学生時代から私は、サービスとレシーブ、ネットプレー、ツッツキ打ち等の細かな技術には比較的自信を持ってプレーできました。しかし、ただいつの間にかうまくなったというものではなかったように思います。
台上の細かな技術については腕の力も必要ですが、それよりもむしろ手首の強さおよびその打つ体勢にあると思います。手首を強くするには、今では鉄アレイによる強化方法等が誌上で報じられていると思いますが、私は空びんを利用したりまた縄飛びを利用して手首を強化しました。手首を強くするだけでなく柔軟性というものも必要になり、また手首が強いだけでネットプレー、レシーブ等の技術がすぐうまくなるものではありません。やはり繰り返し、繰り返し行った練習のたまものだと思っています。
◇落ちるエネルギーを利用して
小さなサービスのレシーブと、ネットプレーは非常に関連したもので、どちらも台上のボールでその一番頂点に達するところを打つようにする。手首の使い方もいろいろと研究してみましたが、私はラケットの先端を上げて打つよりはむしろ下げ気味に入れ、手首の最下限から最上限に移る過程に打つようにします。台上のボールですからバックスイングは取りにくいので、私はラケットの上から落ちるエネルギーを利用して打球しました。またグリップにも相当左右されるのではないかと思います。私の場合、比較的グリップも浅くあまり力も入ってなく、手首を利用しやすい状態であったと思います。しかし、打球の寸前にはある程度グリップに力が入り、打球後リラックスするのは普通のロング、スマッシュ等と同じです。
打つ態勢も相当重心が前に移動し、十分からだを乗せて打つことが必要です。しかし重心が全部前に傾いてしまうと次の動作ができなくなりますので、フリーハンドをうまく使ってある程度重心というか、からだの一部を残してすぐもとの位置にもどるという大切な動作を忘れてはいけません。この場合のフットワークは他のすべてがそうであるようにやはり近い方の足、たとえば右利きの場合、フォア側の前へ小さなサービスを出されたときは、右足からまずワン・ステップ出て、次に左足を大きく交差させ前に出した状態で打球し、打球後はその左足を大きく引き、右足を引きつけてもとの基本姿勢にもどるわけです。
フットワークはその人によって異なるかもしれませんが、打球のみにとらわれず足の動きにも神経をくばる必要があります。
ラケットの角度もその人によって異なりますが、私の場合、フォアハンドロングを打っているときはラケットの面は少し内側へ向いていますが、ネットプレー、ツッツキ打ち、レシーブ等のときはロングとは反対に外側へむくような感じから、ラケットの先端を思い切り回して、フィニッシュにはラケットの面が内側へむくようになります。ドライブ主戦の選手にネットプレー等の台上のボールの処理のへたな人が多いのを見て、ラケットの角度と大いに関係があるのではないかと思います。
もう一つはバックスイングが大きく、ラケットが台の面より相当下へ下りているのにも原因があると思います。ですから、構えるときはラケットを台より高い位置で構えると良いわけです。
すべての試合がそうであるように、試合を左右するのは、ほとんどサービス・レシーブにあると思います。サービス・レシーブの練習の比率は多くとらなければいけないと思います。サービス・レシーブのような地味な練習は自然と少なくなり、ただ漫然とフォアハンドを長時間練習して、その後どうしてもおもしろい練習ゲームへと移行する人たちが意外と多いのではないかと思います。練習ゲームも一つの大切な練習ですが、それ以前の部分練習、サービス、レシーブ、ショート、ツッツキ、スマッシュ等、試合にはたくさんの技術を要する場面がでてきます。ゲームをする前にそれらの練習をあまりにも粗末に扱っていないかもう一度考えなおしてみてください。ゲームはそれらの集まりからできているものです。
◇きょうの練習をあすの試合に役立てる
