人類に甚大な被害を与えている新型コロナウイルスは、スポーツ界にも漏れなく大きな爪痕を残し続けている。一時の恐怖心や緊張感は薄れてきたものの、まだしばらくは感染対策に追われる日々が続きそうだ。卓球部の活動に関わる指導者や選手たちにとっても、「いかに感染予防をしつつ、練習や大会を行うか」は日々の大きな負担であり、課題だろう。
この課題に取り組む手がかりの一つとして、野田学園高校卓球部監督の橋津文彦氏が、部内から感染者が発生した体験談や日頃行っている感染対策などを寄せてくれた。
橋津氏がつづる日常から、コロナと向き合うヒントが得られれば幸いだ。
【前編はこちら】
かつてない緊張感を感じた今年の全日本
今年の全日本は、昨年以上に全国の感染者が多い状況で開催されました。そんな中で開催してくださったことには本当に感謝ですが、大会期間中にも発熱などで棄権する選手が多く、これまで経験したことがない緊張感を感じました。
全日本の時点のルールでは、大会へ出場するためには「入場前日の2週間前からの体温報告」と「入場当日の体調チェックシート」の提出が義務付けられていました。入場ごとに提出する体調チェックシートには、「家族や周囲に陽性者がいて濃厚接触者となった場合は出場できない」ことも記されています。
また、会場入り口では検温が行われ、高い体温が表示された人は会場に入ることができません。しかし、その体温計は非接触型のもので、いつも通常よりかなり低い体温しか表示されず、正確性に疑問を感じていました。
全日本終了後、多くの指導者や選手から連絡があり、私たちと同じように陽性者が出たと聞きました。本当に仕方のないことだとは思いますが、なぜ、ここまで感染者が出てしまったのでしょうか。
中編では、その要因と対策について私見を述べたいと思います。
各自がモラルを守り、さらなるチェック機能の強化が必要
全日本の会場に入るための現行のチェック方法は、完全に自己申告制でした。チェックシートに問題なしと記入され、体温計で高温が表示されなければ、入場の可否を判断する運営側は、余計な詮索はせず、入場を受け入れるのが当然です。
しかしながら、全日本は日本の選手にとって頂点に位置する最も重要な大会です。そのため、「全日本に出場したい」という思いから、体調に異変を感じたり、濃厚接触者の可能性が高かったりしていたとしても、それに目をつぶって会場入りしてしまった選手や関係者がゼロだったとは思えません。
結果いかんで人生が大きく変わる全日本になんとしても出たい気持ちは十分理解できますし、「感染しているかもしれないけど関係ない」という身勝手な人はいなかったと信じています。しかし、全日本に意気込むあまり、知らず知らずのうちに自己の感染リスクを低く見積もり、会場入りした選手や関係者が少なからずいたのではないか。このことが、全日本で感染が拡大してしまった要因の一つだと私は思います。
各自のモラルに多くを委ねる感染拡大防止策というのは、やはり限界があるように思います。その隙を見抜くのがチェック機能なのですが、現状の自己申告制の体調チェックシートと正確性があやしい体温計では、チェックが十分に機能していたとは言えません。この不十分なチェック機能も、感染が拡大してしまった要因として見逃せないでしょう。
私もコロナ禍の中でイベントを行い、運営側の感染対策の大変さは身に沁みて分かっているつもりです。感染対策には手間も費用もかかるので軽はずみに言えませんが、チェック機能を万全にするのであれば、「入場前の抗原検査」と「確度の高い体温計での体温チェック」は必須でしょう。
そうして、チェック機能を強化することが、大会における感染拡大を防ぐ最も効果的な方法だと思います。
「いつも正しく在りたい」。その思いで生徒と向き合っていきたい
私たち野田学園はおそらく全日本期間中に感染し、全日本後に感染が発覚しましたが、出場した選手たちはコートに立ち、最後まで全力でプレーすることができました。このことは、言葉が適切でないかもしれませんが、不幸中の幸いだったと思います。
コロナ禍が始まり、およそ2年がたちましたが、慣れてしまったせいか初めの頃の恐怖感は少なくなってきました。人々の価値観や考え方が多様化し、ズバッと結論を出せないことが多くなってきたように感じる今、気持ちを文章でうまく表すことが難しくなっているとも感じてもいます。憶測で感染拡大の要因や防止策について勝手なことを述べましたが、かくいう私だって決して聖人君子ではありません。
しかし、いつも正しく在りたい。そう自分を戒めながら、生徒たちと毎日向き合っています。(後編に続く)
(まとめ=卓球レポート)