卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、独自性の高いテクニックと大胆な戦術で世界の頂点をつかんだシュラガー(オーストリア)の名勝負を紹介している。
今回は、金擇洙(韓国)との2003年世界卓球選手権(以下、世界卓球)パリ大会男子シングルス4回戦をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
ペンドラの雄・金擇洙と対峙したシュラガー
コース取りと大胆なサービス・レシーブに注目
男子シングルス2回戦で、苦手としていたカット主戦型の松下浩二(当時 ミキハウス)をストレートで下したシュラガー。続く3回戦ではバランスのいい両ハンドが持ち味のグルイッチ(当時 ユーゴスラビア)をゲームカウント4対1で退け、4回戦へ順当に勝ち上がった。
余談になるが、このパリ大会は、それまでの1ゲーム21本制から現在の11本制へルールが変わって初めて行われた世界卓球である。大会前は、慣れない11本制による波乱が予想されたが、男子シングルスはその予想が的中する展開になった。
第1シードで優勝候補の大本命との呼び声高かったボル(ドイツ)は、2回戦で若手の邱貽可(中国)に敗れた。そのほか、ワルドナーやパーソン(いずれもスウェーデン)、ガシアン(フランス)、ロスコフ(ドイツ)、プリモラッツ(クロアチア)ら、当時世界のトップに君臨していた有力選手たちが1~2回戦で次々と敗退。男子シングルス32シードのうち、シードを守って3回戦へ進んだ選手は半分にも満たなかったという、過去に例のない大会になった。
スポーツに限らず、どんな分野でも大きなルール改定後は波乱や混乱が起きやすいものだが、実績や経験があるほど、それにとらわれて足元をすくわれやすい。
ルール改定後の未知数の大会をシュラガーが制したという事実は、それだけ彼のメンタルや適応能力、ゲームプランニングが充実していたことを示すものだろう。
本題に戻る。シュラガーは4回戦で金擇洙(韓国)と対戦する。
ペンドライブ型の金擇洙は、素早いフットワークからの強烈なフォアハンドドライブが持ち味で、長年にわたって強豪韓国を牽引してきた選手だ。パリ大会当時は30歳を越えていたが、その力はいまだ世界のトップレベルにある。
3回戦では実力者のコルベル(チェコ)をストレートで下して勝ち上がってきており、状態は良さそうだ。
高い攻撃力を誇る両者の試合は、サービスからの3球目やレシーブからの4球目など、早い段階で厳しく仕掛け合いながらカウントが進む。
激しい競り合いが繰り広げられる中、シュラガーが徹底したバック攻めで金擇洙の足を封じ、要所での思い切ったサービス・レシーブで試合の主導権を握っていく。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)