卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズでは、2月に韓国の釜山で開催された第57回世界卓球選手権大会団体戦(以下、世界卓球2024釜山)で繰り広げられた激闘の軌跡をたどる。
今回は、女子団体決勝の中国対日本の2番、早田ひな(日本)対陳夢(中国)の名勝負をお届けしよう。
■第1ゲームを圧倒された早田が見せた新境地
「気持ち悪いプレー」で五輪女王を後手に回す
5大会連続決勝で相まみえた中国と日本。過去4大会は中国に敗れ、2位に甘んじてきた日本は5度目の正直を目指して張本美和に先陣を託したが、孫穎莎の圧倒的なプレーの前にストレートで敗れ、先制を許す。
中国に勝つためには、シングルスだったら第1ゲーム、団体戦ならトップを取って動揺を誘う。これは、対中国においてよく語られる言葉だが、相手が孫穎莎だったとはいえ、トップを物にできなかった日本は勝利に出遅れた形だ。
しかし、2番でエースの早田ひなが、望みをつなぐ躍動を見せる。
早田に対する中国の2番は、陳夢だ。東京オリンピック女子シングルス金メダルを筆頭に数々の実績を挙げてきた陳夢は、チーム最年長となる30歳で今大会を迎えた。若手の台頭が激しい中国にあって、今なお決勝の舞台を任されるのは、それだけ力があり、ベンチの信頼が厚い証拠だ。
陳夢のプレースタイルは、まさにオールラウンド。ラリー志向の選手が多い中国にあって、ラリー戦の強さはもちろんのこと、3球目や4球目などの短期決戦でも決めきる攻撃力を備えている。
ラリーが鉄壁で決定力も兼ね備えた陳夢は、早田が一度も勝ったことがない相手だ。
試合が始まると、陳夢が盤石のプレーで早田のパワフルな攻撃をはね返し、第1ゲームをあっさり奪う。
陳夢の厳しい攻めと堅い守備に圧倒された形の早田だったが、しかし、気持ちは切れていなかった。
「立ち上がりは、いつもの陳夢選手より3倍くらい強い感じで、今までと同じ卓球をしてもノーチャンスだと思った。中国選手は好きなようにプレーしていても勝てる相手ではないし、とにかく『気持ち悪いプレー』で相手に強打をさせない。そして粘り続ける」と決意を固めた早田が、第2ゲームから反撃を開始する。
早田の言う「気持ち悪いプレー」とは抽象的で印象的なフレーズだが、要は自分のやりやすいプレーを抑えて、相手のやりにくいプレーを優先するということだ。早田が第2ゲームから多用したロングサービスや、両ハンドでの緩急などがそれに当たるだろう。
いずれにしても、第2ゲーム以降の早田は、気持ち悪いプレーを心掛けたという割に、第1ゲームとは人が変わったかのように自由で楽しそうで圧倒的だ。
球史に残る名勝負への口火となった一戦から、「気持ち悪いプレー」という言葉の裏に伏した駆け引きの妙を味わってほしい。
(文中敬称略。年齢、世界ランキングは大会時)
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(文/動画=卓球レポート)