卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、独自性の高いテクニックと大胆な戦術で世界の頂点をつかんだシュラガー(オーストリア)の名勝負を紹介している。
今回は、孔令輝(中国)との2003年世界卓球選手権(以下、世界卓球)パリ大会男子シングルス準決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
「最初からもつれることを覚悟していた」
孔令輝との手に汗握る激闘は、大会屈指の名勝負!
7日間でのべ10万人もの観客を動員した2003年世界卓球パリ大会は、長い世界卓球史上の中で最も盛り上がった大会の一つとされる。大会期間中はそこかしこで卓球の観戦とはとても思えないような歓声とウェーブがわき起こり、会場のオムニスポーツパレス(現 ベルシー・アリーナ)は連日、熱気に包まれた。
この盛り上がりは、スポーツを直感的に楽しむ欧州の人たちの気質によるところが大きいが、さらに拍車をかけたのは、シュラガーの快進撃だ。
男子シングルス準々決勝で優勝候補の王励勤(中国)を神がかった大逆転劇で下したシュラガーは、母国オーストリアのみならず欧州の希望として、一気にパリ大会の主役へと躍り出た。
準々決勝の奇跡的勝利から一夜空けた大会最終日、シュラガーは男子シングルス準決勝に挑んだ。
最終日のオムニスポーツパレスには1万5千人もの大観衆が詰め掛け、歓声とウェーブによる地響きでフロアを揺らしながら、ラブオールの声がかかるのを待っていた。
シュラガーが準決勝で相対するのは、孔令輝(中国)だ。
1995年世界卓球天津大会男子シングルス優勝や2000年シドニーオリンピック男子シングルス金メダルを筆頭に、輝かしい戦歴を重ねてきた孔令輝は、優勝候補の一人としてパリ大会に臨んでいた。準々決勝では、第1シードのボルを下した後輩の邱貽可(中国)を一蹴して勝ち上がってきており、その強さは健在だ。
プレーの好調ぶりに加え、男子シングルスベスト4に勝ち残った中国選手は孔令輝ただ一人で、孔令輝には「中国の威信にかけて負けられない」という静かな気迫がみなぎっていた。
試合が始まると、「孔令輝との試合には、王励勤と対戦したときよりもいい調整で入ることができた(卓球レポート2003年11月号)」と振り返るシュラガーが、割れんばかりの大観衆の声援をバックに、多彩なサービスから威力のある両ハンド速攻で孔令輝を序盤から引き離す。
しかし、孔令輝も最強中国の看板を背負っていながら負けるわけにはいかない。持ち前の緩急を使ったミスの少ない両ハンドでじわじわと追い上げを開始する。
シュラガーが鮮やかな読みで速攻を決めたかと思えば、すかさず孔令輝が的確なコース取りからの展開でポイントを返す。
「彼(孔令輝)との試合は勝っても負けても必ず競り合いになる。どっちが勝つかわからないし、最初からもつれることを覚悟していた(卓球レポート2003年11月号)」と試合前にシュラガーが腹を据えていたように、シュラガーのひらめきと孔令輝の緻密さのぶつかり合いは、激しく火花を散らしながらスリリングにもつれていく。
このパリ大会男子シングルスでは好試合が続出したが、その中でも屈指といわれる名勝負に、手に汗を握ってほしい。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)