健康管理とサービス、レシーブをやろう
現在、国内では中学生から一般、ママさんにいたるまで地区大会、県大会のまっさかり。また、もうすぐ全日本大学対抗、全国家庭婦人大会、インターハイ、全国中学生大会、全日本実業団の順で、次々に全国大会が行なわれる。どのプレイヤーも暑さと必死に戦いながら練習に励んでいることだろう。
■ユニフォーム3~5枚を用意しよう
このような時期に、一番気をつける必要があるのはまず第一に健康管理だ。試合直前にかぜを引いたり、おなかをこわしたり、肩をこわしたりしたらもともこもない。
たとえば汗でユニフォームが濡れたときは休憩時間を利用して必ず着替えをする。汗で床がすべる危険のあるときはすぐに床をふく。汗で濡れたままのユニフォーム姿やショートパンツで外へ出ない。水分を取りすぎない。水分を取るときは暖かいお茶や牛乳、冷え過ぎていない野菜ジュースなどでとる。栄養のバランスを考えて食事をとる。寝るときはキチンとフトンをかけて寝る。あるいは、扇風機やクーラーの冷たい風に当たらないようにする...などのことは最低限注意しなければならない。もし、これらの健康管理に勝てない選手は、私の経験からいうと戦わずしてすでに試合に負けている人だ。"ここ1本"というときに自分に負けて、まず勝てない人だ。
私は、昭和41年の8月に中国遠征をしたとき、絶好調であったが北京の暑さに負けて中国のジュースをガブ飲みして体調を狂わせ、翌日の団体決勝(北京国際招待大会)で中国選手に惨敗を喫したことがあった。
しかし、翌年の盛夏のシンガポールで行なわれたアジア選手権では、その苦い経験を生かし水分の取り方に十分に気をつけたことから体調が良く団体、個人優勝。4年後の残暑のきびしい9月に北京であったアジア・アフリカ友好大会でも中国を倒し、団体、個人の2種目に優勝したことがある。
夏のコンディション作りは苦しい。しかし「卓球の試合は、忍耐心、集中力、気力が大切なんだ。これを養うために我慢するんだ」または「目標を達成するために、絶対に健康管理を守らなければならない」とそれを"信念"とする。または「水やコーラ類を飲む選手はスポーツマンとして2流だ、失格だ」と考え思いとどまることだ。
夏は試合のときも練習のときもユニフォームを3~5枚、ショーツと靴下の着替え、下着の着替えを持っていこう。健康管理も実力のうちだ。
■レシーブに全力を傾けたオールサイドをやろう
技術練習では、レシーブの練習を身を入れてやるのがベストだ。
理由は2つある。1つは、一流選手に限らず、どのような選手でも3~4日練習ができないとレシーブが一番おかしくなる。細かい動きが必要なので練習しないと打つときにタイミングがあわない。手先の感覚を取りもどすのも時間がかかる。しかも、もどりが思ったよりも遅れるため次の攻撃がスムーズにいかなくなる。
しかし、このレシーブ練習をするとき、考え方、やり方が悪ければ効果を上げることはできない。それだったらゲーム練習やフットワークをやった方がましだ。
高い効果を上げるには、課題のレシーブに全力を傾けたオールサイド練習がある。わかりやすく説明すると、たとえば自分はフォア側の短いサービスをフォアへ払うのが苦手でそのレシーブを強化したい場合、そのレシーブに全力を傾けることだ。といってもそのあとのラリーをおろそかにしていいかというとそうではない。すばやく次の攻撃ができる体勢にもどって試合と同じようにがんばることが大切だ。するとレシーブに神経を集中できるのでレシーブも良くなるし、実戦的な勘も養なえ一石二鳥の練習になる。
ところが、ふつうの人がレシーブからのオールサイド練習をやる場合、勝つことに気を奪われて安全に返球するかと思えば、ミスが続いたときもレシーブをメチャクチャに打ったりするためにおもしろくない練習となり集中しない。なかなかいい感じがつかめない。それどころかフォームが狂う、自信をなくす...などかえって調子がおかしくなる場合がある。ときには伸び悩む原因にもなるから十分に気をつけよう。
■レシーブは他の練習にもなるすばらしい練習
