卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、全日本卓球選手権大会で繰り広げられた記憶に残る名勝負を紹介している。
今回は、平成24年度(2013年1月)の全日本卓球選手権大会(以下、全日本)男子シングルス準々決勝、松平健太(ファースト/当時 早稲田大)対岸川聖也(ファースト/当時 スヴェンソン)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
優勝候補に名を連ねる松平健太と岸川聖也が
テクニックの限りを尽くして激しくぶつかり合う!
全日本の激闘と銘打つと男女シングルスの決勝戦が真っ先に思い起こされるが、もちろん決勝以外のラウンドでも記憶に残る激闘は繰り広げられてきた。
それらの中から、平成24年度全日本男子シングルス準々決勝、松平健太対岸川聖也の激闘を紹介したい。
この年の全日本は、前年(平成23年度全日本)に絶対王者として君臨し続けてきた水谷隼(木下グループ/当時 明治大)がノーマークだった吉村真晴(愛知ダイハツ/当時 野田学園高)に逆転で敗れるという衝撃的な決勝を目撃したことにより、多くの選手が「俺にもチャンスがある」と優勝をより身近な目標として捉え、男子シングルスに臨んでいた。
そうした混戦模様の中、松平と岸川が準々決勝で激突。優勝候補に名を連ねていた二人の対決に、場内の視線が集中した。
2006年世界ジュニア卓球選手権カイロ大会男子シングルス優勝を皮切りに、数々の成績を残してきた松平は、5回戦で実力者の坂本竜介(T.T彩たま監督/当時 協和発酵キリン)、6回戦で期待のカット主戦型・村松雄斗(東京アート/当時 JOCエリートアカデミー/帝京)を下し、順当にベスト8まで勝ち上がってきた。
前年ベスト4まで勝ち上がったものの準決勝で吉村に敗れた松平には、その雪辱を晴らしつつ、さらに上を目指そうという気概が満ちていた。
対する岸川も、5回戦で有延大夢(リコー/当時 野田学園高)、6回戦で優勝候補の一人だった高木和卓(東京アート)とのゲームオールの大激戦を切り抜けてベスト8まで勝ち上がってきた。
ドイツを拠点にしながら日本男子の柱として実績を積んできた岸川は、この前年に行われた2012年ロンドンオリンピックで、当時の日本人としては史上初の男子シングルスベスト8という成績を上げており、選手として脂が乗っている。ベスト8で終わる気は当然ない。
実力、実績とも十分な両者の対決は、予想にたがわず激闘になる。
松平がため息の出るような台上さばきからカウンターを決めれば、岸川も負けじと得意のバックハンドで鮮やかにポイントを奪う。
ハイレベルな両者の攻防は、卓球ファンの期待に応えるかのように技の限りを尽くしながらもつれていく。
試合内容の素晴らしさはもちろんだが、激闘を終え、岸川が「いい勝負だった、強くなったな」と言わんばかりのすがすがしい表情で年下の松平の背をポンポンとたたくシーンが、実にさわやかな視聴感を残す名勝負だ。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)