卓球レポートは国内外のさまざまな大会へ足を運び、およそ半世紀にわたり、あまたの熱戦を映像に収め続けてきた。その膨大な映像ストックの中から、語り継がれるべき名勝負を厳選して紹介する「卓レポ名勝負セレクション」。
今シリーズでは、2月に韓国の釜山で開催された第57回世界卓球選手権大会団体戦(以下、世界卓球2024釜山)で繰り広げられた激闘の軌跡をたどる。
今回は、男子団体グループリーグのイラン対エジプトの4番、ノシャド・アラミヤン(イラン)対O.アサール(エジプト)の名勝負をお届けしよう。
■ 観戦ガイド
No.アラミヤンが衝撃のプレースタイルで
アフリカの雄とのエース対決に挑む
今の男子のトップ選手は、そのほとんどが精度の高いチキータ(台上のボールをバックハンドドライブする技術)と両ハンドプレーを身に付けている。そのため、画一的なプレースタイルになりがちだが、ロングサービスとツッツキからのカウンターを得意とするF.ルブラン(フランス)や、世界随一のバックハンドを誇る張本智和(日本)など、勝つ選手たちはそれぞれ独自色が濃い。
そうした中にあって、ひときわ異彩を放つのが、今回取り上げるNo.アラミヤンだ。
No.アラミヤンが異彩を放つ理由は、ほとんどのボールをバックハンドでカバーするからだ。フォアハンドとバックハンドの両ハンドを磨かないと勝てないとされる現代卓球において、ほぼバックハンドしか使わないそのプレースタイルは異様であり、まさに唯一無二である。その特異性に加え、サービスも強力で、世界のトップ選手たちがレシーブミスを繰り返してしまうほど変化が激しく、回転が強い。
昨年9月に行われたアジア競技大会の男子団体ではエースとしてイランをけん引し、準々決勝の日本戦では戸上隼輔を下してチームを勝利に導き、イラン史上初の銅メダル獲得に大きく貢献している。
今大会でもNo.アラミヤンを柱に上位をうかがうイランは、グループリーグでエジプトと対戦。2対1とイランがリードして迎えた4番でNo.アラミヤン対O.アサールのエース対決を迎えた。
O.アサールは、190センチを越える長身を生かしてラリー戦を得意とする。世界卓球2023ダーバンの男子シングルスでは並み居る強敵をラリー戦で打ち負かしてベスト8まで勝ち上がるなど実績も十分で、アフリカを代表する選手だ。
試合は、No.アラミヤンが得意のサービスからアグレッシブなバックハンドで攻め立てるが、O.アサールも長いリーチを生かして食らいつき、離されない。エース同士の意地のぶつかり合いは最終ゲームまでもつれたが、No.アラミヤンが強烈なYGサービス(逆横回転系サービス)を起点にラストスパートをかける。
一般的に考えれば、高速化の一途をたどる現代卓球においてバックハンドだけで戦えるはずがない。ましてや、世界卓球ではなおさら不可能ではないか。
そんな常識を覆すNo.アラミヤンのプレーに、大きな衝撃と刺激を受けること間違いなしの名勝負だ。
(文中敬称略)
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(文/動画=卓球レポート)