卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
初回シリーズは、水谷隼(木下グループ)が全日本卓球選手権大会(以下、全日本)で繰り広げてきた激闘を厳選し、紹介している。
今回は、張一博(琉球アスティーダ監督/当時 東京アート)との平成21年度(2010年1月)全日本男子シングルス準決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
張の鉄壁のブロックに追い込まれる水谷
タイムアウト後に見せた渾身のプレーは必見だ
水谷隼は、平成20年度(2009年1月)全日本男子シングルス準々決勝で盟友・岸川聖也(ファースト/当時 スヴェンソン)との対決を制し、その勢いのまま3連覇を果たすと、その年の5月に行われた世界卓球選手権横浜大会(個人戦)では、岸川と組む男子ダブルスで3位に入り、日本男子に12年ぶりのメダルをもたらす。
国内だけでなく国際大会でも結果を出し、日本の第一人者としての地位を確実なものにした水谷は、4連覇を目指して平成21年度の全日本男子シングルスに臨んだ。
水谷の優勝は堅い。そう卓球ファンや関係者の多くが予想する中、水谷は準決勝の張一博戦で、またも大苦戦を強いられる。
張は、水谷より4歳年上の青森山田学園OBで、戦型も水谷と同じくサウスポーのシェーク攻撃型だ。張の、どんな攻撃もはね返す攻防一体のバックハンドは、当時「鉄壁」と評された。
試合は、序盤から激しい打撃戦になるが、水谷は張に徐々にペースを奪われる。
水谷の動きや体のキレは決して悪くないが、それ以上に張の鉄壁のバックハンドを柱とした両ハンド攻守にミスが出ない。効果的な得点パターンが見いだせない水谷は、サービスの配球を工夫し、打球に緩急をつけるなど、手を尽くして打開を試みるが、動じない張に追い込まれてしまう。
「水谷の連覇はここで途切れるのではないか」。会場中にその予感が満ちた時、水谷の反撃が始まる。
ゲームカウント1-3、ポイント7-9と後がない場面で、タイムアウトを取った後の水谷のプレーに震えてほしい。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)