シングルスに初めて出場したのは、この横浜大会である。
劉詩雯は、4回戦で2005年世界卓球上海大会2位、2007年世界卓球ザグレブ大会3位の実績を持つ郭炎(中国)にストレートで完勝すると、準々決勝では強打者のバチェノフスカ(チェコ)に打ち勝ち、初出場とは思えない堂々たるプレーでベスト4まで勝ち上がってきた。
前陣で途切れることなく両ハンドを振り続ける劉詩雯のプレースタイルは先進的かつ圧倒的で、張怡寧とも好勝負が期待された。
絶対女王か、それとも期待の新鋭か。注目の準決勝は、期待にたがわぬハイレベルな打ち合いが繰り広げられるが、張怡寧が地力を見せて3ゲームを連取する。このまますんなり勝負が決まるかと思われたが、劉詩雯が強烈な両ハンド速攻を炸裂させ、2ゲームを連取して追いすがる。
がぜん分からなくなった勝敗の行方に横浜アリーナがざわつき始めたが、張怡寧の内面は落ち着いていた。
「2ゲーム連取されたものの、私は慌てませんでした。『ちょっと戦い方を変えていこう』『この2ゲームのようなまともな打ち方をしてはいけない』と思いました。例えば、相手が軽く返してきたときは強く返したり、あるいは自分から打球のコースを変えたりしていくべきだと思いました。(中略)
ただ、今になって振り返ってみると、取られた2ゲームがずいぶん助けになったと思います。大きな大会特有の緊張感とコートでの緊迫感、気持ちの動き、相手にしつこく食らいつかれたときにどう振り切るかといったことを勉強させてくれたわけで、それらこそが私が必要としていたものだったのです(卓球レポート2009年11月号より抜粋)」と、頂点に立った者にしか語れそうもない言葉でこの試合を振り返る張怡寧が、試合の主導権を引き寄せていく。
絶頂期の張怡寧に対し、これほどのラリーを繰り広げられる劉詩雯のプレーは、後の彼女の活躍を予感させるに十分なものだが、その劉詩雯の猛追を、慌てず動じず包み込んでしまう張怡寧のスケールの大きさは圧巻というほかない。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)