卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズでは、2月に韓国の釜山で開催された第57回世界卓球選手権大会団体戦(以下、世界卓球2024釜山)で繰り広げられた激闘の軌跡をたどる。
第2回は、女子団体グループリーグ中国対インドの3番、アクラ(インド)対王芸迪(中国)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
最強中国を襲ったセカンドインパクト
アクラが充実のプレーで世界2位を後手に回す
優勝候補筆頭の中国は、グループリーグ初戦でインドと対戦。危なげなく勝利し、6連覇へ向けて好スタートを切るかに思われたが、トップで、フォア面に表ソフトラバー、バック面にアンチラバー(摩擦力が少なく、相手の回転の影響を受けにくいラバー)を貼るA.ムカジー(インド)の変化プレーにエースの孫穎莎(中国)が敗れるという、まさかのスタートになった。
世界女王がグループリーグ初戦のトップでいきなり敗れる衝撃の展開に場内が騒然としたが、2番で王曼昱(中国)がインドのエース・バトラに勝利し、すかさず中国が追い付く。
1番で孫穎莎がまさかの敗戦を喫したとはいえ、層の厚さでまさる中国がさすがに勝つだろう。そんな大方の見立てをよそに、3番で再びの衝撃が中国を襲う。
中国の3番は王芸迪。世界ランキングは孫穎莎に次いで2位(大会時)と、中国の団体戦メンバーに選ばれるまでに力をつけてきた。前陣でのラリー戦を得意とし、特にバックハンドの安定感や多彩さは世界随一と評される。
対するインドは、アクラを起用してきた。アクラは、フォア面に裏ソフトラバー、バック面にツブ高ラバーを貼るシェーク異質型で、2022年、2023年インド国内選手権女子シングルス連覇、2024年1月に行われたWTTフィーダー コーパス・クリスティ優勝という実績があり、世界ランキングは49位につけている(大会時)。
インドチャンピオン、WTT優勝という実績があるとはいえ、実力と実績からして王芸迪が圧倒すると見られた一戦だったが、ふたを開けてみるとアクラが素晴らしいパフォーマンスを見せる。
試合は、ツブ高ラバーでの変化からフォアハンドドライブにつなげるプレーが面白いように決まるアクラが序盤からペースを握る。
一方、最強中国の団体戦のオーダーに名前を書かれて負けるわけにはいかない王芸迪も懸命の両ハンドで対抗するが、アクラがツブ高ラバーから繰り出してくるボールをドライブで持ち上げればカウンターを浴び、ツッツキでつなげばパワードライブを食らうという負のスパイラルから抜け出すことができず、徐々に追い込まれていく。
一般に、ツブ高ラバーを貼る選手は、ツブ高ラバーで変化をつけた後の攻撃手段としてスマッシュを使うことが多いが、アクラはスマッシュはほとんど使わず、もっぱらフォアハンドドライブで攻撃を行う。素早いフットワークから放つアクラのフォアハンドドライブはダイナミックで、その迫力や球威は中国や日本の選手たちと比べても遜色がない。加えて、ツブ高ラバーでの変化の付け方も実に多彩で安定感がある。
これまであまり知られてこなかったアクラだが、彼女が見せたシェーク異質型の1つの理想型ともいえるプレーからは、大きな刺激が得られるはずだ。
(文中敬称略)
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(文/動画=卓球レポート)