卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、全日本卓球選手権大会で繰り広げられた記憶に残る名勝負を紹介している。
今回は、令和元年度(2020年1月)の全日本卓球選手権大会(以下、全日本)男子シングルス準決勝、張本智和(木下グループ)対戸上隼輔(明治大/当時 野田学園高)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
張本智和と戸上隼輔。次代を担う二人のぶつかり合いは
ここ数年の全日本の中でも際立つベストゲーム!
前回(2020年1月)の全日本男子シングルスは好試合が続出したが、その中からベストを挙げろと言われれば、この試合だろう。
平成29年度(2018年1月)全日本男子シングルス優勝や2018年ワールドツアー・グランドファイナル優勝など、史上最年少記録を次々と更新している張本智和は、優勝候補の大本命として今大会に臨んでいた。
平成30年度の全日本では準決勝で大島祐哉(木下グループ)に敗れ、連覇を逃していた張本は、2年ぶりの優勝を目指して初戦から隙のないプレーを見せる。「打倒張本」を掲げ、ライバルたちがなかば捨て身で向かってくる中、張本は準々決勝までの4試合をすべてストレート勝ちという完璧な内容で勝ち上がってきた。
一方、インターハイ二連覇を手土産に令和元年度の全日本に乗り込んだ戸上隼輔は、5回戦で村松雄斗(東京アート)を圧巻のカット打ちで下してランク入り(ベスト16入り)すると、6回戦では同じ高校生の曽根翔(愛工大名電高)との打ち合いを制してベスト8へ。
そして、準々決勝では2020年東京オリンピック日本代表内定の丹羽孝希(スヴェンソン)をストレートで下してベスト4入りしており、戸上もプレーの充実ぶりが際立っていた。
戸上の勢いは目を見張るものがあったが、馬龍や樊振東(ともに中国)ら世界のトップ選手たちに勝っている張本の力は日本男子の中で別格だ。その張本に対し、戸上のプレーがどこまで通用するのか。そんな見立てで始まった準決勝だったが、張本は戸上の破壊的な攻撃の前に大苦戦を強いられる。
張本は、第1ゲームこそ安定した立ち上がりで先制するが、第2ゲームを接戦で戸上に奪われ、今大会で初めてゲームを落とす。すると、戸上の鋭い両ハンド攻撃の前に張本のプレーがおとなしくなって第3、第4ゲームも失い、あっという間に追い込まれてしまう。
これは張本が敗れるか。戸上の無慈悲ともいえる攻撃力を目の当たりにし、場内が下剋上の予感にざわつき始めたが、耐えるしかないと判断した張本はブロックに活路を見いだし、追い上げを開始する。
思わず声が出てしまうような好ラリーが続出したこの試合を、元全日本王者の渋谷浩は次のように評している。
「試合内容としては、ここ数年の全日本で見てもベストゲームと言えるんじゃないでしょうか。二人とも素晴らしかったですね。あれほどのパフォーマンスを見せた戸上もすごかったし、その戸上に勝った張本もすごい。この試合を会場で見られた卓球ファンは幸せだと思います」。
轟音ほとばしる戸上の攻撃と、それを必死に受けて立つ張本。これからの日本を背負っていく若き二人の攻めと守りのせめぎ合いは、今見ても手に汗を握る迫力がある。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)