卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズでは、2月に韓国の釜山で開催された第57回世界卓球選手権大会団体戦(以下、世界卓球2024釜山)で繰り広げられた激闘の軌跡をたどる。
今回は、男子団体グループリーグのドイツ対カザフスタンの4番、ゲラシメンコ(カザフスタン)対ダン・チウ(ドイツ)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
追い込まれてからのゲラシメンコの
戦術転換が光る注目のエース対決
世界卓球2024釜山でカザフスタンのエースとして並み居る強敵を相手に堂々たるプレーを見せ、大きな存在感を放ったのがゲラシメンコだ。
グループリーグのドイツ戦では0対1で回ってきた2番でオフチャロフと対戦。丁寧な台上プレーと緩急をつけた両ハンドで格上のオフチャロフを破り、試合を振り出しに戻した。
続く3番はケンジグロフがフランチスカに敗れ、カザフスタンが1対2とドイツに王手をかけられたところでエース対決を迎える。
ゲラシメンコが4番で対峙(たいじ)するドイツのエースはダン・チウ。2022年ヨーロッパ選手権ミュンヘン大会男子シングルス優勝を筆頭に、2022年、2023年のドイツ選手権大会男子シングルスを連覇するなど華々しい結果を残し、強豪ひしめくドイツのエースへと上り詰めた選手だ。
裏面に裏ソフトラバーを貼るペンドライブ型で、派手さはないが、安定感抜群の両ハンドをベースに着実に得点を重ねていくプレースタイルは、まさに質実剛健。名将と名高い邱建新氏を父に持ち、その薫陶を受けたことによって戦術能力や対応力も高い。
ダン・チウが試合を決めるか。それとも2番でオフチャロフを破ったゲラシメンコが、その勢いでラストに望みをつなぐのか。
注目のエース対決は、ダウ・チウが主導権を握る。前陣での攻めが厳しいダン・チウに対しては、ストップやツッツキが少しでも甘くなると先手を奪われると考えたためか、2番のオフチャロフ戦に比べるとチキータ(台上のボールをバックハンドドライブする技術)を多めに使って攻略を試みるゲラシメンコだが、ダン・チウにことごとく対応されて2ゲームを連取され、追い込まれてしまう。
ダン・チウの盤石のプレーぶりから勝負あったかに思われたが、しかし、ゲラシメンコが第3ゲームから、2番でオフチャロフを下したストップ中心の丁寧な台上プレーに立ち返る戦術転換で猛然と追い上げを開始する。
結果的に、このエース対決をゲラシメンコが逆転で制して望みをつなぐも、5番でクルマンガリエフがオフチャロフに敗れてカザフスタンの勝利とはならなかった。しかし、強豪ドイツから2点取りしたゲラシメンコのプレーは、世界卓球2024釜山における序盤のハイライトの1つだ。
日本選手と似た体格とフォームのゲラシメンコのプレーには、参考になる部分が多い。ぜひ、今回のダン・チウ戦と前回のオフチャロフ戦の2つの名勝負をじっくり観察して、レベルアップに役立ててほしい。
(文中敬称略。年齢、世界ランキングは大会時)
↓動画はこちら
(文/動画=卓球レポート)