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卓レポ名勝負セレクション 
日本代表 メダルの歴史 Select.2

 卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
 今回は、2021年世界卓球選手権ヒューストン大会を目前に控えた日本代表へのエールを込めて、過去の日本代表が世界卓球でメダルをつかみ取った名勝負を取り上げていく。
 第2回は、2009年世界卓球選手権横浜大会男子ダブルス準々決勝、水谷隼(木下グループ/当時 明治大・スヴェンソン)/岸川聖也(ファースト/当時 スヴェンソン)対 ガオ・ニン/ヤン・ズィ(シンガポール)の名勝負をお届けしよう。

■ 観戦ガイド
若き日の水谷と岸川が超満員の横浜アリーナで躍動!
日本男子復権のルーツを見逃すな!!

 日本男子は、渋谷浩と松下浩二が男子ダブルスで銅メダルを獲得した1997年世界卓球選手権マンチェスター大会以降、世代交代に苦しみ、しばし雌伏の時を余儀なくされた。
 しかし、渋谷/松下が銅メダルを獲得した12年後、自国開催となった2009年世界卓球選手権横浜大会男子ダブルスで、日本の若き才能が卓球ニッポン復活ののろしを上げる。

 男子ダブルス準々決勝でメダルに挑むのは、水谷隼と岸川聖也の二人だ。
 中学時代から海外に渡り、技と経験を磨いてきた二人は、世界の舞台でも臆することなく堂々たるプレーを展開し、2回戦で金廷勲/李鎭權(韓国)、3回戦でモンテイロ/ツボイ(ブラジル)を下し、順当ともいえるベスト8入りを果たす。
 メダルを懸けた準々決勝の相手は、ガオ・ニン/ヤン・ズィだ。経験豊富で打ち合いに強いペアだが、水谷/岸川は勝ち越しており、やりにくい相手ではない。
「地元開催の世界選手権大会ですごいことをしたい、この試合に勝てればヒーローになれるぞって気持ちでした/水谷」「僕も同じです。このチャンスを絶対に生かそうと思いました/岸川」(ともに卓球レポート2009年7月号より)と意気込む二人は、横浜アリーナに詰めかけた1万人を超える大観衆の前でのメダル獲得を決意する。

 試合が始まると、台上からの展開と攻守のバランスで勝る水谷/岸川が、大観衆の後押しも受けてゲームカウント3対2とリードする。しかし、アウェーとはいえ、メダルを目前にして簡単に負けられないシンガポールペアも自慢の強打で食い下がり、第6ゲームは一進一退の攻防が続く。
 そして、ポイント8-9と水谷/岸川が1点ビハインドで迎えた場面で、当時の卓球ファンの間で語り草になっている出来事が起こる。

 サーバーはヤン・ズィでレシーバーは水谷。ショートサービスに対して水谷がガオ・ニンのバック前にストップレシーブしたボールが、台の端をかすめて入った。しかし、水谷のボールはなぜかオーバーしたと判定され、シンガポールペアに得点が入ってしまう。
 日本ペアにとって、ポイント9-9で追い付くのと、ポイント8-10でシンガポールペアにゲームポイントを握られてしまうのとでは天と地ほどの違いがある。水谷と岸川は必死に入っていたことをアピールするが、審判もシンガポールペアも認めない。それでも抗議をやめない日本ペアの懸命な姿はメダルがいかに重いものかを物語っていたが、彼らの長時間にわたる抗議の裏には、そんな単純な感想ではくくれない、恐るべき戦略が隠されていた。
 後日、「(判定が覆るのが)無理だとわかっていても、抗議を続けたのはなぜですか?」という質問に対し、水谷は次のように答えている(卓球レポート2009年7月号)。
「僕たちのリズムというより、相手のリズムを崩すチャンスでもあると思ったんです。僕のボールがエッジで入っているのは、なにより目の前にいた彼らがわかっている。ガオ・ニン選手に『入っているだろう』と確認しても否定しましたが、彼らもスポーツマンですから、心の底に罪悪感が芽生えたはずなんです。天井のスクリーンには繰り返し映像が流れますし、観客も僕らを支持してくれる。中断が長引けば長引くほど、あのプレーを引きずるのは彼らの方だと思ったんです/水谷」
 抗議の裏に心理戦の罠(わな)を仕掛けた水谷と岸川は、理不尽な判定をものともせず、メダルに向けて猛然と追い上げを開始する。
 
 この横浜大会以降、水谷と岸川は長きにわたって日本男子の屋台骨を支え続けることになる。いわば、日本男子復権のルーツともいえる名勝負をとくと味わってほしい。
(文中敬称略)

(文/動画=卓球レポート)

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