それから課題レシーブからオールサイド練習は、さきほど述べたレシーブと試合の勘が養われるだけでなく、サービス以外のすべての練習になるすばらしい練習だ。
たとえば、バック側に構えてフォア側の短い変化サービスをフォアへ鋭く払うレシーブの強化をした場合。①斜め前の動きがよくなる。②小さいフォームが身につく。③左手(右利き)を下におろして打つことができず、フリーハンドの使い方がうまくなる。④ラケットを大きくさげてバックスイングができず、バックスイングの取り方がうまくなる...などから斜め前への動きと、フォアハンドフォームがよくなる。また⑤ダブルスのレシーブもうまくなる。とくに②、③、④、⑤の悪い人には絶好の練習だといえる。
このときのレシーブのコツを述べると...どのレシーブのときもそうだが、バウンドの頂点をしっかり弾(はじ)いて打つことが大切だ。
■ロングサービスをスマッシュレシーブ
バック側にスピードのあるドライブ性ロングサービスを出してもらい、それをフォアハンドスマッシュでレシーブする練習をした場合は、①回り込みが早くなる。②ラリー中、高いボールだけでなく低いボールも打てるようになる。③踏み込みがよくなり、スマッシュミスが少なくなる...などの利点がある。
また同じサービスをフォア側に出してもらい、それをスマッシュで返す練習をすると①フォアへの飛びつきがよくなる。②フォア側からの攻撃力が増す。③フォア側からも低いボールが打てるようになる。クロス、ストレート、ミドルに打ち分けるようにすると④フォア側からのコースのつき方がうまくなる。バックに出してもらったのをプッシュショートでレシーブする練習をすれば、ラリー中のプッシュショートがうまくなる。または深い変化サービスを出してもらいそれをドライブやスマッシュで返す練習をすれば、ツッツキ打ちやカット打ちのときに大いに役立つ。このようにレシーブに力を入れるとすべてにつながるすばらしい練習になる。
■ジュニアNo.1 斉藤選手も力を入れて取り組んでいる
4月26日、27日に熊商旗杯の講習会の講師として熊谷に行ったとき、偶然にジュニアNo.1の斉藤清選手の練習を見ることができた。そのとき彼は、右利きの選手にバック側に短く出してもらったのをフォアで回り込んでストレートに鋭く払い、次にフォアへショートでゆさぶってもらったのを強ドライブで攻めてからオールサイドへ移る練習をやっていた。それをみて私はさすがだなと感心した。彼は昨年の全日本ジュニアの試合でもレシーブ力が他の選手とくらべ群を抜いていた。
高校2年のとき驚異的に伸びてインターハイ3位
私も、斉藤選手と同じような練習をして大きく伸びた。
私は、高校1年の全日本ジュニアの大会で青森の選手に1回戦で負けたとき「全国大会で勝つためには、サービス、レシーブとフットワークがよく、球威がなければならない」と思った。おそらく全国大会で負けた選手は同じように感じたことだろう。
それからの私の練習は、午後3時15分~17時30分までオールサイドのフットワーク主体の練習。18時30分から21時30分までは、レシーブに力を入れたゲーム練習を毎日やった。あるときは、レシーブとショート、レシーブとドライブ、また日によっては、レシーブとスマッシュにも力を入れるというように、自分に必要な練習を考えてやるようになった。練習のやり方が180度かわった。恥かしい話だが、それまではあまり考えて練習していなかった。
さて練習内容を改善したら技術を覚えるのが早くなり、ゲームが楽しくて仕方がなくなった。また、考えながらやっていると伸びているかどうかがよくわかる。真剣に考えてやっていると伸びていく一方だ。私は、日に日に強くなっていくのがわかるぐらい伸びて、6月のインターハイ愛知県予選ではオールストレートで通過。8月の京都インターハイではベスト4に入り、一躍全国高校のトップクラスの仲間入りを果たした。このとき、まさか準決勝まで勝ち進めるとは思っていなかったので夢のようだった。
■史上最年少の18才で全日本を獲得
