卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズは、豪快なプレースタイルで「小さなヘラクレス」と称されたクレアンガ(ギリシャ)の名勝負をお届けする。
最終回は、陳衛星(オーストリア)との2003年世界卓球選手権(以下、世界卓球)パリ大会男子シングルス準々決勝を紹介して今シリーズを締めくくろう。
■ 観戦ガイド
世界卓球のメダルという偉業に向けて
クレアンガが難敵の陳衛星に挑む!
男子シングルス4回戦で優勝候補の一角・サムソノフ(ベラルーシ)との激しいラリー戦をゲームオールでくぐり抜けたクレアンガは、ベスト8へ進出した。
続く準々決勝でクレアンガがメダルを懸けて対峙するのは、陳衛星(オーストリア)だ。
陳衛星は中国からの帰化選手で、フォア面に裏ソフトラバー、バック面にツブ高ラバーを貼るカット型である。カットするのはバックカットのみで、フォアハンドはカットせず、ドライブやカーブロング(ドライブに対して、台から離れた位置からボールの少し横を捉えてつなぐ技術)などでプレーを組み立てるのが特徴だ。
現在、ヨーロッパで活躍しているカット型は、ジオニス(ギリシャ)やフィルス(ドイツ)などに代表されるように、「カットはバックカットのみで、フォアハンドは攻撃かカーブロング」というスタイルが主流だが、彼らに大きなインスピレーションを与えたのが陳衛星だといえるだろう。
陳衛星は4回戦で優勝候補の一角と目されていた中国期待の若手・王皓にゲームオール9本で競り勝ってきており、勢いに乗っている。
クレアンガにとって、変則的ともいえるプレーを持ち味にするカット型の陳衛星は未知数の相手だ。
その剛腕でクレアンガが陳衛星を打ち崩すのか。それとも、陳衛星の変則スタイルがクレアンガを翻弄(ほんろう)するのか。
ここまでの両者の勝ち上がりぶりから、好勝負が予想される中で始まった男子シングルス準々決勝だったが、陳衛星の揺さぶりを物ともしないクレアンガが序盤から剛腕を炸裂させて、メダルをたぐり寄せていく。
クレアンガの通り名ともいえるヘラクレスといえば、その怪力によって12の難行を成し遂げたギリシャ神話最大の英雄とされる。
亡命という大きな決断から14年という年月を経て、世界卓球のメダルを成そうとラケットを豪快に振り続けるクレアンガのひたむきなプレーは、神話の英雄を連想させるに十分なものだろう。
(文中敬称略)
(文/動画=卓球レポート)