1. 卓球レポート Top
  2. インタビュー
  3. 指導者、他インタビュー
  4. パリ五輪を振り返る 田㔟邦史男子NT監督インタビュー(後編)

パリ五輪を振り返る 
田㔟邦史男子NT監督インタビュー(後編)

 日本ナショナルチーム男子監督として初のオリンピックに挑んだ田㔟邦史。東京オリンピックでは水谷隼/伊藤美誠(木下グループ/スターツ)のベンチで混合ダブルス金メダルを獲得している名将は、以前卓球レポートで行ったインタビューで、「選手たちの力を引き出したい」と語ってくれたが、パリ五輪でどれだけ選手たちの力を引き出すことができたのか。
 パリ五輪を振り返るインタビュー(全3回)の後編では、銅メダル決定戦のフランス戦と今大会で得た課題について聞いた。



フランス戦のダブルスは勢いにのまれて
流れのままに負けてしまった

----準決勝には敗れましたが、メダルのチャンスはもう1回あるという状況で、選手たちにはどのように声をかけたのですか。

田㔟 スウェーデン戦が終わって、選手村に帰ったのが深夜2時ぐらいだったんですよ。選手たちは勝って銀メダル以上にしたかったという思いが本当に強かったので、次の銅メダル決定戦の試合があることを忘れるぐらい、死力を尽くして戦ったスウェーデン戦だと思います。
 もう体力は残っていないくらいすごい試合でした。次の日は試合がなかったので1日フリーにして各自メンタルを含めコンディションをもう一回自分たちで立て直す時間にしました。選手達にはパリオリンピック最後の試合でもう一度チャレンジしようと伝えただけです。
 選手たちはJOCが準備してくれる日本食を食べに行ったり、交代浴に行ったり、マッサージしてもらったり、リフレッシュする時間に使っていました。
 私は、最後のフランス戦の準備をしていました。

----試合の分析や準備は、他のスタッフと一緒に話し合っているのですか?

田勢 映像分析の担当スタッフが同行していたので、その方たちに映像を送ってもらっていました。オリンピックの試合映像を撮って、ボール拾い(ポイント間)をカットしてもらったデータを送ってもらうという感じです。。今大会選手村では董(董崎岷)コーチと一緒の部屋でしたから色々話しをしました。董さんとは私が青森山田一期生の時にコーチとして上海から来てからずっと一緒でしたから色々と相談しやすい関係です。

----銅メダル決定戦のフランス戦にはどのように臨みましたか?

田㔟 一番は選手達の気持ちです。フランスチームが強いこともわかっていましたし、WTTの試合でもあまり勝ったことがありません。団体で重要なダブルスも一回も勝ったことがありませんでしたから、データ的にもよくなかった。それに加えスウェーデン戦であの負け方をして、まだメンタルも立ち直ってない中での1番のダブルス。ゴズィーとA.ルブランのダブルスは、やっぱり勢いもあり、どんどん攻めてくるし、いいボールが入ったら会場も盛り上がってくる。
 そういうことも含めると、戸上(戸上隼輔)と篠塚(篠塚大登)にはあのダブルスを乗り越えるだけの力はなかった。気持ち的な部分も含め、そのまま勢いにのまれて、流れのまま負けてしまったという感じです。

----スウェーデン戦の負けを引きずりつつ、会場の雰囲気ものまれつつ、分の悪い相手と対戦しなければならなかったということですね。

田㔟 状況が厳しかったのは間違いありません。2番の智和は、1番でダブルスが負けたことよりもフェリックスにはオリンピックの前のスロベニア(WTTスターコンテンダー リュブリャナ)で負けているし、シングルのメダリストだし智和は向かっていき本当に集中していたと思います。本当にいい試合だったと思います。でも、一歩届かず、2対2、10-7(から逆転負け)ですね。
 3番の戸上はザグレブで負けたA.ルブランに、素晴らし内容だった。ザグレブの時は全くチャンスがありませんでしたから、戸上も向かっていけたと思います。本当に戸上らしい戦い方でした。今後はライバルになっていくと思いますし、あの試合は自信を持っていいと思います。
 そして、なぜあれだけの試合ができたのかをしっかり分析することで、さらに上に行くと思います。世界トップレベルのボールの速さ・威力があるのは間違いなく、他は戦い方とか、考え方さえまとまれば、成長してくれるでしょう。
 メダルは取れなかったかもしれないけど、オリンピック通して調子も良かったし、プレーも良かったと思います。自信を持って次につなげてほしいと思います。