大学1年生のときは、大学は違うが2年先輩の左腕前陣攻撃の西飯選手(名商大→現在は三重県で卓球専門店を経営)に夜遅くまでゲーム練習で鍛えてもらった。このときに、自分のもっとも弱点であったバック側の短い変化サービスを払うレシーブに磨きをかけた。それと、フォア側に短いサービスを払うレシーブに磨きをかけた。
そうして迎えた12月の全日本で再び自分でもあれよあれよと思うままに決勝に勝ち進み、決勝は練習でも大会でも1度も勝てなかった前年度チャンピオンの木村興治選手('61、'63年全日本No.1)を3対1で倒すことができた。この大会の1年前の成績は、全日本ジュニアの部に出て4回戦(ベスト16)で負けている。幸運だったとはいえやはりレシーブを中心に驚異的に伸びた。
その他、レシーブがうまくなると、・ラクに先手がとれ自分の思い通りのプレイができやすい。・自分より弱い相手には負けない。・速攻で得点ができるため、体力的にラクに優勝できる選手になる。・勝負師になる。・好スタートが切れる...などいろいろな面で有利だ。逆にいえば「レシーブがうまくなければ、大会を制覇することができない」といわれるゆえんである。
■サービスからの3球目攻撃をしっかりやろう
次は、サービスとサービスからの3球目攻撃に身を入れてやることだ。これは、サービス、レシーブが5本交替なのでレシーブと同じくらい重要な練習だ。中国の選手のように、サービスを持ったときに4本か5本取ればレシーブのときものすごくラクにできる。
しかし、最近の選手は手先だけで出している人が多いので変化が少ない。または狙ったコースや狙ったバウンドの高さに出ないようだ。これでは、相手に簡単に攻められていつまでたっても勝てない。だからサービスに変化のない人は、まず変化のある変化サービスが出せるように、サービスの練習だけを集中してやるとよい。それだけで4~6本は強くなれる。バックサービスを切れるようにするには、肩のうしろにラケットを引き、インパクトのときからだ全体を使って手首を鋭く使うことだ。
そうして狙ったところへ出せるようになったら「ここに返してほしい」とか「全面に返してほしい」と注文をつけて練習することだ。すると、もどりが早くなっていい3球目攻撃ができるようになる。
■ボール、万年筆のフタを落とすサービス練習
私は試合前、サービスの練習を非常に重要視した。なぜならば、狙ったところにサービスを出さなければ勝てないことをよく知っていたからだ。狙いが2㎝以上狂うようなときは勝率が半分以下だった。
それで私は、大会の一週間ぐらい前になると狙ったところに割れたボールや万年筆のフタを立ててドライブロングサービスやナックルサービス、ショートサービスなどで落とす練習を一日に30~40分ぐらいやった。そして、どのコースも連続10本落とすぐらいのコントロールを身につけて試合に臨んだ。そのために、どんな大事な場面のときでもほぼ狙ったコースに出せ自分のプレイができてピンチを脱することができた。しかし、やらなかったときは不思議なぐらい勝てなかった。
バレーボールはサービス・レシーブの練習が8割
5月初旬に北海道の釧路と旭川市で卓球講習会を行なった。そのとき、友人の関先生のいる北海道旭川実業高校に行き、バレーボール部長の堀水教頭先生にお会いした。
堀水先生は、昨年同校の女子バレー部を創部2年で春の全国高校選抜大会3位に入賞させた監督。教頭先生は厳しいが大変に思いやりのある方で、数多くの貴重な話を聞かせてくださった。
私はこのとき、卓球の試合前の練習内容を思案中だった。そこでバレーボール競技の試合の前の練習内容はどんなものかと「バレーボールでは試合の一週間前、1ヵ月前はどんな練習をしますか」と質問してみた。
先生は少し考えてから「選手の力が順調に仕上げっていれば、2ヵ月まえから実戦と同じサービス、レシーブからの練習を全体の8割はやりますね。1日の平均練習時間は8時間ぐらいですね」とおっしゃった。
つまり何と6時間以上がサービス、レシーブを主体とした練習だ。このときサービス、レシーブではじまる競技の試合前のベストの練習はみんな同じだなと私は思った。
