卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回から、チキータを武器に世界の頂点へと駆け上がった張継科(中国)の名勝負の数々を紹介していく。
初めに、2010年世界卓球選手権大会(以下、世界卓球)モスクワ大会男子団体決勝、中国対ドイツの3番、ズュースとの一戦をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
決勝の大一番に抜擢された張継科
初々しくもポテンシャルに満ちたプレーに注目
2012年ロンドンオリンピックで男子シングルス金メダルを獲得し、2011年と2013年の世界卓球で男子シングルス王者に輝くなど、一時代を築いた張継科。チキータを柱にしたプレーで世界を制した初の選手として知られ、現在のチキータの隆盛は、張継科が起源であると言っても過言ではないだろう。
張継科は、チキータを軸とした先進的なプレーで次々とビッグタイトルをつかんでいくが、世界卓球の団体戦はこのモスクワ大会が初陣だった。
当時の中国は、長く柱として支えてきたベテランの馬琳、王励勤、王皓のいわゆる「二王一馬」時代から若手への切り替えを急いでおり、張継科は世界卓球団体戦初出場にもかかわらず、決勝の3番に抜擢された。
余談になるが、この決勝では3番に王皓を起用する予定だったと、後に中国の劉国梁監督は明かしている。しかし、王皓の用具の状態に不安があり、オーダー提出の5分前に王皓から張継科に名前を書き換えたという。
思わぬアクシンデントから出番が回ってきた張継科だったが、そうしたチャンスを呼び込み、しっかり物にするところに、張継科という男が持つ宿運の強さを感じる。
中国対ドイツの決勝は、1番で馬龍がボルに敗れたが、2番の馬琳がオフチャロフを下し、勝ち星を分け合う展開で進む。
試合の流れを決定づける重要な3番に抜擢された張継科は、ズュースと対戦する。
ズュースは、ボルと共にドイツを支えてきた選手で、台から下がって派手に打ち合うタイプではなく、前陣での両ハンド攻守を得意とする。ドイツ代表としての経験も豊富で、初陣の張継科にとっては難しい相手だ。
試合が始まると、大舞台での起用でやや硬さが見られる張継科はズュースに先行を許す。しかし、徐々に持ち味であるチキータからの両ハンドドライブでペースを握る。
序盤の初々しさや、試合が進むにつれてにじみ出てくる風格など、張継科のフレッシュさやポテンシャルが味わえる一戦だ。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)