だれもいない練習場で1対1の練習をしているときが私には一番精神的に充実できます。だからおのずからそれを求めるには朝早くか、夜遅くを自分の技術開発、戦術面を考えながらの練習にあてました。たとえばサービス、レシーブ、カット打ちと試合で最も重要な部分をとり出してやったものです。幸い私の高校、大学時代は練習時間の制限がなかったので、納得のゆくまでそれらの技術を追求することができました。
新しいもの、新しいものをと追い求めた結果、サービス、レシーブなどの細かな技術は非常に多種多様に収穫できました。その反面、どのような相手と対戦しても同じ作戦で押し通せるという徹底した技術、一本しんの通った作戦をとれる技術を得ることができませんでした。一つの技術を自分のものにするとき、まず最初にその技術が実際の試合で使用できるものか、通用するものかを考えることがまず第一条件だと思います。また、ある技術からその他の面へ発展させることも必要になってきます。すなわち応用をきかすことです。たとえばサービスを出すにしても、同じフォームで何種類ものサービスを出せることが、相手の考える回路を複雑にさせ迷いを生じさせることにもなります。
終わりにみなさんに忠告したいことは、考える時間を持つことが、卓球の上達過程において大切だということです。技術練習の時間が長ければ長いほどよいことはもちろんですが、練習時間外において卓球に関することを考える時間も長ければ長いほどその上達は早くなると思います。学校、練習場へ行く道、帰り道、電車の中、勉学以外の時間をほかのことで費やしているのなら、卓球に関連させたり、卓球に関することを考えていったほうがよいと思います。
「きょうの練習ゲームにでてきたことをあすの試合に役立てよう」と私は考えました。考えている間は卓球に対する希望がわいてくるものです。練習の帰りの電車の中で、きょうの練習内容の良否、明日の練習予定、ラケットの角度、打球点のこと、他人のフォームの良い点などいろいろと考えをめぐらしたことが、私の卓球に大いに役立ったと思います。
みき けいいち 中大出、中大女子監督。YSP勤務。
右利き、ペン(3枚合板)、裏ソフトの攻撃選手。
身長172センチ、体重60キロ。趣味は、音楽とスポーツ。
昭和37年度全日本選手権者。’61年、’63年世界選手権日本代表。
(1968年1月号掲載)
台上の細かな技術については腕の力も必要ですが、それよりもむしろ手首の強さおよびその打つ体勢にあると思います。手首を強くするには、今では鉄アレイによる強化方法等が誌上で報じられていると思いますが、私は空びんを利用したりまた縄飛びを利用して手首を強化しました。手首を強くするだけでなく柔軟性というものも必要になり、また手首が強いだけでネットプレー、レシーブ等の技術がすぐうまくなるものではありません。やはり繰り返し、繰り返し行った練習のたまものだと思っています。
◇落ちるエネルギーを利用して
小さなサービスのレシーブと、ネットプレーは非常に関連したもので、どちらも台上のボールでその一番頂点に達するところを打つようにする。手首の使い方もいろいろと研究してみましたが、私はラケットの先端を上げて打つよりはむしろ下げ気味に入れ、手首の最下限から最上限に移る過程に打つようにします。台上のボールですからバックスイングは取りにくいので、私はラケットの上から落ちるエネルギーを利用して打球しました。またグリップにも相当左右されるのではないかと思います。私の場合、比較的グリップも浅くあまり力も入ってなく、手首を利用しやすい状態であったと思います。しかし、打球の寸前にはある程度グリップに力が入り、打球後リラックスするのは普通のロング、スマッシュ等と同じです。
打つ態勢も相当重心が前に移動し、十分からだを乗せて打つことが必要です。しかし重心が全部前に傾いてしまうと次の動作ができなくなりますので、フリーハンドをうまく使ってある程度重心というか、からだの一部を残してすぐもとの位置にもどるという大切な動作を忘れてはいけません。この場合のフットワークは他のすべてがそうであるようにやはり近い方の足、たとえば右利きの場合、フォア側の前へ小さなサービスを出されたときは、右足からまずワン・ステップ出て、次に左足を大きく交差させ前に出した状態で打球し、打球後はその左足を大きく引き、右足を引きつけてもとの基本姿勢にもどるわけです。
