人類に甚大な被害を与えている新型コロナウイルスは、スポーツ界にも漏れなく大きな爪痕を残し続けている。一時の恐怖心や緊張感は薄れてきたものの、まだしばらくは感染対策に追われる日々が続きそうだ。卓球部の活動に関わる指導者や選手たちにとっても、「いかに感染予防をしつつ、練習や大会を行うか」は日々の大きな負担であり、課題だろう。
この課題に取り組む手がかりの一つとして、野田学園高校卓球部監督の橋津文彦氏が、部内から感染者が発生した体験談や日頃行っている感染対策などを寄せてくれた。
橋津氏がつづる日常から、コロナと向き合うヒントが得られれば幸いだ。
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高校選抜に向けては部内のみで強化を図る
初めて陽性判定が出た日から10日間ほど、卓球部の活動は停止になりました。生徒たちの体調はもちろん心配でしたが、1日でも早く練習を再開したいと思っていました。生徒たちは外出することもできず、ずっとホテルや寮で待機していたので本当に息苦しかったと思います。
活動再開後は、けがに注意して少しずつ練習の強度を上げていきました。しかし、出場を予定していたオープン戦が中止になってしまいました。そのオープン戦は貴重な実戦経験を積む場だったので、3月の高校選抜に向けての強化計画が白紙となり、私は少し焦りました。
しかし、中止になってしまったものは仕方ありません。高校選抜に向けては、遠征や他チームとの合同練習は行わず、自分たちだけでミニ合宿のような強化練習を行って本番に臨むことにしました。いつもなら、大会前にはOBや対策練習のトレーナーを招聘(しょうへい)して事前合宿を行うのですが、今回は感染リスクを少しでも下げることを優先すべきだと判断し、それも控えました。
日々の感染対策について
ここで、野田学園で行っている感染対策について、簡単に紹介したいと思います。ご承知の項目も多いと思いますが、日頃の感染対策のヒントにしていただければ幸いです。
野田学園で実施している主な感染対策
・毎朝、グループLINEで体温報告
・各所に消毒液を設置(練習場入り口、寮入り口、各部屋など)
・生徒が不在時に寮母が毎日寮全体を消毒
・練習の休憩時は手洗い、うがい、換気
・練習時以外のマスク着用の徹底
・大会期間中の食事はテイクアウトし、各自部屋で喫食
・大会から戻ったら必ず抗原検査を行う
・来部者にも必ず抗原検査を行う
・感染のリスクの高い行動後は登校せず待機
私たちが行っている主な感染対策は上記の通りです。最後の「感染リスクの高い行動後は登校せず待機」とは、練習や大会で感染リスクの高い地域へ行って山口に戻った際は、すぐに登校せず、抗原検査等で陰性を確認し、数日間様子を見てから登校するようにしています。
費用面に触れると、消毒液等の備品は部費で負担しています。抗原検査やPCR検査は、自治体による無料検査を除いては基本的に私が個人で負担することが多くなってしまいます。
そのため、感染対策の費用はいくら使ったか考えたくないくらいですが(笑)、これは、私も含めて生徒たちができる限り安心して卓球に打ち込むための必要経費だと割り切っています。
2位に終わり、愛工大名電の高い壁を感じた高校選抜
今年の高校選抜も、ベンチでの応援については控えるよう依頼があり、コロナ禍以前のような全国大会の雰囲気はありませんでした。
前回まではベンチでの応援は大会のルールによって規制されていましたが、今回は大会主催者からの「お願い」に変わっていました。しかし、ほとんどのチームが応援したい気持ちを抑え、無言のガッツポーズと拍手で選手を後押ししていました。
私たちは大会を通じて感染予防を徹底していましたが、練習会場は狭い空間に多くの選手が密集し、換気が悪く、マスクを着用している選手も少ない状況でした。仮に陽性者が近くにいた場合は、感染のリスクは高かったと思います。
大会における感染拡大防止は、試合会場だけでなく、練習会場も重要だということを実感した光景でした。
試合が始まると、私たちもつい熱くなってベンチで思わず声を出してしまい、審判から注意を受けることが何度かありました。私は無言のガッツポーズと拍手で生徒たちを応援しながら、心の中の大きな声で「がんばれ! がんばれ!」と何度も何度も叫んでいました。
結果は、決勝まで勝ち上がりましたが愛工大名電に1対3で敗れ、準優勝に終わりました。選手たちをうまく波に乗せられなかったことは本当に悔しいですが、その一方で愛工大名電の壁の高さを痛感しました。
そして、いつもの事ですが、敗戦の夜は悔しくてなかなか眠れず、次の目標に向けて何をしなければならないのかをずっと考えていました。
価値観が多様化する今こそ、リーダーシップを強く発揮していきたい
目標達成のための選手強化を考えるとき、最近ではいつもコロナの壁にぶつかってしまいます。私たちだけではないと思いますが、感染予防ばかり考えて、本当に集中して強化に取り組めないのが正直なところです。
しかし、ワクチン接種も進み、最初の頃のような恐怖感も少なくなってきた現在は、もう立ち止まっているだけでは駄目なマインドに世の中全体が移行してきています。
私たち野田学園卓球部は、「卓球を強くなり、それぞれの夢に挑戦していく」ことがチーム活動の意義でもあります。とはいえ、感染者や濃厚接触者になり、インターハイや全中などの大切な大会に出場できなくなってしまう事態だけは避けなくてはなりません。
コロナ禍が続く状況においては、「感染状況や重要な大会のスケジュールの把握」「対外的な強化合宿をする場合のリスク管理と、その成果のバランスを判断する」ことが、指導者として大切だと私は考えています。
正解が見えない、このコロナ禍の状況はまだまだ続くでしょう。
そして、多くの人の価値観が多様化し、同じ回答を出すことが難しくなっている今こそ、リーダーシップを強く発揮して前進していかなければならないと思っています。(了)
(まとめ=卓球レポート)