A.ルブランを破った戸上に「自信を持っていい戦い方だった」と田㔟監督(写真提供=ITTF/ONDA)


僅差だったのは間違いないが
冷静に分析すると足りない部分があった

----4番は張本選手がゴズィーに勝ちました。

田㔟 この試合は智和の戦い方は良かったし文句なかった。智和自身エースとして戦ったパリオリンピックはいろいろなことを経験したと思っています。目には見えない空気感も含め、言葉ではいい表せない程だと思います。

----ラストのF.ルブランと篠塚は厳しい試合になることが予想されましたが、どのように臨みましたか?

田㔟 そうですね。最後の最後で篠塚の相手が(男子シングルスの)メダリストですからね。
 フェリックスも途中で意識し始めて、普段のアグレッシブなプレーができなくなってきたので、チャンスかなと思う場面もあり、篠塚もペースをつかみ始めたかなっていう感じでした。2対2になっていたら面白かったですけど、でもやっぱり、シングルスでメダルを取った選手との実力の差が出たのかなと思いますが本当によく戦ってくれたと思います。

----会場の応援もすごかったですか?

田㔟 そうですね。リオの時もすごかったですが、パリは多くの観客が来て、卓球は人気だという印象があります。2013年もパリで世界選手権個人戦がありましたが、その時も非常に盛り上がっていました。有観客での試合は選手たちは意識すると思います。
 それも含め、スウェーデン戦とフランス戦の敗因の一つは間違いなくこれです。やっぱり自分で自分のことをコントロールする術がなかった。

----メダルがかかった2試合はいずれも惜敗と言える内容でしたが、勝ち切れなかった要因は他にも思い当たりますか?

田㔟 ただ、本当に僅差だったことは間違いないんだけど、冷静に分析すると足りない部分がまだあった。最後の1本を取り切ることができなかった。
 本当にこちらは一生懸命向かっていって、一生懸命頑張ったという感じです。その中に余裕もなかったし、自分たちで観客を巻き込んで流れをつかむということもなかった。本当にただ一生懸命向かっていったという試合でした。
 いざ壁にぶち当たったときにどうやってその壁を乗り越えるのか、避けるのかっていう策が、何もなかった。打開することができず真っ向勝負だった。
 メダルを意識するなというのは無理ですし、それだけ選手にとってはオリンピックのメダルというものは大きな価値があって、何としても手にしたいものだとは思うんですけど、その前にやるべきことを見失ってしまってはいけない。
 今回は選手を成長させてくれる大きな試練だったかもしれません。次は4年後ですからまだ時間もありますし、じっくり反省し次につなげてほしいし、これを経験した選手達の成長が非常に楽しみです。

メダルを取れなかったことは真摯に受け止め反省しています

----監督としても悔しい思いはありますか?

田㔟 もちろん2試合(スウェーデン、フランス)とも2対3でしたから非常に苦しい結果で悔しかった。しかし、選考基準が決まりこの3年、与えられたことに対して本当にすべてやり切ったと思います。最後の国際大会バンコク(WTTスターコンテンダー バンコク)まで参戦し、シードも獲得して本当にやることをやってオリンピックに入ったので、あとはもうやるだけでした。
 結果としてメダルは取れなかったので、結果は真摯に受け止め反省はしていますが、同時に次につなげていくことも考えています。東京オリンピック後、間違いなく状況は変わりました。今回メダルが取れなかった原因はなんだったのか考えて考えて考えるしかないと思います。原因は一つではないのは間違いありません。総合力で我々が劣っていたのも間違いありません。それをどのように反省し、改善していくかということが問われるかと思います。

----今後に向けてその分析を行っているということですね?

