［選手インタビュー］

教えて！上D ＜ドイツ編＞
第18回「卓球で大切な要素の比率は？」

2025.02.20

「卓球界の賢人」こと上田仁が、その確かな実力と見識をもとに、さまざまな質問に答える人気企画「教えて！上D（ウエディー）」です。2023年の8月から日本を離れ、ドイツに拠点を移した上Dが、卓球についてはもちろんのこと、ドイツやヨーロッパ各地への転戦の日々についても伝えてくれます。
　今回は、卓球で大切な要素と、その比率について上Dが見解を話してくれました。

Q．卓球で大切な要素と、その比率を教えてください

卓球は、道具5割という人もいますが、技術、身体（メンタル含む）、戦術、道具の4つの要素があるとして、上田選手はどのような比率だと感じられますか。また、この4つ以外の要素もあれば知りたいです。（匿名希望）

A．基本的な割合は、用具2、技術3、戦術3、身体2。ですが、用具以外の割合は試合によって変わります

　これはとても難しい質問ですね。
　自分のことでお話しすると、全ての比率を足して10とするなら、用具（道具）が2割、技術が3割、戦術3割、身体（メンタル含む）2割というところです。
　まず、全体の2割を占める用具ですが、あらためて述べるまでもなく、ラケットスポーツである卓球において用具は非常に重要ですし、試合で勝つために欠かせない要素です。自分の考えでは、技術や戦術、身体の3つの割合は、試合内容やその時々の場面によって変わるものです。しかし、用具はどんな試合や状況でも変わりません。用具への信頼があってこそ、自信を持ってプレーすることができます。したがって、信頼する用具を使うことができれば、必然と試合で勝つために必要な要素のうちの2割を満たすことができるので、とても大きいと思います。
　用具選びのヒントとしては、「自分のプレースタイルに合っているかどうか」を用具選びの判断基準にしてください。用具を選ぶ際は、強い選手が使っているものと同じ用具を選ぶことが選択肢の1つですし、間違いではないのですが、その用具が自分に合っていなかったらなかなか結果にはつながりません。簡単なことではありませんが、ぜひ自分のプレーの長所を伸ばし、短所をカバーするような用具を探し当ててください。

　次に、技術と戦術ですが、この2つは試合をする上で土台となる部分なので比率を最も高く考えています。どんなに強いフィジカル（身体能力）と安定したメンタル（精神面）、完璧な用具があったとしても、コートにボールを入れる能力やミスをした後の修正力、または得点を狙う能力というのは、技術力や戦術力がなかったら実現できないからです。
　とはいえ、先述したように、技術や戦術の比率は試合によって変わります。
　僕は、さまざまな技術が割とできる方なので、その分、戦術の選択肢もいくつかあり、戦い方が複雑になりがちです。その戦い方がハマるときとそうでないときが顕著に出る傾向があります。
　僕とは対照的に1つの技術がずば抜けて高い選手もいます。そういうタイプの選手は、その技術を中心に試合を組み立てるので戦術がシンプルになる強みがあります。一方で、そのずば抜けた技術を封じられると力を発揮できないという弱みもあります。そうした選手が今回の質問に回答する場合は、僕の回答とはおそらく異なるのではないでしょうか。このあたりが、対人競技である卓球の難しいところであり、面白いところでもあると思います。
　身体についても同様で、試合によってアップダウンがあり、その結果もさまざまです。「今日は体のキレがよいから勝てそうだ」と自信を持って試合に臨んだのに負けてしまったこともありますし、反対に、疲れていて心身の状態がよくないときに、限られた技術や戦術で戦った結果、これまで勝てなかった選手に勝てたという経験もあります。

　心技体知と昔から言われているように、技術・戦術・身体・用具を万全にして試合に臨むことが理想です。しかし、ここまで述べたように、用具以外は全てを完璧にすることは難しいでしょう。ですから、まずは2割の用具に自信を持つこと。その上で、難度の高いことではありますが、技術と戦術、身体の比率をその時々で変えていくことが、試合で勝つためには重要になると思います。

　また、挙げた要素以外で僕が大切だと思うのは、試合で勝つために、もしくは何かを得るためには、「何かを捨てる気持ちを持つこと」です。抽象的な表現ですが、これは生きていく上でも大切な事だと思っていますし、そのような考えが卓球にもつながってくると思います。

　これまで、僕が考える卓球で勝つために必要な要素の比率についてお話ししました。この質問の答えが選手や指導者によって異なることが卓球の面白さですし、全ての要素が複雑に絡み合って勝敗が決まるのが、卓球の醍醐味だと思います。