フットワークはその人によって異なるかもしれませんが、打球のみにとらわれず足の動きにも神経をくばる必要があります。
ラケットの角度もその人によって異なりますが、私の場合、フォアハンドロングを打っているときはラケットの面は少し内側へ向いていますが、ネットプレー、ツッツキ打ち、レシーブ等のときはロングとは反対に外側へむくような感じから、ラケットの先端を思い切り回して、フィニッシュにはラケットの面が内側へむくようになります。ドライブ主戦の選手にネットプレー等の台上のボールの処理のへたな人が多いのを見て、ラケットの角度と大いに関係があるのではないかと思います。
もう一つはバックスイングが大きく、ラケットが台の面より相当下へ下りているのにも原因があると思います。ですから、構えるときはラケットを台より高い位置で構えると良いわけです。
すべての試合がそうであるように、試合を左右するのは、ほとんどサービス・レシーブにあると思います。サービス・レシーブの練習の比率は多くとらなければいけないと思います。サービス・レシーブのような地味な練習は自然と少なくなり、ただ漫然とフォアハンドを長時間練習して、その後どうしてもおもしろい練習ゲームへと移行する人たちが意外と多いのではないかと思います。練習ゲームも一つの大切な練習ですが、それ以前の部分練習、サービス、レシーブ、ショート、ツッツキ、スマッシュ等、試合にはたくさんの技術を要する場面がでてきます。ゲームをする前にそれらの練習をあまりにも粗末に扱っていないかもう一度考えなおしてみてください。ゲームはそれらの集まりからできているものです。
◇きょうの練習をあすの試合に役立てる
だれもいない練習場で1対1の練習をしているときが私には一番精神的に充実できます。だからおのずからそれを求めるには朝早くか、夜遅くを自分の技術開発、戦術面を考えながらの練習にあてました。たとえばサービス、レシーブ、カット打ちと試合で最も重要な部分をとり出してやったものです。幸い私の高校、大学時代は練習時間の制限がなかったので、納得のゆくまでそれらの技術を追求することができました。
新しいもの、新しいものをと追い求めた結果、サービス、レシーブなどの細かな技術は非常に多種多様に収穫できました。その反面、どのような相手と対戦しても同じ作戦で押し通せるという徹底した技術、一本しんの通った作戦をとれる技術を得ることができませんでした。一つの技術を自分のものにするとき、まず最初にその技術が実際の試合で使用できるものか、通用するものかを考えることがまず第一条件だと思います。また、ある技術からその他の面へ発展させることも必要になってきます。すなわち応用をきかすことです。たとえばサービスを出すにしても、同じフォームで何種類ものサービスを出せることが、相手の考える回路を複雑にさせ迷いを生じさせることにもなります。
終わりにみなさんに忠告したいことは、考える時間を持つことが、卓球の上達過程において大切だということです。技術練習の時間が長ければ長いほどよいことはもちろんですが、練習時間外において卓球に関することを考える時間も長ければ長いほどその上達は早くなると思います。学校、練習場へ行く道、帰り道、電車の中、勉学以外の時間をほかのことで費やしているのなら、卓球に関連させたり、卓球に関することを考えていったほうがよいと思います。
「きょうの練習ゲームにでてきたことをあすの試合に役立てよう」と私は考えました。考えている間は卓球に対する希望がわいてくるものです。練習の帰りの電車の中で、きょうの練習内容の良否、明日の練習予定、ラケットの角度、打球点のこと、他人のフォームの良い点などいろいろと考えをめぐらしたことが、私の卓球に大いに役立ったと思います。
みき けいいち 中大出、中大女子監督。YSP勤務。
右利き、ペン(3枚合板)、裏ソフトの攻撃選手。
身長172センチ、体重60キロ。趣味は、音楽とスポーツ。
昭和37年度全日本選手権者。’61年、’63年世界選手権日本代表。
(1968年1月号掲載)