卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、女子離れしたパワフルな両ハンドドライブで活躍したボロシュ(クロアチア)の名勝負を紹介している。
最終回は、高軍(アメリカ)との2003年世界卓球選手権(以下、世界卓球)パリ大会女子シングルス準々決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
表彰台の前に立ちはだかる元中国代表の高軍
メダルを切望するボロシュの必死の攻めは感動必至!
女子シングルス4回戦でバデスク(ルーマニア)とのゲームオールの接戦を制し、ベスト8入りしたボロシュ。
メダルをかけて準々決勝を争うのは、高軍だ。
高軍は、1990年代前半に中国の主軸として活躍し、その後、アメリカに帰化した経歴を持つ選手だ。中国伝統の左押し右打ち(バックハンドはショート、フォアハンドはスマッシュ)のスタイルを踏襲した右ペン表ソフト速攻型で、無駄のない、非常にスマートなプレーを身上とする。
このパリ大会では、中国の中軸を張っていた頃と比べれば力は落ちているとはいえ、技の精度の高さは健在だ。むしろ、勝利を義務付けられた中国から離れたことで肩の力が抜け、円熟味が増した印象がある。4回戦で韓国期待の金璟娥のカットを完璧に攻略し、ベスト8まで勝ち上がってきた。
ボロシュのパワーか。それとも、高軍のテクニックか。好対照の両者の準々決勝は、互いが持ち味を存分に発揮しながら白熱していく。ボロシュがパワードライブで抜き去ったかと思えば、鉄壁のブロックから機を見たスマッシュで高軍が返す。
一進一退の攻防が続くが、「目標は、オリンピックか世界選手権大会でメダルを取ること。これはヨーロッパ選手にとってはなかなか難しいことで、今までもあまりいないんです。これが私にとっては大きな目標であり、夢でもあります(卓球レポート2001年8月号より抜粋)」と語っていたボロシュが、悲願に向けて執念を見せる。
高軍にどれだけ止められようといなされようと、夢のメダルを切望し、腕よ、もげよとばかりに両ハンドを振り続ける、ボロシュの懸命さが胸にじんと迫る名勝負だ。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)