卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回から、全日本卓球選手権大会で繰り広げられた記憶に残る名勝負を取り上げていく。
今シリーズは、全日本卓球選手権大会で繰り広げられた記憶に残る名勝負を紹介している。
今回は、平成23年度(2012年1月)の全日本卓球選手権大会(以下、全日本)女子シングルス決勝、福原愛(当時 ANA)対石川佳純(全農)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
13年越しの悲願を目指し、
猛攻を決意した福原愛が前回女王の石川佳純に挑む!
平成23年度全日本女子シングルスの決勝は、福原愛対石川佳純という卓球ファンのみならず、日本中が注目するカードになった。
幼少の頃から天才少女として注目を集めてきた福原だが、全日本女子シングルスは11歳で初出場してから13回目となる今回まで、優勝はない。これまでの最高成績は3位(平成20、22年度全日本)で、決勝まで勝ち上がったのは今回が初めてになる。国際大会では日本代表として数々の成績を残していた福原だが、全日本になると、知名度やそれに付随する期待が足かせになるのかプレーのリズムが乱れ、不本意な成績で会場を去ることが多かった。
しかし、13度目の正直を目指す平成23年度の全日本では、技と気迫ががっちりとかみ合ったプレーで、準々決勝で実力者の若宮三紗子(当時 日本生命)を退けると、準決勝では通算5度の優勝を誇る平野早矢香(当時 ミキハウス)をストレートで下し、決勝へと勝ち上がった。
一方の石川は、前年(2011年1月)の平成22年度全日本で女子シングルスを17歳で制し、二連覇を目指してこの全日本に臨んでいた。
準々決勝で優勝候補の一角だった藤井寛子(当時 日本生命)、準決勝では成長著しい田代早紀(当時 日本生命)をいずれもストレートで下して勝ち上がってきており、プレーの充実ぶりが際立つ。
福原と石川は前年の準決勝で対戦しており、その時は石川が安定性の高い両ハンドで福原の焦りを誘ってゲームカウント4対1で勝利し、その勢いで優勝している。
福原が悲願の初優勝を遂げるのか。それとも、前回女王の石川が二連覇を果たすのか。
互いの充実ぶりから好勝負が期待されたが、「これまでの対戦から戦術を考えたときに、石川さんに打たせる展開の方がいいと思いました。でも、もしもそれで、つまり私が守る展開で負けたら悔いが残ってしまう。それなら、悔いのないように攻めていこうって決めたんです(卓球レポート2012年4月号)」と決戦前に戦い方を固めていた福原が、序盤から猛然とスパートをかける。
福原は変化の分かりにくい縦回転系サービスをバック前に集めて石川の攻め手を封じ、打球点の速い両ハンドで畳み掛けるパターンでラリーの主導権を握る。一方、石川も二連覇に向けて福原の猛攻になんとか対応しようとするが、福原の攻めが厳しい上にミスしないプレーの前に後手に回る展開が続く。
13年越しの悲願に向けて、一心不乱に猛攻を仕掛ける福原に注目だ。
結局、福原は全日本初優勝を遂げるのだが、悲願達成についての心情を彼女らしい素直な言葉で残しているので、ここに紹介しておきたい。
「いろいろな国際大会を経験させていただいているのに日本チャンピオンになったことがなくて、ずっと肩身の狭い思いをしていたんですけど、やっと優勝することができてほっとしました。全日本選手権っていうのは本当に私にとって特別な大会で、どんな大会よりも緊張する大会なので、このような大会で優勝することができて、自分の中で1つ壁を越えることができたと思います。(プレッシャーが)ないと言ったらうそになりますけど、プレッシャーを感じなければいけない、プレッシャーがないのは責任がないのと同じだと思うので、プレッシャーに勝つことができてすごくうれしいです(卓球レポート2012年3月号)」
「プレッシャーがないのは責任がないのと同じ」というフレーズが印象深いが、この使命感の強さこそが、福原の全日本をこれまで苦しいものにしてきた。
福原の猛攻が際立つこの試合は、激闘と呼べる内容ではないかもしれない。しかし、幼少の頃から世間の注目を浴びながら、卓球のステータス向上に多大な貢献をしてきた「愛ちゃん」こと福原が、全日本の呪縛に13年目にして打ち勝つ試合は、我々卓球人の記憶に刻んでおくべきだろう。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)