昨年の全日本卓球2024のジュニア男子決勝は松島輝空(木下グループ)との同級生対決で熱戦の末に敗れ、惜しくも初優勝を逃した吉山和希(岡山リベッツ)が、全日本卓球2025、最後の全日本ジュニア男子で念願のタイトルを手に入れた。
インタビュー後編では、初のスーパーシード越えを果たした男子シングルス、松島輝空(木下グループ)の優勝について、また、用具の使用感についても詳しく聞いた。

(大島戦は)攻めに徹することができたのがよかった
----男子シングルスの話も聞かせてください。
吉山和希(以下、吉山) 初戦(2回戦)からカットの木村選手(木村飛翔/駒澤大学)で、関東学生でもすごい活躍している選手で、すごく警戒している選手だったので、映像を見て、練習相手にカットの選手を呼んでいただいたりして、初戦を3対0で勝つことができて、いいスタートが切れました。
カット主戦型は個人的に対戦することが少なかったこともあって苦手でしたが、練習をしているうちに自信が付いてきて、それがうまくはまってよかったと思います。
3回戦の堀川選手(堀川敦弘/クローバー歯科カスピッズ)は、名電(愛工大名電中)の先輩で、全日本のジュニア男子でベスト8に入っていますし、インターハイでもランキング入りしているので、強い選手だということは分かっていて、一発が怖かったので、そこを警戒しながらプレーしていましたが、逆に警戒しすぎてしまったせいか結構競ってしまいました。
----4回戦、スーパーシードの対戦相手は大島祐哉選手(木下グループ)でした。序盤は0対2と苦しい試合展開でしたね。
吉山 大島さんとはこれまで2回対戦していて、2023年のTリーグ個人戦(NOJIMA CUP 2023)で3対4で負けて、去年の6月のアジア選手権大会の選考会では予選リーグで3対0で勝っていたので、ある程度自信を持って臨みました。もちろんとても強い選手なので、一切油断せずに、自分から向かっていく気持ちでプレーしましたが、序盤は自分のプレーがよくなかったですね。
----0対2からどのように流れを変えたのでしょうか?
吉山 邱さんが3ゲーム目の1-4でタイムアウトを取ってくれて、そこから一気に流れを変えることができたと思います。「もう自分から仕掛けるしかないよ」と話してもらって、例えば、レシーブだったらほとんどチキータでいくしかない、自分の得意なところを出してプレーするしかないという感じですね。サービスも同じで、自分からの攻めに徹することができたのがよかったと思います。
3ゲーム目を取られたらほぼ終了というか、チャンスがなくなると思っていたので、開き直ることができたのがよかったですね。

----ジュニア男子王者として臨んだ5回戦の岡野俊介選手(朝日大)との試合ではあまりいいところが発揮できませんでした。
吉山 ジュニア男子の優勝が決まった直後というタイミングもあって、ホッとしてしまったというか、完全に緊張感が抜けてしまった感じがしていて、自分の気持ちの弱さが出てしまったので、それは反省しなきゃいけないと思いました。
相手は大学生チャンピオンで、自分が100パーセントでプレーできても4対6、か3対7の勝率だと思っていましたが、こういう結果になってしまったのはすごい悔しかったです。
----メンタル面以外で、やりにくかった点はありましたか?
吉山 サービス・レシーブの精度、一発の威力がすごいある選手で、コース取りもうまいですし、左利きの自分に対してすごく自信を持ってプレーしていると感じましたね。
----今大会を通して感じた課題はありましたか?
吉山 全体的にしっかり練習して強くなるしかないというのはありますね。どこを強化するというよりは全体です。もっと体の土台をつくって、プレーの精度を上げていかないと厳しいかなと思っています。
----自信が得られた大会でもあったと思いますが、その点についてはいかがですか?
吉山 やっぱりすごく練習をしてきたので、特にフォアハンドの決定力は上がった気がしましたし、ミスも減ったと思いますし、そこはすごく自信になりました。

