卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回は、2021年世界卓球選手権ヒューストン大会を目前に控えた日本代表へのエールを込めて、過去の日本代表が世界卓球でメダルをつかみ取った名勝負を取り上げていく。
第4回は、2017年世界卓球選手権デュッセルドルフ大会混合ダブルス決勝、吉村真晴(愛知ダイハツ/当時 名古屋ダイハツ)/石川佳純(全農)対陳建安/鄭怡静(中華台北)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
混合ダブルス48年ぶりの偉業!
吉村/石川が逆転でつかんだ金メダル!!
2015年世界卓球選手権蘇州大会混合ダブルスで銀メダルを獲得していた吉村真晴と石川佳純は、2年後の2017年世界卓球選手権デュッセルドルフ大会の混合ダブルスに、優勝候補の一角としてエントリーしていた。
トーナメントが始まると、ダブルスでも男子のトップ選手からエースを奪えるほどの変化サービスと果敢な両ハンド攻撃を武器にする吉村と、男子のボールにも的確に対応する石川のペアは順当にベスト8へ勝ち上がり、準々決勝では李尚洙/梁夏銀(韓国)の強豪ペアを充実のプレーで下して早々にメダル獲得を決める。
続く準決勝では、方博/P.ゾルヤ(中国/ドイツ)の国際ペアにゲームカウント1対3と追い込まれるが、そこから勝利への執念を見せて逆転勝ちし、2大会連続で決勝へ進出した。
吉村/石川が決勝を争う相手は陳建安/鄭怡静(中華台北)だ。サウスポー・陳建安の両ハンドは威力があり、鄭怡静も女子の中では抜きん出た球威を持ち味にする強打者ペアである。準決勝では黄鎮廷/杜凱琹(香港)とのゲームオール9本の激戦を競り勝ってきており、勢いに乗っていた。
試合が始まると、吉村/石川は中華台北ペアの球威に押され、準決勝と同じようにゲームカウント1対3と追い込まれてしまう。さすがに2回連続でこの窮地を脱するのは厳しいか。関係者の多くがそう見立てる中、しかし、二人は優勝への執念をプレーに込め始める。
石川が堅実にしぶとくつなぎ、それに呼応するかのように吉村の両ハンドが加速し、サービスの切れ味が増していく。追い込まれたことで枷(かせ)が外れたかのような日本ペアの勢いは最後まで止まらず、チャンピオンシップポイントで石川がスマッシュを決めると、二人は歓喜の抱擁を交わした。1969年世界卓球選手権ミュンヘン大会で長谷川信彦/今野安子が獲得して以来、48年ぶりとなる混合ダブルス金メダル獲得の瞬間だ。
優勝を決めた二人は、それぞれ次のようなコメントを残している。
「表彰台の一番上に立った時にカップを渡されて『これが1位と2位の差なのか』と実感しました。世界チャンピオンのすごみというか重さを感じました。本当に苦しい場面がたくさんあって、自分もなかなか調子が良くなくて、前半は凡ミスが続いていたのですが、石川さんが『大丈夫、大丈夫』と励ましてくれたので最後まで自分もなんとかしてやろうと思って戦えましたし、それが救いになって良いプレーができました/吉村」
「前回はすごく残念な思いをしたので、今回初めてカップを持って世界チャンピオンになれてすごくうれしいですし、どんなに苦しい場面でも最後まで諦めずにプレーすることができました。(準決勝、決勝は)すごく苦しい場面の中でコンビネーションが試されたと思います。その時に私たちのたくさん練習してきた成果が出たのかなと思います。(第6ゲームの10対9では)『ナックルサービスが来たら、ストレートへ払って』と吉村君に言ったのですが、そうしたら『任せてくれますか』と吉村君が言いました。私はそれに対して『任せるよ、絶対入る』という会話をしていました。そうしたらナイスボールを決めてくれたのでさすがだなと思いました。コンビネーションの良さが出た場面だと思います/石川」
パートナーへの信頼が勝因だったと異口同音に語った吉村と石川。互いが信頼し合うことはダブルスのポイントとしてよく語られるが、この根本的ともいえるポイントを、出場ペアの中でどこよりも共有できていたからこそ、二人は頂点をつかむことができたのではないだろうか。
ぜひ、プレーだけでなく、二人の信頼関係がしばしば表れるプレー間の所作にも注目しながら、約半世紀ぶりの偉業を目に焼き付けてほしい。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)