卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今回から、日本人選手として初となる全国高等学校卓球選手権大会(以下、インターハイ)男子シングルスで三連覇を果たした岸川聖也(ファースト/当時 仙台育英高)の偉業までの軌跡をたどりたい。
初めに、下山隆敬(当時 大阪桐蔭高)との平成15年度(2003年)インターハイ男子シングルス決勝をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
初陣で男子シングルス決勝へ勝ち上がった岸川
1年生とは思えない完成度の高いプレーでペースを握る
2020年全日本卓球選手権大会で、全日本への出場を最後にすると表明し、選手として一つの区切りをつけた岸川聖也。卓球レポートでは、長年にわたって日本を支えてきた岸川の名勝負を数々ストックしているが、その中から、今シリーズではインターハイ男子シングルス三連覇にスポットを当てたい。
インターハイの男子シングルスは、平成9~11年(1997~1999年)に中国からの留学生だった宋海偉(青森山田高:現 吉田海偉/東京アート)が初めて三連覇しているが、日本人としては岸川が初である。
ちなみに、岸川以降、インターハイ男子シングルスを三連覇した選手は、現在まで出ていない。
カテゴリーを問わず、大会が軒並み中止になっている現状だが、岸川の偉業を通して、夏の大会の雰囲気をわずかでも味わっていただけたら幸いだ。
岸川が初めてインターハイに出場したのは、平成15年度(2003年)の長崎インターハイだ。
中学時代からドイツに渡って腕を磨き、スーパールーキーとしてインターハイにデビューした岸川は、男子学校対抗で前評判にたがわぬ力を見せ、仙台育英高を優勝に導く。
その勢いで、男子シングルスに臨んだ。
インターハイ三連覇という目標は、実感を伴って設定するのがなかなか難しいが、仮に本気でそれを目指そうとするなら、言うまでもなく、高校1年生のインターハイが鬼門になる。高校生はさまざまな面で成長スピードが速いため、高校1年生と3年生とでは心技体に大きな開きができるからだ。
当時、岸川自身が「年上に強い選手がたくさんいたので、シングルス優勝は考えていませんでした(卓球レポート2005年10月号より抜粋)」と振り返っているように、長崎インターハイの男子シングルスは、是が非でも優勝を狙うというより、どこまで勝ち上がれるか自分を試そうというのが正直な気持ちだったろう。
しかし、岸川はドイツ仕込みのスムーズな両ハンド攻守で、準々決勝で時吉佑一(東山高)、準決勝では村守実(青森山田高)と、当時の高校卓球界を代表する選手たちを連破し、決勝まで勝ち上がった。
決勝で対戦する相手は、下山隆敬だ。バック面に表ソフトラバーを貼るシェーク異質攻撃型のサウスポー(左利き)で、変化の激しいサービスと、快足を生かした切れ味鋭いフォアハンドドライブを武器に決勝まで勝ち上がってきた。
ラブオールの声がかかると、岸川は下山の変化サービスに手を焼くが、1年生らしからぬ冷静な試合運びと確かなテクニックで要所を物にし、試合の主導権を握っていく。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)