松島選手は本当にメンタルが強い
----一般の男子シングルスで同級生の松島輝空(木下グループ)が優勝したことについてはどのように感じましたか?
吉山 松島選手が優勝する可能性はあるとは思っていましたが、あの勝ち方には正直びっくりしました。僕は松島選手には何度も負けていますが、逆に、同世代で松島選手以外には負けていないという自信はあったので、松島選手の優勝は、僕にとってもすごい自信になりました。
松島選手は自分としてもすごく好きなので、決勝は個人的にも応援する気持ちがありました。優勝が決まって「優勝おめでとう、マジで感動したわ」とメッセージを送ったら、「お前も強いからがんばれよ!」と返ってきて(笑)、「また、メシ行こう」という話もしました。仲はいいですね。
ただ、ライバルというよりも、松島選手はもう本当の日本トップの選手なので、ちょっとでも近づけたらいいと思っています。
----松島選手に勝ちたい、松島選手を超えたいという思いもあると思いますが、その点はいかがですか?
吉山 それはもちろんあります。松島選手とはこれまで何回も対戦していますが、去年の全日本ジュニア男子の決勝で初めて真っ向勝負できたという手応えがあったので、こういうプレーを何回も続けていたら、チャンスはあるんじゃないかと思いました。
----吉山選手から見て、松島選手の強さはどこにあると思いますか?
吉山 やっぱりメンタルですね。すごい重圧の中で、毎回すごいパフォーマンスをしているので、本当に気持ちが強いと思います。どんな大舞台でも緊張しているように見えないし、本当に物おじしないというか、誰が相手でも関係なく「俺のやることをやる」という姿勢を貫いてやっていると思うので、一番の強さはそこかと思います。
一緒に練習をさせてもらうこともありますが、本当に卓球に対して真面目に取り組んでいるし、そいういうところも関係あると思いますね。

樊振東 ALCとディグニクス09Cにしてから
カウンターのときに打ち負けなくなった
----今使っている用具についても聞かせてください。ブレードは全日本の直前に変更したそうですね。
吉山 はい。今は樊振東 ALCにラバーは両面ディグニクス09Cを貼っています。ブレードは、世界ユースまでは張本智和 インナーフォース SUPER ALCを使っていて、コントロールしやすくてめちゃくちゃ使いやすかったのですが、もうちょっと威力を出したいと感じて、樊振東 ALCに替えました。樊振東 ALCは球離れが早い分、威力が出て、しっかり練習して慣れたらいけると思ったので、思い切って替えました。
替えてからは、カウンターのときに打ち負けなくなりました。すごいボールを打たれても、生きたボールで返せるところが一番いいですね。あとは、ブロックのときに、止めるだけじゃなくて押し返せるプレーが増えたと思います。
----ラバーをディグニクス09Cに替えたのはいつでしたか?
吉山 高校1年生の11月(2023年)頃でした。それまではフォア面がテナジー05ハード、バック面がディグニクス05でしたが、その時指導していただいていた渡辺理貴さんにディグニクス09Cを勧めてもらって、試したみたらめちゃくちゃよかったので、それでやめられなくなりました。チキータの引っかかりがすごくいいですね。
今の卓球はすごい速いし、両ハンドが振れないときついじゃないですか。ディグニクス09Cだと回転がかけやすいというか、ボールを当てるだけで勝手に上に上がってくれるので、それがたまらないですね。今のところ、他のラバーには替えられないですね。
----最後にこれからの目標を聞かせてください。
吉山 まだちょっと先ですが、これで世界ユース選手権大会の代表権が獲得できたので、そこで同世代の中国選手に勝って金メダルを目指したいと思います。
あとは、インターハイにまだ出たことがないのですが、次が最後のチャンスになるので一度は出てみたいですね。「高校生だけ」という独特な雰囲気の中でプレーしてみたい気持ちもありますし、高校生チャンピオンにもなりたいと思っています。
----将来はこんな卓球選手を目指したいという長期的な目標はありますか?
吉山 やっぱり日本代表になって、オリンピックに出てメダルを取るような選手を目指しています。その時に松島選手と一緒に出られたらすごくいい思い出になりそうですね。

吉山和希には、「若さ」や「勢い」だけではない不思議な魅力がある。
勝負どころで使うロングサービスや思い切った回り込み、一発で相手を抜き去る鋭いチキータレシーブなど、そのプレーはジュニアらしい若々しさを感じさせる一方で、話を聞いてみると、自分の試合や他の選手のプレーを驚くほど冷静に分析し、彼に関わる指導者や友人たちへの尊敬の念や感謝の言葉をさらりと口にする大人びた一面を見せる。
その陰には、全日本ジュニア男子で2度タイトルを獲得している兄・吉山僚一(日本大学)や、17歳にして既に全日本王者の座に就いた松島輝空ら、類いまれな実力者が身近にいたことの影響もあるのだろう。指導者や先輩、同年代の選手だけでなく、後輩たちにも屈託なく賛辞を送る吉山和希の持つこうした美徳を謙虚さと呼ぶことはできるかもしれない。
だが、それだけだろうか。
その無邪気な笑顔の向こう側には、彼らを超えるためのさらなる努力を惜しまない強い覚悟を吉山は備えているように私は感じた。彼の飾らない、気負いのない物腰はその覚悟の強さを隠すためのカムフラージュなのではないか。そんな見方はあまりにうがち過ぎだろうか。
ともあれ、その答えの是非によらず、彼がまだまだ強くなることだけは間違いない。
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(取材=卓球レポート、文=佐藤孝弘)