現在、国内では中学生から一般、ママさんにいたるまで地区大会、県大会のまっさかり。また、もうすぐ全日本大学対抗、全国家庭婦人大会、インターハイ、全国中学生大会、全日本実業団の順で、次々に全国大会が行なわれる。どのプレイヤーも暑さと必死に戦いながら練習に励んでいることだろう。
■ユニフォーム3~5枚を用意しよう
このような時期に、一番気をつける必要があるのはまず第一に健康管理だ。試合直前にかぜを引いたり、おなかをこわしたり、肩をこわしたりしたらもともこもない。
たとえば汗でユニフォームが濡れたときは休憩時間を利用して必ず着替えをする。汗で床がすべる危険のあるときはすぐに床をふく。汗で濡れたままのユニフォーム姿やショートパンツで外へ出ない。水分を取りすぎない。水分を取るときは暖かいお茶や牛乳、冷え過ぎていない野菜ジュースなどでとる。栄養のバランスを考えて食事をとる。寝るときはキチンとフトンをかけて寝る。あるいは、扇風機やクーラーの冷たい風に当たらないようにする...などのことは最低限注意しなければならない。もし、これらの健康管理に勝てない選手は、私の経験からいうと戦わずしてすでに試合に負けている人だ。"ここ1本"というときに自分に負けて、まず勝てない人だ。
私は、昭和41年の8月に中国遠征をしたとき、絶好調であったが北京の暑さに負けて中国のジュースをガブ飲みして体調を狂わせ、翌日の団体決勝(北京国際招待大会)で中国選手に惨敗を喫したことがあった。
しかし、翌年の盛夏のシンガポールで行なわれたアジア選手権では、その苦い経験を生かし水分の取り方に十分に気をつけたことから体調が良く団体、個人優勝。4年後の残暑のきびしい9月に北京であったアジア・アフリカ友好大会でも中国を倒し、団体、個人の2種目に優勝したことがある。
夏のコンディション作りは苦しい。しかし「卓球の試合は、忍耐心、集中力、気力が大切なんだ。これを養うために我慢するんだ」または「目標を達成するために、絶対に健康管理を守らなければならない」とそれを"信念"とする。または「水やコーラ類を飲む選手はスポーツマンとして2流だ、失格だ」と考え思いとどまることだ。
夏は試合のときも練習のときもユニフォームを3~5枚、ショーツと靴下の着替え、下着の着替えを持っていこう。健康管理も実力のうちだ。
■レシーブに全力を傾けたオールサイドをやろう
技術練習では、レシーブの練習を身を入れてやるのがベストだ。
理由は2つある。1つは、一流選手に限らず、どのような選手でも3~4日練習ができないとレシーブが一番おかしくなる。細かい動きが必要なので練習しないと打つときにタイミングがあわない。手先の感覚を取りもどすのも時間がかかる。しかも、もどりが思ったよりも遅れるため次の攻撃がスムーズにいかなくなる。
しかし、このレシーブ練習をするとき、考え方、やり方が悪ければ効果を上げることはできない。それだったらゲーム練習やフットワークをやった方がましだ。
高い効果を上げるには、課題のレシーブに全力を傾けたオールサイド練習がある。わかりやすく説明すると、たとえば自分はフォア側の短いサービスをフォアへ払うのが苦手でそのレシーブを強化したい場合、そのレシーブに全力を傾けることだ。といってもそのあとのラリーをおろそかにしていいかというとそうではない。すばやく次の攻撃ができる体勢にもどって試合と同じようにがんばることが大切だ。するとレシーブに神経を集中できるのでレシーブも良くなるし、実戦的な勘も養なえ一石二鳥の練習になる。
ところが、ふつうの人がレシーブからのオールサイド練習をやる場合、勝つことに気を奪われて安全に返球するかと思えば、ミスが続いたときもレシーブをメチャクチャに打ったりするためにおもしろくない練習となり集中しない。なかなかいい感じがつかめない。それどころかフォームが狂う、自信をなくす...などかえって調子がおかしくなる場合がある。ときには伸び悩む原因にもなるから十分に気をつけよう。
■レシーブは他の練習にもなるすばらしい練習
それから課題レシーブからオールサイド練習は、さきほど述べたレシーブと試合の勘が養われるだけでなく、サービス以外のすべての練習になるすばらしい練習だ。
