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「卓球は血と魂だ」 第三章 八 世界を制す筋金技術

第三章 卓球の炎をかかげて

八 世界を制す筋金技術

 新年度に入り中学、高校、大学、実業団とも新シーズンの活動が始まった。日本代表候補選手たちにとっては、いよいよあと一年、世界選手権東京大会は目の前に迫ってきた。まずは東京の制覇を、長期計画としては六年後のソウルオリンピック目指して、日本の強化が進むことを念願してやまない。二〇年余にわたって、日本は世界をリードしてきた。世界大会の中で多くの日本選手達が、物凄いファイトで奮闘してきた。そのドラマは筋金入りの技術と気力によって展開されてきた。

 一九五六年(昭和三一年)春の世界選手権東京大会男子団体準決勝、日本は伏兵ルーマニアに苦しめられ、敗戦の崖縁に立った。八番田中利明選手はガントナーとゲームオール、一四-二〇と絶対絶命の危機に陥った。あと一本で日本は敗れるのだ。田中一本をとりサービスが回ってきた。得意のカットサービスから、田中は敵のバックを集中攻撃した。満場一万の観衆が騒然とする中を、田中のスマッシュは冴え、一本、一本得点をつめる。神に祈る姿の必死のベンチの声援を背に遂にジュース。一点ミスしたあと、またも連続スマッシュで三ポイント連取。奇蹟の逆転、そして日本優勝につながったのである。

 一九六七年世界選手権ストックホルム大会でも日本男子は伏兵ソ連に大苦戦。好調のゴモスコフの両ハンド速攻に振り回され、長谷川信彦選手がゲームオール、一四-一九と追い込まれた。あと二本で日本敗退の断崖にたったのだ。長谷川がバックを攻めると速いピッチでかき回されて分がない。長谷川はゴモスコフのフォアにマトをしぼり、得意のジェットドライブを集中した。一本、また一本、長谷川の猛ドライブは驚異的正確さで敵のフォアコーナーに切れ込んだ。遂に連続七ポイント奪取。大逆転。そして日本は優勝した。

 一九六九年世界選手権ミュンヘン大会男子シングルス決勝戦、伊藤繁雄選手はシェラー(西独)の深いカットのクセ球に苦しみ、二ゲームを先取された。しかし、その内容は、フォアを強攻した後の変化球に苦しんだわけで、バックに山なりのドライブで粘った時には相手がミートできずに苦しんでいた。第三ゲームから苦しい粘り戦術に転化した。一九本でやっと取り、伊藤に落ち付きが出た。第四ゲームになるとシェラーにあせりが出はじめ、伊藤の調子は尻上りになり、第五ゲームは猛打の快勝だった。

 一九六五年の世界選手権リュブリアナ大会の男子決勝は二-五で日本は中国に敗れた。しかし二点を取ったのは高橋浩選手だ。世界一の荘則棟に対し、高橋は見事な戦いを挑んだ。高橋流の巧妙なサービス。第三球は両ハンドで一気に攻め込んだ。荘則棟のバック攻撃に対しても高橋は台についたまま、パンチのきいたバックハンドで相手を追い込んだ。これは大会前一年間の猛訓練による彼自身の秘密作戦だった。

 同大会女子単決勝は深津尚子対林慧卿だった。林のカットは鉄壁で、どうしても抜けない深津はついに最後の手段、バックサイドを山なりドライブで粘り倒す作戦に出た。一本とるために二〇〇本前後のドライブ、ある時は二五六本のラリーだった。深津も苦しかったろうが紙一重の差で三-二、日本が女子単に勝ったのである。

 さて、あと一年。東京大会では、誰がどんな立派な試合を展開するか。それは筋金入りの技術錬磨と、如何に苦しくとも屈しない闘魂の持主でなければできない、のである。
(卓球レポート一九八二年五月号)

 

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