田㔟 もちろんそうです。選手の色も変わって、日本社会の指導法も変わって、その変わった選手たちが今育ってきているので、いろんなことを考えなきゃいけない時代に入っていると思っています。
 メダルを取らせてあげられなかったことについては多くの卓球関係者、卓球ファンに謝りたいと思います。そしてこの敗戦、戦い方を忘れずに選手達には前を向いて進んでいってほしい。

----具体的にどのような強化をしていくかという答えはまだ出ていませんか?

田㔟 そうですね。そう簡単には出ないと思います。
 ただ、やっぱり選手個々が自分で問題を解決し局面を打開しなきゃいけないのは間違いありません。選手達の成長を考え、成長させてあげなきゃいけないと思っています。
 今は自分の嫌なことや苦しいことから逃げずに、まずはちゃんと受け入れながら苦しいことにもトライしていかなきゃいけない。環境、指導者、人のせいにして逃げずに、難しいこと、苦しいことにチャレンジできる人間であってほしい。

やっぱり海外に出なきゃいけない

----一方、技術的にはどのような課題があると思いますか。

田㔟 技術的には今回のオリンピックを見ても大きく変わったところはないと思っています。ただ、(男子シングルスの)メダルを取った3人はサービスとサービスの組み立てがうまかった。特にモーレゴードやF.ルブランのサービスの種類やサービスを出す立ち位置なども。
 そして、若くして世界で活躍するためには、対応能力や勝負所での思い切りのよさが必要です。それを身につけるためにはやはり海外だと思っています。

日本の前に立ちはだかったF.ルブラン。そのサービス力、対応能力は田㔟監督も高く評価する(写真提供=ITTF)



----国内でそのような発想や対応能力を身に付けることは難しいですか?

田㔟 国内だけでは、型にはまった卓球になってしまうと思います。国内がだめということではありませんが、海外の方がそのような経験をする場、機会が多いということです。
 モーレゴードやF.ルブランは、常識的で型にはまったスタイルではないと思います。今の日本選手はどこか型にはまっていると思います。
 日本人には、ごまかして点数を取るようなずる賢さが足りない。例えば、隼(水谷隼)だったら、何もしてないけど、相手が勝手におかしくなって隼が勝ってしまうということがよくあったけど、今の若い選手たちにはそういうことがない。そして、隼は当時、自分が強くなるために自らドイツ、ロシア、中国など厳しい場所を選んでいったと思います。やはり、海外での経験は私は重要だと思います。

----監督自身にとっても気づきや学びの多いオリンピックになりましたか?

田㔟 もちろんです。やはりオリンピックは最高の舞台ですね。
 技術的な部分だけではなく人間的な部分も表れる大会だと思います。今の時代はこれだという型がなくなっているようにも感じます。男子のレベルは均衡してきていますからその時のコンディションで結果も変わってきます。ならばその時々にどれだけ対応していけるかが鍵になります。技術戦術だけではなく環境(時差、天気、会場、食事)にも対応しなくてはいけません。海外というものを次世代の選手達にはどんどん知ってほしい。そしてどんなん環境でも自分のプレーで結果を残せる選手になってほしい。それがプロフェッショナルだと思います。ただ以前インタビューで言わせてもらった選手達の力を引き出したいという事については今大会達成できたと思う。

----選手ごとの特徴や個性を生かすようなプレーも大事ですね?

田㔟 それは間違いなく大事です。特徴は武器になりますから。ただ、それだけでは戦えません。すぐに弱点を攻められてしまいます。課題への取り組みや弱点を攻められたときの対処法の練習も必要で、その繰り返しだと思います。
 また、個性という点では、海外と比べると日本の選手達はまだ遠慮していると思います。以前にもましてコミュニケーションは必要な時代となってきました。もっと自分の考えを話してもいいと思います。もちろんそれがわがままな意見であれば注意するし、なぜダメなのかも説明は必要です。しかし、そうやって初めてお互いの考えを話し、確認しながら前に進んでいけるものだと私は考えています。

コミュニケーションを重視する田㔟監督。日本男子の成長の余白はまだまだありそうだ


(取材/まとめ=卓球レポート)

\この記事をシェアする/

Rankingランキング

■インタビューの人気記事

NEW ARTICLE新着記事

■インタビューの新着記事