たとえば、バック側に構えてフォア側の短い変化サービスをフォアへ鋭く払うレシーブの強化をした場合。①斜め前の動きがよくなる。②小さいフォームが身につく。③左手(右利き)を下におろして打つことができず、フリーハンドの使い方がうまくなる。④ラケットを大きくさげてバックスイングができず、バックスイングの取り方がうまくなる...などから斜め前への動きと、フォアハンドフォームがよくなる。また⑤ダブルスのレシーブもうまくなる。とくに②、③、④、⑤の悪い人には絶好の練習だといえる。
このときのレシーブのコツを述べると...どのレシーブのときもそうだが、バウンドの頂点をしっかり弾(はじ)いて打つことが大切だ。
■ロングサービスをスマッシュレシーブ
バック側にスピードのあるドライブ性ロングサービスを出してもらい、それをフォアハンドスマッシュでレシーブする練習をした場合は、①回り込みが早くなる。②ラリー中、高いボールだけでなく低いボールも打てるようになる。③踏み込みがよくなり、スマッシュミスが少なくなる...などの利点がある。
また同じサービスをフォア側に出してもらい、それをスマッシュで返す練習をすると①フォアへの飛びつきがよくなる。②フォア側からの攻撃力が増す。③フォア側からも低いボールが打てるようになる。クロス、ストレート、ミドルに打ち分けるようにすると④フォア側からのコースのつき方がうまくなる。バックに出してもらったのをプッシュショートでレシーブする練習をすれば、ラリー中のプッシュショートがうまくなる。または深い変化サービスを出してもらいそれをドライブやスマッシュで返す練習をすれば、ツッツキ打ちやカット打ちのときに大いに役立つ。このようにレシーブに力を入れるとすべてにつながるすばらしい練習になる。
■ジュニアNo.1 斉藤選手も力を入れて取り組んでいる
4月26日、27日に熊商旗杯の講習会の講師として熊谷に行ったとき、偶然にジュニアNo.1の斉藤清選手の練習を見ることができた。そのとき彼は、右利きの選手にバック側に短く出してもらったのをフォアで回り込んでストレートに鋭く払い、次にフォアへショートでゆさぶってもらったのを強ドライブで攻めてからオールサイドへ移る練習をやっていた。それをみて私はさすがだなと感心した。彼は昨年の全日本ジュニアの試合でもレシーブ力が他の選手とくらべ群を抜いていた。
高校2年のとき驚異的に伸びてインターハイ3位
私も、斉藤選手と同じような練習をして大きく伸びた。
私は、高校1年の全日本ジュニアの大会で青森の選手に1回戦で負けたとき「全国大会で勝つためには、サービス、レシーブとフットワークがよく、球威がなければならない」と思った。おそらく全国大会で負けた選手は同じように感じたことだろう。
それからの私の練習は、午後3時15分~17時30分までオールサイドのフットワーク主体の練習。18時30分から21時30分までは、レシーブに力を入れたゲーム練習を毎日やった。あるときは、レシーブとショート、レシーブとドライブ、また日によっては、レシーブとスマッシュにも力を入れるというように、自分に必要な練習を考えてやるようになった。練習のやり方が180度かわった。恥かしい話だが、それまではあまり考えて練習していなかった。
さて練習内容を改善したら技術を覚えるのが早くなり、ゲームが楽しくて仕方がなくなった。また、考えながらやっていると伸びているかどうかがよくわかる。真剣に考えてやっていると伸びていく一方だ。私は、日に日に強くなっていくのがわかるぐらい伸びて、6月のインターハイ愛知県予選ではオールストレートで通過。8月の京都インターハイではベスト4に入り、一躍全国高校のトップクラスの仲間入りを果たした。このとき、まさか準決勝まで勝ち進めるとは思っていなかったので夢のようだった。
■史上最年少の18才で全日本を獲得
大学1年生のときは、大学は違うが2年先輩の左腕前陣攻撃の西飯選手(名商大→現在は三重県で卓球専門店を経営)に夜遅くまでゲーム練習で鍛えてもらった。このときに、自分のもっとも弱点であったバック側の短い変化サービスを払うレシーブに磨きをかけた。それと、フォア側に短いサービスを払うレシーブに磨きをかけた。
そうして迎えた12月の全日本で再び自分でもあれよあれよと思うままに決勝に勝ち進み、決勝は練習でも大会でも1度も勝てなかった前年度チャンピオンの木村興治選手('61、'63年全日本No.1)を3対1で倒すことができた。この大会の1年前の成績は、全日本ジュニアの部に出て4回戦(ベスト16)で負けている。幸運だったとはいえやはりレシーブを中心に驚異的に伸びた。
その他、レシーブがうまくなると、・ラクに先手がとれ自分の思い通りのプレイができやすい。・自分より弱い相手には負けない。・速攻で得点ができるため、体力的にラクに優勝できる選手になる。・勝負師になる。・好スタートが切れる...などいろいろな面で有利だ。逆にいえば「レシーブがうまくなければ、大会を制覇することができない」といわれるゆえんである。
■サービスからの3球目攻撃をしっかりやろう
次は、サービスとサービスからの3球目攻撃に身を入れてやることだ。これは、サービス、レシーブが5本交替なのでレシーブと同じくらい重要な練習だ。中国の選手のように、サービスを持ったときに4本か5本取ればレシーブのときものすごくラクにできる。
しかし、最近の選手は手先だけで出している人が多いので変化が少ない。または狙ったコースや狙ったバウンドの高さに出ないようだ。これでは、相手に簡単に攻められていつまでたっても勝てない。だからサービスに変化のない人は、まず変化のある変化サービスが出せるように、サービスの練習だけを集中してやるとよい。それだけで4~6本は強くなれる。バックサービスを切れるようにするには、肩のうしろにラケットを引き、インパクトのときからだ全体を使って手首を鋭く使うことだ。
そうして狙ったところへ出せるようになったら「ここに返してほしい」とか「全面に返してほしい」と注文をつけて練習することだ。すると、もどりが早くなっていい3球目攻撃ができるようになる。
■ボール、万年筆のフタを落とすサービス練習
私は試合前、サービスの練習を非常に重要視した。なぜならば、狙ったところにサービスを出さなければ勝てないことをよく知っていたからだ。狙いが2㎝以上狂うようなときは勝率が半分以下だった。
それで私は、大会の一週間ぐらい前になると狙ったところに割れたボールや万年筆のフタを立ててドライブロングサービスやナックルサービス、ショートサービスなどで落とす練習を一日に30~40分ぐらいやった。そして、どのコースも連続10本落とすぐらいのコントロールを身につけて試合に臨んだ。そのために、どんな大事な場面のときでもほぼ狙ったコースに出せ自分のプレイができてピンチを脱することができた。しかし、やらなかったときは不思議なぐらい勝てなかった。
バレーボールはサービス・レシーブの練習が8割
5月初旬に北海道の釧路と旭川市で卓球講習会を行なった。そのとき、友人の関先生のいる北海道旭川実業高校に行き、バレーボール部長の堀水教頭先生にお会いした。
堀水先生は、昨年同校の女子バレー部を創部2年で春の全国高校選抜大会3位に入賞させた監督。教頭先生は厳しいが大変に思いやりのある方で、数多くの貴重な話を聞かせてくださった。
私はこのとき、卓球の試合前の練習内容を思案中だった。そこでバレーボール競技の試合の前の練習内容はどんなものかと「バレーボールでは試合の一週間前、1ヵ月前はどんな練習をしますか」と質問してみた。
先生は少し考えてから「選手の力が順調に仕上げっていれば、2ヵ月まえから実戦と同じサービス、レシーブからの練習を全体の8割はやりますね。1日の平均練習時間は8時間ぐらいですね」とおっしゃった。
つまり何と6時間以上がサービス、レシーブを主体とした練習だ。このときサービス、レシーブではじまる競技の試合前のベストの練習はみんな同じだなと私は思った。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1980年7月号に掲載されたものです。